ゆかぽんたす

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12/6/2023, 9:26:43 AM

この気持ちを表現するなら、“好き”って言葉で間違いないのだけど。
たった二文字で簡単には片付けられないほどキミのことを思ってる。
いつも一緒にいたいと思うし、寝ても覚めてもキミのこと考えちゃうし。いやむしろ考えすぎて眠れないほどになる。
今日も今日とてキミのことを考えながら仕事に行くとするよ。なるべくすぐ帰って来るからね。だからいい子にしていてね。
「行ってきます。くれちゃん♡」
ぼくの相棒、くれちゃん。正式名はクレステッドゲッコー。うちのくれちゃんはトサカがすごく美しい。身体の色は気品溢れる赤色。まさにぼくのアイドルだ。ぼくはもうこの子に夢中で最近じゃ何も手につかない。かわいくてかっこよくて大人しくて艶やかで。できることなら1日中ずっと見つめていたいさ。
もう少し大きくなったら一緒に散歩させてみようかなあ。キミを連れていろんな場所に行けたらいいのになあ。膨らむ妄想を抱えながら仕事に向かうべく元気よく家を出た。名残惜しいけど、しばしの別れだ。
「そうだ」
今度、ぼくの妹に見せてあげよう。お兄ちゃんいつになったら彼女できるの、って見下してきたからな。見たら驚くぞ。あでも、うちのくれちゃんは夜型だから会うとしたら夕方以降にしてもらおう。ついでにあまり気温が低くない日で。
そうと決まれば。ぼくは駅につくや早速携帯を取り出し妹にラインをする。今度ぼくの大切な人を紹介したいんだけど。送るなりすぐさま既読がついた。いつでもいいよ、と結構前のめりな返事が届く。あいつ、そんなにくれちゃんに会いたいのか。
「どんな人?、って……」
可憐で愛らしくてもの静かだよ。それだけぼくは返した。でも、教えるのはこれぐらいにしておこう。お楽しみは会った時に。あいつきっとびっくりするだろうなあ。楽しみだ。親族に大切な彼女を紹介するのって、こういう気持ちなのかあ。ニヤケる顔を一生懸命おさえつつ、僕はいつもの電車に乗った。

12/5/2023, 9:51:10 AM

「僕と、付き合ってくれませんか」
抱えていた薔薇の花束をひざまずいてそっと差し出す。キミは驚きながらも少しはにかんで僕に一歩近付く。
「よろこんで」
その言葉の後、まるで恋愛映画のエンドロールのように、タイミングよくどこからか風が吹いて僕らを祝福するんだ。
胸に花束を抱いたキミはじっと僕を見つめる。その瞳は微かに潤んでいる。僕はキミの頬に手をそえ顔を近づける。
そして、愛の口づけをキミに――――


「でっ」
物凄い衝撃を背中に受けた。頭の上でジリリリリとけたたましい音が鳴っている。ぼんやりしてる頭でも理解した。僕はベッドから落ち、この鳴り止まない音の正体は目覚まし時計だ。
つまり、つい今しがたまでのキミとの出来事は。
「全部……夢」
なんだよ。夢なら最後までさせてくれよ。悪態をつきながらゆっくりと起き上がる。今日の目覚めはとことん酷いものだ。あともう少しだったのに。畜生。
だがいつまでも夢に浸ってられない。いい感じに寝坊してるではないか。慌ただしく歯を磨き、顔を洗い着替える。時間を見たくて部屋のテレビをつけると、ちょうど占いコーナーが放送されていた。
『思いが通じる大チャンス?!ラッキーアイテムは薔薇の花束です』
「……まさかな」
今日、伝えろと言うのか。いつもは占いなんかに振り回されないのに、今日の結果はやたら気になる。薔薇か。確か大学のすぐ近くに花屋があった。寄るだけなら……いいか。まだ買うかは分からないけど、ちょっと覗いてみてもいいかもしれないな。
寝坊したというのに、僕は念入りにヘアスタイルを確認し、折角着たTシャツを脱ぎその代わりに一昨日買ったばかりの白いカッターシャツを身につける。一応、万が一の時のために身なりは整えておくべきだからな。
「よし」
鏡でいま一度自分の姿を確認する。もうこの時点で遅刻は確定。でも、今の僕にはそんなこと頭のどこにも考えちゃいなかった。

12/4/2023, 9:44:51 AM

「さっむーい」
バスを降りて開口一番に彼女が言った。だから家の前までで良かったのに。そう言ったら頬を膨らませて僕を睨みつけてきた。
「なんでそゆこと言うの」
「だって、これで風邪でもひかれちゃ悪いと思って」
「そうじゃないでしょ。見送りに来てくれてありがとう、でしょ?」
「……はい」
「全くもう。も少し感傷に浸りなさいよね。暫く会えなくなるんだから」
そうなんだよね。君のテンションがいつもと変わらないからこれがこのままずっと続くと錯覚してしまう。僕はこれからこの国を旅立つ。それなりに遠い異国へ行ってしまう。つまり、君とは明日にはもう会えなくなる。早起きが得意でない彼女だけど、今日だけは頑張って起きて駅までついて来てくれた。その気持ちが本当にありがたいよ。それを思ったら、なんだか、ようやく寂しい気持ちが溢れ出てくる。
「元気でね。たまには手紙ちょーだいよね」
「うん、分かった」
「あんまりぼーっとしないようにね。隙を見せるとなんかの事件に巻き込まれたりするよ」
「そんな物騒な国じゃないから大丈夫だよ」
「肉ばっかり食べてちゃダメよ。魚も食べなさいよね」
「あはは。何それ、お母さんみたい」
「あのね!本気で言ってんの。あんたの食生活すぐ偏るんだから」
きっと、どちらも会話が途切れるのを恐れてる。少しでも間ができれば次に言うのは別れの言葉だ。それを知っているから、今になってお互いにどうでもいい話をするんだろうな。
けれど時間は無限じゃない。とうとう僕が乗る列車の発車時刻になってしまった。汽笛の音がやたらと心臓に響いた。言わずもがな彼女の顔はさっきまでと打って変わって引き攣っていた。
「見送り、ありがとう。君も体には気をつけてね」
「……うん」
「じゃあ、」
「ダメ」
僕の口を彼女が両手で押さえた。その時には既に、彼女の両目から涙が流れ落ちていた。
「サヨナラは言わないで」
震える手が僕の口をおさえている。僕はその細くて冷え切った手をそっと掴む。彼女は涙でぐちゃぐちゃになった顔で僕を見上げる。ありがとう、優しい君と出会えて本当に良かった。その気持ちを込めてぎゅっと抱き締める。
「その代わりに違う言葉を言うよ」
「……なぁに」
「大好きだよ」
僕のその言葉を聞くと、彼女は声を出して泣いた。人目もはばからず、わんわんと大泣きをした。そして、ずるいよ、と僕に訴えながら抱きついてきた。そうだよね、ずるいよね。こんな、最後の時に言うなんて。でもサヨナラは言わなかったから。僕らまた会える。約束するよ。また君のもとに戻って来るから。その時までのしばしのお別れだ。
君は僕の大切な人。離れても、それは変わらない。
そんな君に、サヨナラの代わりにありがとうと大好きを。

12/3/2023, 7:37:38 AM

「そろそろ日の出だ」
隣で兄が言った。私は手際よく荷物をまとめだす。もう間もなくすると、ここにいられないからだ。
ずっと夜の帳が下りたままの世界があったらいいのに。そう何度思ったことか。でも、この世界の大半の人は太陽の下で生きることに喜びを感じている。『ニンゲン』という種族は日に当たらないと弱っていくらしい。私達とは正反対の生き物だ。一生、相まみえない。
徐々に東の空の明度が上がってきた。ここから夜になるまで息を潜める。長い昼間が始まる。でも実は、この瞬間はそんなに嫌いじゃなかったりする。光と闇の狭間を目の当たりにすると、もっと世界には知らないことが沢山あるんじゃないかって思えてしまうのだ。それをいつか目にしたいとも思うけど所詮こんな体質では無理な話だろう。
だからせめて、この朝焼けの空だけでも楽しもうと限られた数分間を目に焼き付ける。隣の兄は忌々しそうに東の空を睨んでいた。けれど私は眩しさに目を細めながら、白くなった月に祈った。いつか朝日を浴びることができますように。光も闇も愛せますようにと。

12/2/2023, 9:01:18 AM

考えてみたら。僕は君の名前も知らないしどこに住んでるのかも分からない。着ている制服から隣の区の女子校だってことは分かった。僕の通ってる高校からはそんなに遠くないけど、そこへ行く用事は到底無いからやっぱりここでしか君とは会えないんだ。
この、朝の通学の電車の中でしか。
いつもと同じ時間の7両目、扉側のところ。いつも君はそこに立って文庫本を読んでいる。僕はそのそばに立って吊り革を持っていた。時折人に押されながらも君は熱心に本を読んでいる。その横顔が綺麗だと思った。多分僕と年齢は大して変わらないだろうに、すごく大人びて見える。横顔からまつ毛とかおくれ毛がそう思わせるのかもしれない。
何でこんなに気になるんだろう。ただ可愛いだけなら、うちのクラスの女子もなかなかの子がいる(そんなこと彼女らの前で口が裂けても言えないけど)。
考えれば考えるほど君のことが気になって仕方がない。毎朝十数分だけでは足りない。本当は話しかけてみたいのに、それもできない。所詮僕にはそんな勇気が無いのだ。だからこうして今日もただ君の横顔を盗み見ることしかできない。これじゃあ変態みたいじゃないか。
そして僕の降りる駅まできてしまった。僕は彼女より後に乗って、彼女より先に降りる。どうにも出来ないのだけど、なんだかやるせなくなる。電車が停まる頃合いに、後ろ髪を引かれる気持ちでドアのほうへ近づく。
「大丈夫?」
「え」
最初は誰が誰に話し掛けたのか分からなかった。控え目な声が僕の耳に届いて、視線を上げたらまさかの彼女の瞳とぶつかった。そしてもう一度、大丈夫?、と言った。どうやらこれは僕に向かって言ったらしい。まさか、と思った。けれど色々驚いている場合じゃない。
「えっ……と、何が」
「顔色が悪いよ」
そうなのか。自分じゃすぐに確かめられないけど彼女の目に映る僕はそう見えるらしい。そう言えば夜中までオンラインゲームに没頭してたせいで昨日の睡眠時間は3時間くらいだった。寝坊して朝ご飯を食べる暇なんてなかった。もしかしたらそのせいなのだろうか。何たる恥ずかしさだ。
「はい、これ」
ドアが開く。その瞬間に右手に何かを握らされた。人が押し寄せ僕は流れに逆らえず電車から吐き出されるように降りた。あっという間に乗降客の群れに呑まれ、ホームでもみくちゃにされる。僕が降りる駅は人の乗り降りが激しいのだ。そうこうしてるうちに、彼女を乗せた電車はベルを鳴らし、ドアが閉まるとさっさと発車してしまった。
「……会話、したんだよな」
僕はまだホームに突っ立っていた。そして、握りしめていた右手をそっと開く。ミルキーの飴が3粒。こんな可愛いことしてくるなんて。どうしてくれるんだ。これじゃあより一層忘れられなくなったじゃないか。僕は君のことを何も知らないというのに。
でもこれで、飴のお礼を言うという立派な口実ができた。明日もあの時間のあの場所に居てくれよ。じゃなきゃ、いつまでたっても君への距離が縮まらない。今日が始まったばかりだと言うのに、明日がもう待ち遠しい。


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