列車の揺れはとても心地が良い。いつの間にかうたた寝してたみたいだ。不意に目を覚まして車窓の向こうを見た時にはすっかり見慣れた景色になっていた。
「懐かしいなあ」
変わってないかな。あの店も、あの場所も、そしてあの子も。変わっていないといいな。そりゃあ完全にあの時のまま、なんてのは無理だけど。あの店のパンが最高に美味しくて、あの場所が最高の昼寝スポットだった。そしてあの子の笑顔は最高に可愛かった。あの時の記憶のまま、今も存在してくれてたら良いな。
期待に胸を膨らませ列車を降りる。見た感じはあの時と変わらない駅の改札。でも所々変わったところを見つける。壁が綺麗になったりとか、流れる音楽がショパンからサティになってたりとか。ちょっとずつ変わっているものを発見するたび新鮮な気持ちになる。
そして、キョロキョロしている僕に声がかかった。
「おかえり」
この声、知ってる。柔らかく優しい声。懐かしいなあ、嬉しいなあ。顔が緩んでしまうのを隠すことなく僕は振り向いて、言った。
「ただいま」
あの時と変わらない最高に可愛い笑顔が、そこにあった。良かった、君は変わらずにいてくれて。僕はこの街が大好きだ。改めてそう思った。
1/29/2024, 9:47:29 AM