見えないけど、きっと繋がってる。じゃなきゃこんなに目が合うことないって。
でもいつになったら伝えてきてくれるのかな。こっちはいつでもオッケーなのに。何をそんなにためらってるんだか。奥手なのは分かるけどさ、こんなに毎日見つめ合ってるんだから、そろそろ、良くない?
「あの、乃上さん」
きた。とある日の休み時間。私の席の前に一人の男子生徒が立った。もう、いつ来るのかって首を長くして待ってたわよ。長くしすぎてキリンになるとこだった、なんちゃって。
「はい?」
白々しく声を作って私は返事をする。ちょっとだけ困ったような顔をして私のことを見つめてくる彼。さあ、言いなさいよ。私のことが前から好きだった。付き合ってください、って、その手をこっちに差し出してくれればあなたの役目は終了よ。あとは私がその手を握るだけ。そんな展開になるんだと信じて疑わなかった。なのに。
「一之瀬さんのことで相談があるんだけど」
「……は?」
「ほら、君といつも一緒に帰ってる子だよ」
「うん、それはわかるよ。わかるけど……なんで」
言葉を切った私に、彼は半歩歩み寄る。私達の間には机があるけど、すごく近い。彼は身を屈ませ、そして私の耳元に顔を近づけてきた。ちょっと何する気――
「好きなんだ」
「……うん」
「一之瀬さんのことが」
「…………………………は」
最後の言葉で一気に冷めた。沈黙すること数十秒。大きな深呼吸をひとつした。なるほどそーゆうこと。目が覚めて、全部理解して、私は史上最強の勘違い女だと気付いた時、彼の手を掴んでいた。
「え、なにどうしたの」
「小指、折っていい?」
「え?はっ、え?」
「……なーんてね」
糸は見えないから、もし万が一この人の赤い糸が私に絡まってちゃまずいと思ったけど。まかり間違ってもそんなことあるわけないか。なんだなんだ。全部私の思い過ごしってやつね。はずかし。
「いいよ、何が知りたいの?あの子のこと。協力してあげる」
「……本当に!?」
嬉しそうに彼が笑う。そういう顔、私だけに向けてくれる人現れないかなあ。赤い糸ってどうして見えないんだろう。でも、見えなくて良かったのかもしれない。簡単に運命の人を見つけられたら、なんのドキドキも生まれないもんね。
いつかは本物の赤い糸に巡り会えますように。
6/30/2024, 9:22:01 PM