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5/2/2023, 12:47:24 PM

大丈夫?
走った痛みに思わず声を上げたら、心配そうな声がかかる。
大丈夫、消毒液が少し染みただけ。
そう答えると、あなたは優しく笑った。
もう少しだけ我慢してね、すぐ手当を終えるから。
そう言いながら、あなたは私の腕に出来た裂傷を消毒して、絆創膏を貼る。
ごめんね。これで大丈夫かな。
不安そうに私の顔を覗き込むあなたに、私の心は歪んだ音を上げる。
お願い、優しくしないで。
優しくされたら私の心は簡単に揺らいでしまう。
もう決めたことなのに。

机や椅子がひっくり返され、雑誌や小物、割れた食器までが散乱した部屋の中、私は彼を訴えるため、スマホを手に取った。

「ゆらぐ」/優しくしないで

5/1/2023, 10:16:04 AM

あか、きいろ、しろ、ちゃいろ。
カラフルでキラキラしてるショーケースのなかをのぞいてる。
あっちみて、こっちみて、きょろきょろいそがしい。
「ね、どれも美味しそうなケーキだね」
わたしのはしゃぐかおをみて、ママもうれしそう。
「いつものイチゴのショートケーキにする? それとも、大人っぽくチョコレートケーキ?」
ママのことばに、わたしはまたきょろきょろ。
「どれを選んでもいいからね、今日はなんたってーー」
そう、きょうはわたしのたんじょうび。
キラキラして、たのしいバースデーなのだ。

「色とりどりのショーケース」/カラフル

4/30/2023, 7:45:09 AM

どこかから醤油の香りがしてくる。
肉じゃがかな。
そう思ったところで、お腹がぐるるる……と空腹を主張する。
「そうだねぇ、今日の夕食はどうしようか」
独りごちて、手にした鞄を持ち直す。冷蔵庫の中身を思い出しながら、足りないものをリストアップ。魚屋、肉屋、八百屋……商店街で寄るべき店を思い浮かべる。
そうするうちに、さらにお腹が鳴き始める。
ちょうどタイミングよく、近く肉屋のコロッケが揚がる香り。
何をするにも腹ごしらえは必要だ。誰にともなく言い訳して、私はまず肉屋へと足を向けるのだった。

「空腹との帰り道」/風に乗って