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カチカチ、ペン先を収めるためのノックを2回。
書き上げた日誌の字面を眺めながら、シャーペンをしまう。
私の前の席で、その様子を見ていた春田さんが、ニコッと笑う。
「やっぱり水沢さんの字、綺麗〜! 内容もまとまってるし、ほんと助かる! 」
興奮気味に告げられて、もごもごと返事する。
春田さんは気にした様子もなく、私の前の日誌を閉じて、小脇に抱える。
「じゃあ、あとはわたしが先生に提出しておくね! 今日は本当にありがとう!」
彼女がまたニコッと笑う。
その笑顔に、じんわり胸が温かくなった。

あのあと、荷物をまとめて一人帰路に着いた私は、誰とも話さずに自分の家にたどり着く。
玄関のドアを開けて、右足を靴から抜いていると、お母さんが顔を出す。
「あら、おかえり。もうご飯できるわよ」
「た……ただいま」
パタパタと忙しそうな音を立てて歩くお母さんの後を追ってふと思いつく。
「お母さん……いつもありがとう」
「え?」
お母さんは、きょとんとした顔をしてから、照れた様子を滲ませて笑う。
「うふふ、どうしたの。改めてそんなこと」
嬉しそうなその姿に、わたしはまたじんわり胸が暖かくなったのだ。

「言葉の魔法」/「ありがとう」そんな言葉を伝えたかった。その人を思い浮かべて、言葉を綴ってみて。

5/4/2023, 9:33:35 AM