ホシツキ@フィクション

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9/20/2022, 12:10:08 PM

出産して6ヶ月。
季節は春から秋になっていた。

『あんなに小さかったのに、もうこんな大きくなって…』

寝ている我が子を見て、感慨深くなる。

『肌寒かったり、暖かかったり、中途半端な時期に出産したから退院時の我が子の洋服に迷ったっけ…』

結局寒かったらいけないと思い、その時薄手の長袖を着せた。

「赤ちゃんなんてすぐ大きくなるんだから、大きいサイズを買っときなさい」
という母からの助言で買った80サイズの洋服。

『当時はぶかぶかだし、手まですっぽり隠れてたから袖まくったんだよね…』
ふふっと笑みがこぼれる。

6ヶ月経った今、少しだけ肌寒い秋にぴったりの薄手の長袖。
我が子のサイズにちょうど良くなった。

我が子が寝ているので、今のうちにと夏服を片付ける。
もう来年には着れないであろう夏服たち…。

『この服着せて、お盆に初めてお義母さんに会いに行ったな。…この服はパパと3人で初めてちょっと遠いところまでドライブ行った時のだ!……この服はお食い初めで――』

たった6ヶ月のはずなのに、思い出がたくさん詰まった洋服たち。
どの服もたくさん着て、買った時よりも布地が柔らかくなっている。

『捨てたくないなぁ…』

2人目は考えていなかったし、もし仮に妊娠したとしても上の子と性別も違うかもしれない。

ほかのママさんたちに聞いたら、ブランド物なら売ったり、親戚の子におさがりであげたりしていたらしいが
私が買っているほとんどの服は西松屋だ。
それにクタクタになっていて人様にあげれるような状態では無い。

『そうだ!リメイクしてポーチにしよう!』

不器用で今まで手作りで小物など作ったこともないのに、
ふとそう思い立ち、入れたっきり出したことの無い裁縫箱を棚から取り出した。

型紙もなく、知識も家庭科で習うレベルしかないが、一生懸命思い出を思い返しながら作った。

出来上がりはとてもいびつで薄っぺらく、上手とは言えないものだったが、私はとても満足感を得た。
それと同時に何故か自分が誇らしげに思えた。

その後も我が子が寝てからポーチを作ったり、星型に切ってキーホルダーにしたり、最終的には色んな服の布を使って大人の手のひらサイズの小さなクマのぬいぐるみまで作った。

お店に出せるわけがない出来だが、最初に比べると見れるものになった。棚に飾ったそれらを見て心がとても温かくなった。



お出かけする時にオムツなどを入れるママリュックにキーホルダーを付け、少しだけ上手に作れたクマのぬいぐるみは我が子の枕元に置いた。

夜中に起きた我が子が、そのぬいぐるみをあむあむ噛んでいたのを見てとても嬉しかった。


夏服は全て形を変え、私たちの生活に溶け込んでいったのだ。


―――きっと私はこれからも忘れないだろう。
一瞬一瞬を一生懸命生きている我が子を守って、彩ってくれたこの洋服たち。

形は変わっても、きっとこの洋服たちは誇らしく、我が子の成長を見守ってくれるだろう。

「ありがとう」と呟き、裁縫箱を片付けた。



【大事にしたい】~完~






我が子の成長は嬉しさと同時に、いつかは自立して自分達の元から離れていくカウントダウンと考えると少し切なくなりますよね。
でも自立していった時、きっと誇らしくなるでしょう。
ママさん、パパさんいつも頑張っていますね。お疲れ様です。


そしてまだ学生のあなた、今学校にバイトに何やかんや一生懸命頑張ってて偉いです。生きてるだけで立派です。親はそれだけでも嬉しいんです。普段言葉には出さないけどね笑
我が子の幸せが親の幸せ。何も大きなことを成し遂げなくてもいい。大手とか公務員とかそういうのにならなくてもいい。
あなたが突き進む道を応援する。
少なくとも私はそうです。

親を誇らしくするためだけではなくあなた自身も誇らしく親元を離れられるように生きていって下さい。それが願いです。


というちょっと上からでゴメンなさい(全力土下座)
私も母親という立場上、書きながら泣きそうなってしもた…

♡︎いつもありがとうございます。嬉しいです(*^^*)

9/19/2022, 1:08:14 PM

18時 彼の部活が終わる時間。もう少ししたら校門に来るだろう。

『一緒にかえろ…一緒にかえろ…』

と脳内で何度もそのセリフを呟く。


真夏の西陽が肌にじんわり染み込んでくる。
それと同時に汗もかいてきた。

すぅーはぁー、何度も深く深呼吸をする。

『きた…!』

何度も聞いた彼の笑い声。大丈夫、大丈夫、ちゃんと言える。

『一緒にかえろ!』

「佐藤くん、一緒に―――」
「―おお、伊藤さんじゃん。今帰り?」
「あ、うん、あの…」
「気をつけてねえ〜!んじゃまた明日!」
「また…」

私の目の前で彼は友人たちに別れを告げ、ひとり帰ってゆく。

あぁ、今日もダメだったなあ。

はぁ、とため息をつく。

『帰ろ』


彼と同じ方向に、彼と少し距離をとって歩く。
振り向かれたりしたら恥ずかしいので
ちょうど帰り道の途中にあるコンビニに駆け込んだ。
じんわり汗ばんだ肌をコンビニのクーラーが効いた冷たい空気が包み込む。


『あ、ガリガリ君…』

私は大好きなガリガリ君を買った。
コンビニを出るや否やすぐに開けてガリガリ君にかぶりつく。
「おいしい〜…!」

「あ、伊藤さんじゃん」
「…佐藤くん…」

最悪だ、アイスがっついてる所見られちゃった。

「伊藤さんもガリガリ君好きなの?」
「うん…」
「俺も好き!だから食べたくなって戻ってきたとこ!」
「そうなんだ」
「伊藤さん家こっち側?ちょっと待ってて、、一緒帰ろーぜ!」

思ってもいない言葉に、思わず目を見開く。

『え、え、え、佐藤くん…と?』

すぐに彼は出てきて、勢いよく袋を破る。
私よりもさらに豪快にガリガリ君にかぶりつき、
「んーーーっ!」と言葉にならない声を出す。

『「可愛い」』

あ、しまった。思ったことが思わず口からこぼれてしまった。
だってほんとに、可愛いなって思ったし…!

「…伊藤さん、ずる」
彼の耳が赤いのは暑さのせいか、照れているのか。おそらく両方だろう。

「そのセリフ、俺が言いたかったのに…」


ぽとり、と私のガリガリ君が地面へ落ちた。

“あたり“

カナカナカナカナ、二人の間には遠くの山のヒグラシの鳴き声が鳴り響いていた。


【時間よ止まれ】~完~




付き合う数秒前って1番ドキドキする時間ですよね。
お互いの気持ち分かってるけどあと一歩な時間。


いつも♡︎ありがとうございますm(_ _)m
すごい励みになってます!

9/18/2022, 12:05:43 PM

私はいわゆるド田舎出身だ。
しかも貧乏な家庭で育ったためか、物心ついたころにはケチだった。

苛められたし、凄く惨めで悔しい思いも沢山した。
勿論思春期には荒れたし、お金もないし頭も悪い。

当然高校には行けなかった。――否、行かなかった。

私には夢があった。
その為にはお金が必要なのだ。

若い女で、沢山お金が稼げる仕事。私は必然的に夜の仕事を始めた。
最初は隣町にある場末のスナック。

しばらく働いて、ある程度の貯金が貯まったらもう少し大きい街へ。

それを繰り返すこと3年。コンビニも車で1時間、電車も通ってなかったド田舎から
大都会、東京へ来た。


「さぁ、もうすぐ!!!」


だが東京は厳しかった。指名が全然つかない日々。

周りには可愛かったり美人でスタイルがいいのは当たり前で、それ以上のスキルを各々持っていた。
聞き上手、おだて上手に気配り上手、頭が切れる者や、博識で、難しい言葉でお客さんと深い話をしていたり…

田舎や地方では若さだけでチヤホヤとそこそこ売れてきた私は、東京では完全にお客さんの眼中に無かった。

東京にはこんなに沢山の人がいるのに、誰一人として私を見ない。

悔しい悔しい悔しい!!!!

『やっと東京まで来たのに!!』

道端に落ちていた空のエナジードリンクの缶を思い切り踏みつける。

私の夢まであと少しなんだ!お金持ちになって、タワマン住んで、今まで私のことを貧乏人と言ってきたアイツらを見返すために!!!



全てはお金!!お金こそ全てなのよ!!



そんな私がキャバクラを辞めて風俗嬢になるのは簡単だった。
“業界未経験”の“10代”は体入(体験入店)からかなり人気だ。

年齢のサバ読みなんて当たり前、スタイルの数字だってみんなサバ読み。嘘しか書いてない風俗のウェブサイトは見ていて落ち着いた。

誰も見てくれなかったキャバクラ時代と比べて、沢山の人に見られて、欲しがられて、心が満たされた。


本番アリのお店、もちろん避妊具なしの方が人気だしお金も入る。
その仕事を始めて1年で最終目標金額達成した。


――ついに、タワマンの高層階に住める!




「使用人、お茶を持ってきてよ!!ご飯はまだなの?フォアグラにキャビア、あと最高級のワインをお願いね!
あとシャネルの新作買いに行かなきゃ!!
ざまぁみろよ!!貧乏人のお前ら!ひれ伏しなさい!」


彼女は今真っ白で無機質な部屋にいる。
眼下にはだだっ広い駐車場が広がり、奥には山脈が見える。




「あの人、エイズの末期だって…」
「え?そうなの?」
「そうらしいよ、あの人、元風俗嬢らしいし…」
「ショックで頭おかしくなったのかな」
「さぁね、、末期の症状かもしれないね。でもこの病院に来た理由については知ってるよ」
「え?なに?」

「夜景が、見たくないんだって…」


【夜景】~完~




私は実は元風俗嬢でもあります。優良店だったので性病検査は最低月2回はあり、診断書を提出の上勤務してました。
全ての風俗嬢が性病を持っているわけではありませんし、私は風俗嬢は立派な職業だと思っています。
彼女らと話している時間が私にとって唯一素を出せる時でもありました。
……今何してるんだろうなあ?

皆様いつも♡︎ありがとうございます。これからもがんばってかいていきます。

9/17/2022, 12:37:07 PM

私は花が嫌いだ。
いつかは枯れてゆく。それも、人間が思っているよりも早く。
とても悲しい生涯だと。

『その儚さがいいって言う人多いもんな……花束なんて後々ゴミになるだけだし。』

こんなに花が嫌いになったのは――あの日からだ。

入院中、1人の友人が持ってきてくれた花束。
花瓶に入れて、ベッドの横の机に置いてもらった。
その後から友人どころか誰も見舞いに来なかったので、水は看護師さんが変えてくれていたが、最初の頃の華やかさはもう無かった。


最初こそ『綺麗だな』と思っていたが、日に日に弱々しくなっていく。


入院中で心細かったのもあるが、弱々しくなっていく花と自分が重なっているような気がした。

「お花、捨てておきますね。」

ある日看護師さんがそう言い、花瓶を持っていった。
戻ってきた空になった花瓶を見て、物凄く切なくなった。
そして私はしばらく入院生活を続け病気は治り、無事退院となった。



“久しぶりにドライブ行こう♪息抜き大事〜!”

見舞いに来てくれた友人からLINEが届いた。
休職していたし、暇だったのでドライブに付き合うことにした。


「どこ行くの?」
「ん〜?秘密〜」

車に揺られること1時間、着いたのはひまわり畑。

見渡す限りのひまわり。

「わぁ…!」
思わず口から漏れた言葉に、友人が反応する
「すごいでしょ〜?テレビで見てさ!近いし行きたいなーって思ってたんだよね〜♪」

その後も友人は喋り続けるが、
友人の言葉はあまり耳に入ってこなかった。

風に揺られるひまわりが、こっちに手を振って、踊り、歓迎しているようにも見えた。

『1輪1輪が、、生きてる。』

花は単に、人間を一時喜ばせるだけの言わば嗜好品のような存在だと思っていたが、
人間の世界があるように、花の世界もあるのかと、新しい発見をしたかのような衝撃を受けた。

―――花は悲しい、可哀想だと…私はエゴを押し付けていただけだ。



命あるものなら終わりは来る。
ただ花は人間よりも早く終わりが来るだけなのだ。


大切な人が亡くなると、故人をしのび、いつか天国でまた会える。と言う話になるだろう。
花も同じなのか、枯れても、また咲き乱れる。またここで会える。


今を一生懸命生きている花たち。


私も、そう生きていけることが出来るかな。
この花畑の中の1輪みたいに、高く強く。
ひまわりのように、上を向いて―――。



【花畑】~完~


読んでくださりありがとうございます。

あと昨日のいきなりの最終話、思ってた以上に♡︎が来てびびっております…!
本当にありがとうございます。

終わった理由としましては、元々結末を決めてたのがありますが、
昨日のお題を見て「ウワアア今日終われってことお!?」
となりまして…!
でも今日のお題からの何やかんや(?)の最終回が良かったです…

なんのお題がくるか分からないのも面白さの中のひとつですね。

9/16/2022, 12:03:07 PM

私は夢を見ていた。

深い深い海の底を泳ぐ夢だ。
そこでの生活も悪くは無かったが、元々は海面の近くに住んでいたからか、光が恋しくなった。

上へと向かおうとするが、いくら泳いでも光は見えない。

息も苦しくなってきた。もうだめ…と思った瞬間、上から誰かが泳いできた。

その男は私の手を取り、上へ上へとぐんぐん泳ぐ。

光が見えてきた。「助かった」と呟いた。
水面へ勢いよく出る。
強い太陽の光に思わず目を瞑り、ゆっくりとまぶたを開いた。

少し離れたところに砂浜が見えた。自分の両親が呼んでいた。

「お父さん!お母さん!」

私は急いで浜へと向かう。
両親は笑って、私を抱きしめた。

彼の存在を思い出し、バッと振り向くと、男がこちらに手を振っていた。

私は「こっちだよ!」と叫ぶ。
男がこちらに向かって泳いできたが、一向に進んでいないようだ。
『助けなきゃ』
海に入ろうとするが、両親が私の手を掴んで離さない。
「お父さん!お母さん!離して!あの人を連れてこないと!!私を助けてくれたの!」
両親に向かって叫び、また海の方へ目を向ける。


――そこに男はいなかった。

私はそこで目が覚めた。涙がポロリと目尻をつたい、耳の中に入っていく。その感覚がまだ水の中にいるかのように音を遮る。


起き上がろうとするが体が動かない。そして冷静に周りを見渡すと見覚えのない景色。
ピッピッと一定の機械音…

『……病院?私が?どうして?』

誰かが隣で叫んでいる。
「あなた…!目を覚ましたわ!!」
「本当か!?――先生!先生!!」

『お父さん…お母さん…?』


―――その後私は先生と一緒に現れた刑事さんから事故にあったことを聞いた。聞いてる途中で思い出してきた。

『そうだ、私、彼とデートでドライブしてて…』
ハッとして
「彼は!?一緒にいた男の人!!」

先生と刑事さんはお互いに目を合わせ、バツが悪そうに言った。


「お亡くなりになりました…。」
「…残念ですが、我々が着いた時には、もう――」



嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
これは夢だ、さっきの続きだ!
夢なら覚めて、これ以上聞きたくない!!!!!



私はパニックを起こし、暴れ、その後鎮静剤を打たれてまた眠りについた。

起きても何も変わってなかった。

彼は死に、私は生きている。
対向車が勢いよく中央線をはみ出し、ぶつかってきたのだ。

その後は頭が真っ白になり、ただただ抜け殻のように過ごし、退院の日を迎えた。

久しぶりに外の空気を吸う。
冷たい。

ぼうっとした目で空を見上げる。
水面に出た時のような眩しい太陽だった。

両親が笑顔で話しかけてくるが、何も入ってこなかった。
多分、何食べたい?とか晴れてよかったね、とかだと思う。

『なんで私が生きてるんだろう?』

彼の両親は私を罵倒した
「なんであんたが生きてるんだ!私の息子を返して!!あんたのせいだ!!!」

『…本当に、その通りだよ…。出来ることなら変わりたい…』



夜久しぶりに実家に帰り、お風呂を済ませ、自室に入る。
電気なんてつけたくなかった。暗い部屋が物凄く落ち着いた。
と同時に色んな思いが溢れてくる。

もっと素直になればよかった。
もっと自分の気持ちを伝えればよかった。
もっとあの時―――

後悔してもしたりない。

パチッ、、パチッ…
窓に何か当たってる音がする。

カーテンを開けると、激しく雨が降っていた。


『流星群は、もう見えないんだっけ。』

見れるわけもないのに、雲の隙間を探す。そこからひとつでも、流れ星が見たい。

場所は別々だが、彼と一緒に見た流星群。

今は冷たい雨が降っている。


窓を開け、いっぱいに雨を受け、涙した。

彼の【本気の恋】は私の返事を聞く前に最悪の形で終わった。

【命が燃え尽きるまで】親の言いなりにならずに、最期は自分の気持ちを貫いた。

【君からのLINE】はデートの待ち合わせ場所で止まったままだ。




―――その夜は一晩中雨が降り続いた。


もう私の心は晴れることはないだろう。





第5話【空が泣く】~完~


これで、このシリーズは終わらせていただきます。
ハッピーエンドを願ってた方、申し訳ありません。
次回から、シリーズ物ではなく短編を書いていきます。


第1話から短編形式で続いております。良ければぜひ見ていただけたらと思います。
♡︎いつもありがとうございます。

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