ゆかぽんたす

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「そろそろ日の出だ」
隣で兄が言った。私は手際よく荷物をまとめだす。もう間もなくすると、ここにいられないからだ。
ずっと夜の帳が下りたままの世界があったらいいのに。そう何度思ったことか。でも、この世界の大半の人は太陽の下で生きることに喜びを感じている。『ニンゲン』という種族は日に当たらないと弱っていくらしい。私達とは正反対の生き物だ。一生、相まみえない。
徐々に東の空の明度が上がってきた。ここから夜になるまで息を潜める。長い昼間が始まる。でも実は、この瞬間はそんなに嫌いじゃなかったりする。光と闇の狭間を目の当たりにすると、もっと世界には知らないことが沢山あるんじゃないかって思えてしまうのだ。それをいつか目にしたいとも思うけど所詮こんな体質では無理な話だろう。
だからせめて、この朝焼けの空だけでも楽しもうと限られた数分間を目に焼き付ける。隣の兄は忌々しそうに東の空を睨んでいた。けれど私は眩しさに目を細めながら、白くなった月に祈った。いつか朝日を浴びることができますように。光も闇も愛せますようにと。

12/3/2023, 7:37:38 AM