ゆかぽんたす

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7/2/2024, 9:55:10 AM

「ごめんね、わざわざ迎えに来てもらっちゃって」
「いや全然。いいんだよ」
会話はそれきりだった。
助手席に乗り込んだ君は絶えず外の景色を見ている。僕が迎えに来ても、考えているのはアイツのことなんだろう。
ちょうど信号が赤になったので停車した。だけど僕には彼女に話しかける勇気がなかった。どうせきっと上の空だ。
今一番近い距離にいるのになんにもできない。このまま遠い何処かへ連れ去ってしまいたいと、出来もしないことを考える時分が嫌いだ。そっと、窓ガラス越しに隣の気配を伺った。静かだけど彼女は寝てはいなかった。窓越しに見えたその表情は、なんともつらそうに歪んでいた。
でも僕はそれでも何も言わず、何もできず、ただアクセルを踏み込むだけだった。

意気地なしって、僕のことか。

6/30/2024, 9:22:01 PM

見えないけど、きっと繋がってる。じゃなきゃこんなに目が合うことないって。
でもいつになったら伝えてきてくれるのかな。こっちはいつでもオッケーなのに。何をそんなにためらってるんだか。奥手なのは分かるけどさ、こんなに毎日見つめ合ってるんだから、そろそろ、良くない?
「あの、乃上さん」
きた。とある日の休み時間。私の席の前に一人の男子生徒が立った。もう、いつ来るのかって首を長くして待ってたわよ。長くしすぎてキリンになるとこだった、なんちゃって。
「はい?」
白々しく声を作って私は返事をする。ちょっとだけ困ったような顔をして私のことを見つめてくる彼。さあ、言いなさいよ。私のことが前から好きだった。付き合ってください、って、その手をこっちに差し出してくれればあなたの役目は終了よ。あとは私がその手を握るだけ。そんな展開になるんだと信じて疑わなかった。なのに。
「一之瀬さんのことで相談があるんだけど」
「……は?」
「ほら、君といつも一緒に帰ってる子だよ」
「うん、それはわかるよ。わかるけど……なんで」
言葉を切った私に、彼は半歩歩み寄る。私達の間には机があるけど、すごく近い。彼は身を屈ませ、そして私の耳元に顔を近づけてきた。ちょっと何する気――
「好きなんだ」
「……うん」
「一之瀬さんのことが」
「…………………………は」
最後の言葉で一気に冷めた。沈黙すること数十秒。大きな深呼吸をひとつした。なるほどそーゆうこと。目が覚めて、全部理解して、私は史上最強の勘違い女だと気付いた時、彼の手を掴んでいた。
「え、なにどうしたの」
「小指、折っていい?」
「え?はっ、え?」
「……なーんてね」
糸は見えないから、もし万が一この人の赤い糸が私に絡まってちゃまずいと思ったけど。まかり間違ってもそんなことあるわけないか。なんだなんだ。全部私の思い過ごしってやつね。はずかし。
「いいよ、何が知りたいの?あの子のこと。協力してあげる」
「……本当に!?」
嬉しそうに彼が笑う。そういう顔、私だけに向けてくれる人現れないかなあ。赤い糸ってどうして見えないんだろう。でも、見えなくて良かったのかもしれない。簡単に運命の人を見つけられたら、なんのドキドキも生まれないもんね。
いつかは本物の赤い糸に巡り会えますように。

6/30/2024, 7:40:29 AM

今日も肌にまとわりつくような暑さだった。でも空は綺麗な水色が広がっていてなんだか清々しい。南西の方角に綿菓子みたいな雲が見えた。上に上に膨らんでいて、まるで生き物みたいに成長している。
本当にあの中に化け物でも住んでたら面白いのに。穏やかじゃないことを考えている僕は今、電車に揺られ窓から外の景色を見つめていた。駅につく頃には6時を過ぎるだろう。それでもまだまだ外は明るい。

暑いこととか、どうでもよかった。
さっきまで駅で君と話してた時、そんなの全然気にならなかった。
“また明日も会えるかな”。君が僕にそう言うから、どうにかしてこの後もずっと一緒にいたいと思ってしまった。まぁそんなのは、高校生の僕らには無理というか許されないことなんだけど。
でも本当は君とまだまだ話してたかったんだよ。時間が全然足りないんだよ。あの入道雲からドラゴンでも召喚させて、月を食べちゃえば夜なんて失くせる。そうしたら君ともっと一緒にいれるんだ。そんな、頭が可笑しい人みたいな妄想しちゃうくらいに、僕は君のことが好きなんだ。
でも明日も会おうと約束したから、そんなことする必要はない。大人しく夜を迎えて、ちゃんと就寝する。そしてまた明日君のこと、改札まで迎えに行くから。

6/29/2024, 2:19:47 AM

また昨日書くの忘れちゃった、から今日のと合わせて書きます










どこからか蝉の鳴く声が聞こえる。私の嫌いな雑音の1つだ。
と、なるともうすぐ夏になるのか。でももうすでに今の時期もかなりの高温で夏と呼ぶに相応しい天候をしているけれど。照っている太陽もなかなか暑い。コンクリートに寝転がるなんて真似をもうできなくなっちゃうのか。それはそれで寂しい。
「いつもここにいるの?」
また来た。最近こうして音もなく現れて私に話しかけてくるコイツ。確か隣のクラスらしいけど、いつの間にこんなに親しく話しかけてくるようになったんだか。友達になったつもりは全くない。
今みたいに、ある日もこうやって屋上で寝そべって授業をサボっていた時のこと。突然彼は現れた。私だけがびっくりして、彼の方は「そんな硬いとこで寝てて痛くない?」と、拍子抜けするような質問をしてきたのだ。彼は別に私のことを教師に言いつけるでもなく、なんと同じように隣に横たわった。「意外とコンクリートの上ってひんやりしてて気持ちいいね」なんて、呑気に笑って言うもんだから思わず私も笑ってしまった。
それから、事あるごとにコイツはここへやってくる。こうやって、一緒にサボるのが日課になっている。
「フウカちゃんさ、いつまでこうしてるの?」
いつの間に、名前を知られてたんだろうか。警戒して見つめる私をよそに彼は隣で喋り続ける。
「もうすぐ夏だよ、暑くなるよ。ここでこんなことしてたら、溶けちゃうよ」
「そしたら日陰のどっか隠れるとこに行くからいい」
「ダメダメ、日本の夏を甘くみちゃ。もう屋外はこの先危険だよ」
「……つまり何。教室戻れって意味?」
コイツは私に大人しく授業にでろって遠回しに言いたいんだろうか。やっぱコイツも先生の手先かなんかだったってわけか。ちょっとでも気を許して話し相手して損したよ。これ以上誰かと一緒にいたくない。1人になりたい。コイツがいつまでもここに来るのなら、私がどっか別の場所にサボり場を変えればいいだけ。体を起こすともわっというこの時期特有の湿気をまとった空気にあてられた。本当にもうすぐ夏なのだ。いつの間にか春は終わってしまった。私はこれまで何をやってたんだろう。この先何がしたいんだろう。
「……ちょっと、何」
手首に何かが触れた。彼が、寝転がったままの体勢で私の腕を掴んでいる。そしてなぜか微笑んでいた。
「いーよ、教室行かなくて。でも流石に場所変えない?ここのまんまだと、俺死にそ」
「変えるったって、どこに」
「ここじゃなければ、どこでもいーよ。君が落ち着ける場所、探そう」
そんなの、あるわけないじゃない。みんながいる教室が無理なんだもん。私の居場所なんてないんだよ。この屋上だって決して居心地いいとか思っちゃいなかった。ただ1人でぼんやり空を眺められるから居座ってただけ。いつの間にか、コイツのせいで1人でいられなくなっちゃったけど。
「行くとこないの?」
「……」
何にも言わない私を見て、彼は静かに笑った。ゆっくり上体を起こして私にきちんと向き直ると、
「じゃあ俺が連れ出してあげる」
彼はそう言って私の頭に手をのせた。優しい温もりだった。あれだけ人が嫌いなのに、他人に触られるなんて拒否もいいとこなのに。
嫌じゃなかった。今だけは蝉の声も、蒸し暑さも、全部忘れちゃうくらい目の前の彼のことをじっと見つめてしまった。
行こう、ここではないどこかへ。そう思えた瞬間だった。


6/27/2024, 6:02:13 AM

昨日更新し忘れたから、昨日と今日のお題一緒にして書く




思い出すは、あの日のこと。
最後に君が微笑んで宙を舞った。その時だけは、時間を区切ったようにワンカットずつの映像に見えた。

あの日の朝、君は近くの商店街に買い物に出掛けて行った。3時間経っても帰ってこなくて、携帯に電話をかけても出てくれなくて、一体どこで道草食ってんだと思って僕もふらふら家を出たら。
「立てこもりですって」
近所のおばさんたちが群がって騒いでいた。危ないから離れてください。危険ですからここから下がってください。警察官の叫び声、その場の人たちのざわつく声。大勢の声がグチャグチャに混ざり合ってとんでもない不協和音になっていた。
「あそこの角の花屋さんに立てこもってるんだって」
嫌な予感がしたんだ。毎週木曜日、いつものこの時間に君は花を買いにゆく。いつも何の花にしようかな、って、鼻歌混じりで出掛けてゆく。今日もそんな朝だった。
人混みをかき分けて花屋の見える位置まで行く。何人もの警察官に囲まれて眼鏡をかけたエプロン姿のおじさんが頭から血を流しながら何やら喚いていた。
「女の子が、女の子が人質になっているんです。いつもうちに買いに来てくれる子で――」
それを聞いた時、僕は膝から頽れた。身体中から血の気が引いた感覚になる。嘘だと思いたかった。どうか人違いであってくれ。確かめたくて、力を振り絞ってもう一度立ち上がった。よたよたした足取りでそのおじさんに近寄る。警察の人に制されたが、必死にその腕にしがみつき、おじさんに話しかけた。
「その女の子って、今日ブルーのワンピース着てませんでしたか」
「あ、あぁ」
 予感が現実となり、僕はその場で叫びをあげた。そばにいた人たちが驚いて僕を異物を見るような目で見る。店に飛び込もうと掛け出す僕は警察に羽交締めにされた。転んで、アスファルトに当たって唇を切った。血を滴らせながら、やめてくれやめてくれと叫んだ。嗚咽と奇声をあげる僕をなおも押さえつける警察たち。わけが分からなくて頭が割れそうに痛かった。
「あ、あれ!」
誰かが叫んだ。ガラス張りの花屋のドアに2人の人像が見えた。汚らしい男に首を掴まれているのは僕の彼女だった。恐怖で目をギュッと瞑りながら震えている。僕は力強く彼女の名を叫んだ。僕の声が届いたのか、彼女が薄目を開けた。何度も何度も叫んでいると彼女は僕の存在を見つけた。目が合った瞬間、大粒の涙が溢れだす。押さえつけられている身を捩って僕は手を伸ばした。応えるように、彼女も僕に手を伸ばす。
でもそれが、男にとって癇に障ったらしい。
「きゃーっ」
パン、という乾いた音と叫び声が聞こえた。ほぼ同時だった。僕の目には、彼女の体がふわりと舞っているように見えた。スローモーションで彼女は宙を舞う。最初から最後まで、彼女と僕は目が合っていた。そして、地面に倒れ込む寸前、彼女は微笑んでいたように見えた。
「確保だ!」
僕の上に乗っていた警察はあっさり退き、たくさんの人間が店の中へ突入する。ざわめきが今日一番大きくなった。多勢の人が動く。押しのけ合いぶつかり合う。でも僕はそこから動けなかった。誰かに踏まれても蹴られても、地べたから這い上がることができなかった。

“今日はカスミソウにしよっと”。
こんな時に思い出した。今朝の彼女とのやりとり。今日はカスミソウを買ってくるつもりだったらしい。君にしては随分控えめな花だな、って僕が言ったら、それってどういう意味?と聞き返された。
“だってさ、いつも君は薔薇とかトルコキキョウとか、主張のすごい花を選ぶじゃないか。カスミソウなんて物足りないんじゃない?”
“たまには私もそういう繊細な花を買う時だってあるの”
頬を膨らませ、彼女が反論してきた。自分で繊細なんて言うかよ、と笑ったけど、君が飾る花はいつもセンスが良い上長く咲いてくれたから、どんな花でも良かった。でも僕は今日を持ってカスミソウが嫌いになりそうだよ。だって、君への手向けの花になってしまったから。
空みたいな君のブルーのワンピースと鮮やかな君の血の赤。それを邪魔しない白くて儚い花。こんなにも調和するなんて嘘だろ。君が死んだなんて、何かの間違いだろ。

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