ホシツキ@フィクション

Open App

私は夢を見ていた。

深い深い海の底を泳ぐ夢だ。
そこでの生活も悪くは無かったが、元々は海面の近くに住んでいたからか、光が恋しくなった。

上へと向かおうとするが、いくら泳いでも光は見えない。

息も苦しくなってきた。もうだめ…と思った瞬間、上から誰かが泳いできた。

その男は私の手を取り、上へ上へとぐんぐん泳ぐ。

光が見えてきた。「助かった」と呟いた。
水面へ勢いよく出る。
強い太陽の光に思わず目を瞑り、ゆっくりとまぶたを開いた。

少し離れたところに砂浜が見えた。自分の両親が呼んでいた。

「お父さん!お母さん!」

私は急いで浜へと向かう。
両親は笑って、私を抱きしめた。

彼の存在を思い出し、バッと振り向くと、男がこちらに手を振っていた。

私は「こっちだよ!」と叫ぶ。
男がこちらに向かって泳いできたが、一向に進んでいないようだ。
『助けなきゃ』
海に入ろうとするが、両親が私の手を掴んで離さない。
「お父さん!お母さん!離して!あの人を連れてこないと!!私を助けてくれたの!」
両親に向かって叫び、また海の方へ目を向ける。


――そこに男はいなかった。

私はそこで目が覚めた。涙がポロリと目尻をつたい、耳の中に入っていく。その感覚がまだ水の中にいるかのように音を遮る。


起き上がろうとするが体が動かない。そして冷静に周りを見渡すと見覚えのない景色。
ピッピッと一定の機械音…

『……病院?私が?どうして?』

誰かが隣で叫んでいる。
「あなた…!目を覚ましたわ!!」
「本当か!?――先生!先生!!」

『お父さん…お母さん…?』


―――その後私は先生と一緒に現れた刑事さんから事故にあったことを聞いた。聞いてる途中で思い出してきた。

『そうだ、私、彼とデートでドライブしてて…』
ハッとして
「彼は!?一緒にいた男の人!!」

先生と刑事さんはお互いに目を合わせ、バツが悪そうに言った。


「お亡くなりになりました…。」
「…残念ですが、我々が着いた時には、もう――」



嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
これは夢だ、さっきの続きだ!
夢なら覚めて、これ以上聞きたくない!!!!!



私はパニックを起こし、暴れ、その後鎮静剤を打たれてまた眠りについた。

起きても何も変わってなかった。

彼は死に、私は生きている。
対向車が勢いよく中央線をはみ出し、ぶつかってきたのだ。

その後は頭が真っ白になり、ただただ抜け殻のように過ごし、退院の日を迎えた。

久しぶりに外の空気を吸う。
冷たい。

ぼうっとした目で空を見上げる。
水面に出た時のような眩しい太陽だった。

両親が笑顔で話しかけてくるが、何も入ってこなかった。
多分、何食べたい?とか晴れてよかったね、とかだと思う。

『なんで私が生きてるんだろう?』

彼の両親は私を罵倒した
「なんであんたが生きてるんだ!私の息子を返して!!あんたのせいだ!!!」

『…本当に、その通りだよ…。出来ることなら変わりたい…』



夜久しぶりに実家に帰り、お風呂を済ませ、自室に入る。
電気なんてつけたくなかった。暗い部屋が物凄く落ち着いた。
と同時に色んな思いが溢れてくる。

もっと素直になればよかった。
もっと自分の気持ちを伝えればよかった。
もっとあの時―――

後悔してもしたりない。

パチッ、、パチッ…
窓に何か当たってる音がする。

カーテンを開けると、激しく雨が降っていた。


『流星群は、もう見えないんだっけ。』

見れるわけもないのに、雲の隙間を探す。そこからひとつでも、流れ星が見たい。

場所は別々だが、彼と一緒に見た流星群。

今は冷たい雨が降っている。


窓を開け、いっぱいに雨を受け、涙した。

彼の【本気の恋】は私の返事を聞く前に最悪の形で終わった。

【命が燃え尽きるまで】親の言いなりにならずに、最期は自分の気持ちを貫いた。

【君からのLINE】はデートの待ち合わせ場所で止まったままだ。




―――その夜は一晩中雨が降り続いた。


もう私の心は晴れることはないだろう。





第5話【空が泣く】~完~


これで、このシリーズは終わらせていただきます。
ハッピーエンドを願ってた方、申し訳ありません。
次回から、シリーズ物ではなく短編を書いていきます。


第1話から短編形式で続いております。良ければぜひ見ていただけたらと思います。
♡︎いつもありがとうございます。

9/16/2022, 12:03:07 PM