ゆかぽんたす

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1/31/2024, 1:32:35 PM

振り返れば、傷つけたり傷ついたり時には人を信じられなくなることだってあった。あの時はきっと幼なすぎたんだ。今ならそんなふうに回顧できるけど、きっと当時の僕は必死だったに違いない。
“仲間”とか“信頼”とか、そういうのは僕には本当どうでもよくて。何より1人が楽だったから他の奴らと馴れ合うなんて馬鹿馬鹿しいと思ってた。正直、鼻で笑うレベルだったよ。くだらないなあって、ただ他人事のように感じていたんだ。

でも旅の途中で君と出逢って。僕とまるで正反対の思考回路を持つ君は当初、邪魔でしかなかった。この先のパーティ編成に君は必要ないと本気で思っていたんだ。それが、ひょんなことで僕は君に助けられ、君の手の温かさを知り、君の涙を初めて見た。あの時は心臓に衝撃が走った。僕の中の、決して揺るがない概念みたいなものが覆った瞬間だった。人ってこんなに優しくて温かい生き物なんだな。それを教えてくれたのは、君だった。

もうすぐこの旅も終焉だ。君はこれまでの道のりをどう感じてる?楽しかった?辛かった?プラスなものもマイナスなものも、両者ともに色々思うものもあるだろう。それもまた、人だから持てる感情なのだろう。
僕はこの旅で数えきれない沢山のものを得たよ。それは形にできなくて、目には見えないものだけど。いつまでもこの心の中に息づいている。旅路の果てにそれを証明できることがこの上なく嬉しいよ。

さあ、あと少しだから今日も進もう。
まだ旅は終わったわけじゃないよ。最後の最後まで、僕は君と共に歩いてゆくことを誓う。だからあと少し、よろしくね。

1/31/2024, 9:42:29 AM

この街に死者と話せる者がいる。
そんな噂を聞いたから遥々やって来たわけだが。
「……とんだ噂話だったみたいだな」
「ちょっと。本人を眼の前にして失礼じゃない?」
「ンなこと言ったってよ……」
俺の前に仁王立ちするのはどう見ても子供。こんなガキが死者と話せるだと?もっと、普通はほら、祈祷師みたいな婆さん想像するもんだろが。やっぱり何かの間違いだ。そう思って大人しく帰ろうとした。
「奥さんに伝えなくていいの?」
「な……んで」
「いいよ。おにーさんかっこいいから、特別に受けてあげる」
そう言って、少女は目を閉じその場で跪くと祈りのポーズをした。これから何が起こるのか。皆目見当がつかないが、何か特別なことが起きる気がしてならない。
まばたきさえも忘れそうになるほど俺は棒立ちになって少女を見つめる。やがて、綺麗な歌声が響きだした。澄んだ汚れのない歌声が、ここ一体を覆うように広がってゆく。少女は目を閉じたまま伸びやかに歌いあげる。何という歌なのか俺には分からなかった。鎮魂歌なのかもしれない。綺麗で繊細な声がメロディーを紡ぎ出す。じっと聞き入っていた。自分の目から涙が流れてることすら気づかないくらい、少女の歌に聞き惚れていた。歌が終わる頃には俺の両目からは涙がとめどなく溢れていた。
「おにーさんの気持ちを取り込んで歌ったよ。きっと奥さんに届いてるはず」
にこりと笑ってそう言った少女。大丈夫だ。今の歌と俺の想いは、あいつに届いてるに違いない。いつまでも愛している。安らかに眠れ。そのメッセージを歌に乗せて届けてくれた少女は、女神にしか見えなかった。

1/30/2024, 9:59:39 AM

放課後、誰もいなくなった教室。
窓際の後ろから2番目の席に近寄り、私は座る。
そこは私の席じゃない。あの人のだ。彼はサッカー部のエース。成績優秀で背が高い。笑うと笑顔がとっても爽やか。非の打ち所がまるでない彼はみんなから人気者。でもやっぱり、女子からの熱い視線はものすごい。
そんな私も、彼に熱い視線を飛ばす女子のひとりで。
同じクラスなのにたいして喋ったこともないけど、いつしかあの笑顔にやられてしまった。一目惚れってやつだとおもう。別に、この気持ちは届かなくてもいいや。あんなにライバルがいるんだから無理だと分かってる。だからこれからもひっそりこっそり応援したいな。
そんなふうに、自分の気持ちを見限ってるのに。こうやってひとりきりの教室になるとどうしても抑えられなくなる。ここに座って彼は、現代文の授業で先生に指されて音読してた。1度も噛まずにすらすらと。あぁかっこいいなぁって思ったんだ。私の席は1番前だから授業中の彼の顔は見れないけど、きっといつもどおりの爽やかさが溢れてたんだろうな。
制服のブレザーの胸ポケットからボールペンを取り出す。そして、彼の机の角に小さく自分のイニシャルを書いた。細かな傷があるから、これくらいなら目立たないだろう。
コソコソこんなことしてて、いつかバレたらどうしよう。面と向かって言える勇気がまだないの。いつかそんな日が来ればいいなと思ってるけど、多分きっと、無理だと思う。何もしてないうちから諦めるなんて情けない話だ。こんなに好きなのに、自分じゃどうにもできなくてもどかしい。
そっと書いたイニシャルを指でなぞりながらため息を吐く。まだもう少しだけ、あなたのことを好きでいさせてね。

1/29/2024, 9:47:29 AM

列車の揺れはとても心地が良い。いつの間にかうたた寝してたみたいだ。不意に目を覚まして車窓の向こうを見た時にはすっかり見慣れた景色になっていた。
「懐かしいなあ」
変わってないかな。あの店も、あの場所も、そしてあの子も。変わっていないといいな。そりゃあ完全にあの時のまま、なんてのは無理だけど。あの店のパンが最高に美味しくて、あの場所が最高の昼寝スポットだった。そしてあの子の笑顔は最高に可愛かった。あの時の記憶のまま、今も存在してくれてたら良いな。
期待に胸を膨らませ列車を降りる。見た感じはあの時と変わらない駅の改札。でも所々変わったところを見つける。壁が綺麗になったりとか、流れる音楽がショパンからサティになってたりとか。ちょっとずつ変わっているものを発見するたび新鮮な気持ちになる。
そして、キョロキョロしている僕に声がかかった。
「おかえり」
この声、知ってる。柔らかく優しい声。懐かしいなあ、嬉しいなあ。顔が緩んでしまうのを隠すことなく僕は振り向いて、言った。
「ただいま」
あの時と変わらない最高に可愛い笑顔が、そこにあった。良かった、君は変わらずにいてくれて。僕はこの街が大好きだ。改めてそう思った。

1/28/2024, 8:32:28 AM

あの子はいつも僕に優しい。だから絶対に僕に気があるんだ。そんなこととっくに気づいてるよ。なのに、いくら待ってもあの子は僕に告白しようとしてこない。チャンスをあげようと思って、「今日一緒に帰る?」って誘っても友達と帰るからいいと断ってきた。なんだそれ。僕のこと好きなんだろ?だったらできるだけ僕のそばにいたらいいじゃないか。なのに君は涼しい顔して僕の誘いを受け流す。どういうつもりなんだよ。僕のこと本当に好きなの?
だから今日、あの子の後をつけてみた。彼女が言ってた“友達”なる子達と校門を出るところだった。多分、同じクラスの女子。何かを楽しそうに話していて、みんなでいきなり爆笑したりよく分からない歌を歌いだしたり。僕に見せるあの笑顔をそのままみんなにも振りまいている。つまり、あの子は僕だけじゃなくてみんなにも同じように優しいというわけだ。
これが女子の友達になら納得がいったと思う。けど僕は信じられないものを見てしまった。どこから現れたのか、女子グループに合流してきた男子にまであの子は笑いかけている。ソイツがわけ分かんないことを言って飛び跳ねるのを見て、彼女は全力で笑っている。目じりには涙を浮かべるくらいに爆笑している。そんな顔見たことなかった。なんだかいつもよりいきいきしている。嘘だろ、と思った。
僕に優しいから僕のことが好き。
そんなわけがなかった。あの子はみんなに優しい。そして、みんなのことが好き。男にも女にも、分け隔てなく接する彼女は、僕のものじゃないんだ。
くやしい。彼女の優しさを好きの気持ちだと勘違いしてたことが恥ずかしい。チクショウ、と呟いて彼女の尾行をやめた。踵を返す僕の背にまた、彼女らの楽しげな笑い声が降ってきた。

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