「すーきーだーーーー!!!!」
「あっはっはっはっ」
校舎の屋上から叫ぶ俺の横で、大爆笑している彼女。
「私見たことあるよ、昔のバラエティ」
「俺もあるよ、それの真似」
「未成年の主張だっけ。恥ずかしい真似よくやるよねえ」
呆れたような面白がるような笑いを浮かべている。
あーあ、これは通じてないな。
肩を落とす俺の背中をポンポンと叩く。
「あんたの思いはよーくわかった」
「本当かよ」
「安心しな!」
全然安心できない満面の笑顔で、サムズアップ。
「あんたの大好きでたまらないキャラは、今日私がガチャで出してあげるよ!」
「俺が好きなの、ソシャゲのキャラかよ」
「だってそれ以外ないでしょ」
思わず頭を抱えそうになる。
俺が好きなのは、お前だ!!
伝わらない愛を抱えて、俺はまた明日も愛を叫ぶのだろうな。
そう考えて、苦笑いを浮かべた。
「すきだ!」/愛を叫ぶ。
「あ、あったー!!」
私はお菓子コーナーの棚に一目散に駆け寄る。
手に取ったのは、昔ながらの大きな飴玉だ。
今なら喉に詰まらせそうと子どもには食べさせないだろう大きな飴玉。
私は早速レジを通して、外に出る。
ガサガサと音を立てて開けた袋から、一つ取り出し口に放り入れた。
懐かしい甘さがじんわり広がる。
「そうそう、これこれ」
嬉しい時も悲しい時も、思い出はこの飴と一緒に作ってきた。
私は懐かしさに浸りながら、口の中で飴玉を転がすのだった。
「あめだま」/忘れられない、いつまでも
真っ暗闇の中、僕は体を縮こませて横たわる。
何重にも重ねたジャンバーも布団も寒さを紛らわせることなんてできない。
凍えた自分の息ですら、頬に当たって冷たくて死にそうだ。
「……本当に死ぬのかな」
太陽が爆発して、どれくらい経っただろう。
地上に届かなくなった熱のせいで、生き物は次々と倒れた。
僅かばかり残った者たちが地下に逃げたものの、所詮人間が逃れる部分は、地表に近いところだ。
奪われるしかない熱をどうにかしてこの身の中に堪えて、ぎゅっと力を込める。
「それでも……明日も生きたい」
そう呟いてから、僕は瞼をゆっくり下ろした。
「凍える世界」/明日世界がなくなるとしたら、何を願おう
「にゃあ、にゃあ、にゃあ」
「はいはい、ちょっと待ってね」
足元にじゃれつく君の要求を浴びながら、私は餌入れにキャットフードを注ぐ。上には、君の好きなちゅーる。
餌入れを持ってしゃがむ前から、後ろ足で立って餌入れを覗こうとする君を少しだけ牽制する。不満げな君の前に、餌入れを置くと、勢いよく食べ始める。
その姿を見ながら、ふと思い出す。
『なんか最近付き合い悪くなったよね』
仕方ないじゃん、この子の餌をあげないといけないんだし。
この子、寂しがりやだから、土日ぐらい一緒にいてあげたいじゃん。
「……でもダメなことばかりじゃないんだよね」
平日も早く帰りたいからって、仕事を頑張ってたら、上司がそれを認めてくれて。
「ふふ、今度昇給するんだよ。上がった分で、君には何かお礼しなくちゃね」
そう言って私はキャットフードに夢中な君の背中を撫でた。
「猫飼い」/君と出逢ってから、私は・・・
カチカチ、ペン先を収めるためのノックを2回。
書き上げた日誌の字面を眺めながら、シャーペンをしまう。
私の前の席で、その様子を見ていた春田さんが、ニコッと笑う。
「やっぱり水沢さんの字、綺麗〜! 内容もまとまってるし、ほんと助かる! 」
興奮気味に告げられて、もごもごと返事する。
春田さんは気にした様子もなく、私の前の日誌を閉じて、小脇に抱える。
「じゃあ、あとはわたしが先生に提出しておくね! 今日は本当にありがとう!」
彼女がまたニコッと笑う。
その笑顔に、じんわり胸が温かくなった。
あのあと、荷物をまとめて一人帰路に着いた私は、誰とも話さずに自分の家にたどり着く。
玄関のドアを開けて、右足を靴から抜いていると、お母さんが顔を出す。
「あら、おかえり。もうご飯できるわよ」
「た……ただいま」
パタパタと忙しそうな音を立てて歩くお母さんの後を追ってふと思いつく。
「お母さん……いつもありがとう」
「え?」
お母さんは、きょとんとした顔をしてから、照れた様子を滲ませて笑う。
「うふふ、どうしたの。改めてそんなこと」
嬉しそうなその姿に、わたしはまたじんわり胸が暖かくなったのだ。
「言葉の魔法」/「ありがとう」そんな言葉を伝えたかった。その人を思い浮かべて、言葉を綴ってみて。