この街に死者と話せる者がいる。
そんな噂を聞いたから遥々やって来たわけだが。
「……とんだ噂話だったみたいだな」
「ちょっと。本人を眼の前にして失礼じゃない?」
「ンなこと言ったってよ……」
俺の前に仁王立ちするのはどう見ても子供。こんなガキが死者と話せるだと?もっと、普通はほら、祈祷師みたいな婆さん想像するもんだろが。やっぱり何かの間違いだ。そう思って大人しく帰ろうとした。
「奥さんに伝えなくていいの?」
「な……んで」
「いいよ。おにーさんかっこいいから、特別に受けてあげる」
そう言って、少女は目を閉じその場で跪くと祈りのポーズをした。これから何が起こるのか。皆目見当がつかないが、何か特別なことが起きる気がしてならない。
まばたきさえも忘れそうになるほど俺は棒立ちになって少女を見つめる。やがて、綺麗な歌声が響きだした。澄んだ汚れのない歌声が、ここ一体を覆うように広がってゆく。少女は目を閉じたまま伸びやかに歌いあげる。何という歌なのか俺には分からなかった。鎮魂歌なのかもしれない。綺麗で繊細な声がメロディーを紡ぎ出す。じっと聞き入っていた。自分の目から涙が流れてることすら気づかないくらい、少女の歌に聞き惚れていた。歌が終わる頃には俺の両目からは涙がとめどなく溢れていた。
「おにーさんの気持ちを取り込んで歌ったよ。きっと奥さんに届いてるはず」
にこりと笑ってそう言った少女。大丈夫だ。今の歌と俺の想いは、あいつに届いてるに違いない。いつまでも愛している。安らかに眠れ。そのメッセージを歌に乗せて届けてくれた少女は、女神にしか見えなかった。
1/31/2024, 9:42:29 AM