ゆかぽんたす

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また昨日書くの忘れちゃった、から今日のと合わせて書きます










どこからか蝉の鳴く声が聞こえる。私の嫌いな雑音の1つだ。
と、なるともうすぐ夏になるのか。でももうすでに今の時期もかなりの高温で夏と呼ぶに相応しい天候をしているけれど。照っている太陽もなかなか暑い。コンクリートに寝転がるなんて真似をもうできなくなっちゃうのか。それはそれで寂しい。
「いつもここにいるの?」
また来た。最近こうして音もなく現れて私に話しかけてくるコイツ。確か隣のクラスらしいけど、いつの間にこんなに親しく話しかけてくるようになったんだか。友達になったつもりは全くない。
今みたいに、ある日もこうやって屋上で寝そべって授業をサボっていた時のこと。突然彼は現れた。私だけがびっくりして、彼の方は「そんな硬いとこで寝てて痛くない?」と、拍子抜けするような質問をしてきたのだ。彼は別に私のことを教師に言いつけるでもなく、なんと同じように隣に横たわった。「意外とコンクリートの上ってひんやりしてて気持ちいいね」なんて、呑気に笑って言うもんだから思わず私も笑ってしまった。
それから、事あるごとにコイツはここへやってくる。こうやって、一緒にサボるのが日課になっている。
「フウカちゃんさ、いつまでこうしてるの?」
いつの間に、名前を知られてたんだろうか。警戒して見つめる私をよそに彼は隣で喋り続ける。
「もうすぐ夏だよ、暑くなるよ。ここでこんなことしてたら、溶けちゃうよ」
「そしたら日陰のどっか隠れるとこに行くからいい」
「ダメダメ、日本の夏を甘くみちゃ。もう屋外はこの先危険だよ」
「……つまり何。教室戻れって意味?」
コイツは私に大人しく授業にでろって遠回しに言いたいんだろうか。やっぱコイツも先生の手先かなんかだったってわけか。ちょっとでも気を許して話し相手して損したよ。これ以上誰かと一緒にいたくない。1人になりたい。コイツがいつまでもここに来るのなら、私がどっか別の場所にサボり場を変えればいいだけ。体を起こすともわっというこの時期特有の湿気をまとった空気にあてられた。本当にもうすぐ夏なのだ。いつの間にか春は終わってしまった。私はこれまで何をやってたんだろう。この先何がしたいんだろう。
「……ちょっと、何」
手首に何かが触れた。彼が、寝転がったままの体勢で私の腕を掴んでいる。そしてなぜか微笑んでいた。
「いーよ、教室行かなくて。でも流石に場所変えない?ここのまんまだと、俺死にそ」
「変えるったって、どこに」
「ここじゃなければ、どこでもいーよ。君が落ち着ける場所、探そう」
そんなの、あるわけないじゃない。みんながいる教室が無理なんだもん。私の居場所なんてないんだよ。この屋上だって決して居心地いいとか思っちゃいなかった。ただ1人でぼんやり空を眺められるから居座ってただけ。いつの間にか、コイツのせいで1人でいられなくなっちゃったけど。
「行くとこないの?」
「……」
何にも言わない私を見て、彼は静かに笑った。ゆっくり上体を起こして私にきちんと向き直ると、
「じゃあ俺が連れ出してあげる」
彼はそう言って私の頭に手をのせた。優しい温もりだった。あれだけ人が嫌いなのに、他人に触られるなんて拒否もいいとこなのに。
嫌じゃなかった。今だけは蝉の声も、蒸し暑さも、全部忘れちゃうくらい目の前の彼のことをじっと見つめてしまった。
行こう、ここではないどこかへ。そう思えた瞬間だった。


6/29/2024, 2:19:47 AM