マクラ

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4/21/2024, 12:27:10 PM

『雫』

ぱたり、ぱたりと雫が落ちる。

「……どうして」

彼女は当惑しながら僕に問いかける。
どうしてなんだろう、自分にもわからない。
だからもしかしたら、深い意味なんてなかったのかもしれない。

ぱたり、ぱたり

一定のリズムで落ちる雫。
砂時計の落ちる砂にも似ているな、と思う。

「何か答えてよ」

彼女は怒りを露わに僕に言葉を投げつける。
でも僕は何も言えない。
何を言っても言い訳にしかならない。
その言葉は余計に、彼女を怒らせる事にしかならないと知っているからだ。

「ごめん」

僕に言えるのは、ただそれだけ。
それさえも彼女には怒りの燃料にしかならないけれど。

「もう何度目だと思ってるの、小学1年の時からずっと遠足、社会科見学、運動会全部、雨!」

僕だって好きで降らせているんじゃないし、僕だって潰れたイベントは残念に思っている。

「この最凶雨男!」

彼女はそれだけ僕に怒りを投げつけると、走って行ってしまった。
ぱたりぱたり
傘から落ちる雫だけは変わらずに、まるで僕を慰めているようだった。

4/20/2024, 1:15:52 PM

『何もいらない』

君以外、何もいらない。
むしろ君が僕の全てだった。

「愛してる」

何度その言葉を伝えても、僕の気持ちの全てを表せているとは思えない。
君も僕に気持ちをくれるけれど、きっと僕の気持ちの方が大きい。
それだけは自身を持って言える。

「愛してる、愛してるんだ」

僕の言葉に君は照れて、優しく微笑む。
それだけで良かったのに。

「お願いだから、目を開けて……」

言葉は空しく宙に消えた。
君の瞳はもう開かない。
その口からもう何か言葉を発する事もない。
心臓もリズムを刻まない。
君はもう、いない。

「……君がいないなら、もう何もいらない」

そう、君のいないこの世界なんていらない。
それならもう壊してしまえば良い。
そしてまた違う世界で君を見つけて、また最初からはじめよう。

4/19/2024, 1:40:54 PM

『もしも未来を見れるなら』

「もしも未来を見れるなら、貴方はどうしますか?」

これは驚いた。
牛が産気付いて徹夜で介助をしていたら、出てきたのはバケモノだった。
体は普通の牛なのに頭だけは人間で、話もする。
祖父がさらにその先祖に聞いたという話を思い出した。
必ず的中する予言をして、数日で死んでしまう件というバケモノ。
それが稀に生まれるらしい、と。

「あの、聞いてます?」

件のバケモノは変わらず普通に話しかけてくる。

「予言するんじゃないの?」
「質問に質問で答えるのは良くないですよ」

牛のバケモノに諭された。
機嫌を損ねて予言せずに死なれても困るので、とりあえず謝っておく。

「で、未来、見たいですか?」
「見れるなら見たいと思うだろ、普通」
「普通でなく、貴方に聞いているのですよ」

思いの外よく喋る奴だ。
鼻息荒く、俺の返事を待っている。
俺はよく考えてから口を開いた。

「見たくないな」

そりゃ世界滅亡とか大震災とか、あるなら知りたいとは思う。
でもその未来を見たいか言われたら、見たくない。
だって目の前で人が死んでいったりするだろ。
そんなのは見たくない。きっと見たら夢にも見るし、トラウマになる。

「そうでしょう! 私だって見たくないんですよ」
「でも予言は知りたい」
「嫌ですよ、予言したら死ぬんですよ、私」
「そのままでも数日で死ぬらしいぞ」
「えーそんな殺生な」

奴はぶつくさ言いながら、未来を見始めたようだ。

「えー、予言しますー」
「おぅ」
「貴方の今日の夕飯は私だそうです」

奴はそれだけで言って息絶えた。
え、俺、これ食うの?

4/18/2024, 12:51:10 PM

『無色の世界』

僕は無色の世界を生きている。
別にその事について何も感情はない。
気が付いた時にはそうだったから、逆にそれ以外の世界を知らない。

「今日もあったかい、いい天気だね」

声が聞こえた。
これはママ。
いつも優しい声で僕に話しかけてくれる、大好きな人。
大好きなのに僕はうまく喋れなくて、つい地団駄を踏んでしまう。

「今日も元気だね」

僕の気持ちはちっとも届かない。

「イタタタ……」

急にママの声が変わった。
何かが痛いらしい。
こんな時、僕は無力だ。
何もできなくて、ただ僕も苦しい思いをするしか出来ない。

「痛い痛い痛い」

知らない親切な人が病院に連れて行ってくれた。
ママは痛みが強くなっているのか、さらに大きな声で訴える。
ママが心配、苦しい。
それからすぐに先生や色々な人が来て、よくわからない何かをしてる。
ママを助けて。
僕の声は届かない。



「頑張りましたね、元気な男の子ですよ」

そして僕は光の世界に生まれた。

4/17/2024, 1:52:28 PM

『桜散る』

「桜散る頃に、また会いましょう」

交わした約束は果たされなかった。
約束をした桜の木の下で僕は1人きり、貴方の事を考えていた。
厳密には約束じゃない。
ただ僕が1人でそう言っただけで、貴方は最後まで返事をしてくれなかったから。
だから果たされなくても、貴方が悪い訳じゃない。
どちらかと言うと約束してくれないだろうとわかりつつも、そう言った僕が悪いのだ。
足元にある桜色の絨毯を汚す土色、それがきっと僕だ。
貴方はきっと持たなくて良い罪悪感を感じているだろう。
それでも卑怯者の僕は、それを喜んでしまう。
貴方がどんな感情であれ、僕の事を考えてくれる。
それだけで僕の胸は喜びに震えてしまう。

「あぁ、貴方に会いたいな」

会えなくても良い。一目見られたら嬉しい。
そう思って貴方の家へと向かう。
貴方が居たら、きっと驚くだろう。
もしかしたら、泣いてしまうかもしれない。

「楽しみだな」

わざと桜の花びらを踏みつけながら歩く。
大丈夫だよ。
泣いて、怯える貴方も素敵だから。
僕に無断で何度引越したって、何度だって探して見つけ出すよ。
貴方が好きだから。

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