ゆかぽんたす

Open App

放課後、誰もいなくなった教室。
窓際の後ろから2番目の席に近寄り、私は座る。
そこは私の席じゃない。あの人のだ。彼はサッカー部のエース。成績優秀で背が高い。笑うと笑顔がとっても爽やか。非の打ち所がまるでない彼はみんなから人気者。でもやっぱり、女子からの熱い視線はものすごい。
そんな私も、彼に熱い視線を飛ばす女子のひとりで。
同じクラスなのにたいして喋ったこともないけど、いつしかあの笑顔にやられてしまった。一目惚れってやつだとおもう。別に、この気持ちは届かなくてもいいや。あんなにライバルがいるんだから無理だと分かってる。だからこれからもひっそりこっそり応援したいな。
そんなふうに、自分の気持ちを見限ってるのに。こうやってひとりきりの教室になるとどうしても抑えられなくなる。ここに座って彼は、現代文の授業で先生に指されて音読してた。1度も噛まずにすらすらと。あぁかっこいいなぁって思ったんだ。私の席は1番前だから授業中の彼の顔は見れないけど、きっといつもどおりの爽やかさが溢れてたんだろうな。
制服のブレザーの胸ポケットからボールペンを取り出す。そして、彼の机の角に小さく自分のイニシャルを書いた。細かな傷があるから、これくらいなら目立たないだろう。
コソコソこんなことしてて、いつかバレたらどうしよう。面と向かって言える勇気がまだないの。いつかそんな日が来ればいいなと思ってるけど、多分きっと、無理だと思う。何もしてないうちから諦めるなんて情けない話だ。こんなに好きなのに、自分じゃどうにもできなくてもどかしい。
そっと書いたイニシャルを指でなぞりながらため息を吐く。まだもう少しだけ、あなたのことを好きでいさせてね。

1/30/2024, 9:59:39 AM