aida

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10/19/2023, 2:50:56 PM

『すれ違い』

 誰もいない教室、私と君だけが夏でもない秋でもない日光で照らされている。ただひたすらに他愛もない話をした。なぜだか知らないが、金木犀の香りがした。おかしいな。まだ九月が始まったばかりなのに。ふと口にした私の言葉に君は相づちを打って、それから金木犀の話をした。どうやら金木犀は夜の方が香りが強くなるんだと。正直植物の話にはあまり興味が持てないもので、君の金木犀の話もそこそこに、私は違う話題を考えた。特に理由もなく、ただなんとなく君のほうを見た。しかし、私の目に入ってきたのは君ではなく君の先に続いている廊下だった。なんだかその廊下が、私たちの今いるこの廊下が、とても気色悪い気がした。なぜだか違和感を感じた。何だろうか、と少しの間考えた後に、私はある疑問にたどり着いた。

 なぜ私と君は廊下にいる?

 私たちはさっきまで廊下なんかにはいなかった。教室、そう教室だ。誰もいなかった。私と君以外。君が金木犀の話をして、話題を考えて、気がついたら廊下にいたんだ。教室から、急に、あれ。そもそも私たちは教室に来る前何処にいたんだろうか。玄関から入ってきた記憶はなかった。おかしい。何も辻褄が合わない。いつから学校にいたのだろう。どのくらい滞在している。先生たちはいないのか。気持ち悪い汗が首に垂れた。そもそも今は何日だ。何時だ。いや、そんなことよりも、




 私のとなりにいるこの人は誰だ。





すれ違い要素無いんだが笑

8/21/2023, 6:26:17 PM

『鳥のように』

 「僕もいつか鳥みたいに自由に空を飛んでみたい」
 それがリクの口癖だった。
 
 リクには翼があった。生まれたときからだ。ある実験施設で【空飛ぶ人間】を産み出すためにリクは作られた。しかし、リクの翼は小さすぎた。ほんの少し地から体を浮かせることしかできなかった。リクは実験のデータを取り終えたらすぐに処分されることになった。
 それまでリクは人並みの生活を送った。リクは本を読むのが好きだった。いつも本で多くの知識を身に付けては、楽しそうに監視係の研究員に報告しに行った。
 研究施設には、リクの他にも【空飛ぶ人間】のために作られたリクのような子ども達がいた。しかしリク以外は全員大きな翼を持ち、皆リクよりずっと【空飛ぶ人間】に近かった。リクは他の子ども達からいつも嫌がらせを受けていた。所謂いじめ。しかしリクは他の子ども達に憧れた。リクの持っていないものを持っていたから。
 いじめはエスカレートした。

 その日は空にたくさんの雲が流れていた。

 リクはその小さな背中を押された。8階から。
 僕は死ぬんだ。リクは本能でそう悟った。

 落ちていく最中、気付くと誰かと手を繋いでいた。誰かとそちらを見ると、施設の子ども達より一回りも二回りも大きな純白の翼を背中にはやした少女の見た目をした天使だった。リクは一目で少女が天使だとわかった。少女は綺麗な声で
 『ひとつだけお願いかなえてあげる。落ちきる前に言って。はやく。』
と、イタズラっぽくリクに言った。リクは迷わず
 「鳥みたいに自由に空を飛んでみたい」
と言った。少女はクスリと笑った。
地面に落ちる直前、リクはバサッと大きなはためく音と共に目を開けた。いつの間にか少女と共に空を飛んでいた。少女とはもう手を繋いでおらず、リク自身の力で飛んでいることがわかった。少女はまたクスリと笑って
 『リクはホントに空を飛んでみたかったんだね。ああいう時ってみんな生きたいってお願いするんだよ。』
と言った。遠くでリクを落とした窓から地面のほうを覗く施設の子ども達が見えた。

 『行こう。リクの行ってみたい場所、全部!』
リクは少女と共に遠くへ遠くへと翼を広げて飛んでいった。






久しぶりの投稿でした…!

7/8/2023, 12:24:58 PM

『街の明かり』

 街の明かりが嫌いだった。夜に光るその光は、私にはあまりに眩しかった。人間の醜さが目に見えるようだった。何よりも嫌いだった。だから壊すことにした。私の嫌いなものは、私の前から無くなってしまえばいい。
 ずっと小さな頃からテロ的なニュースを見るたび思っていた。
 どうしてみんな壊せる力があるのにかたっぱしから破壊しないんだろうと。
 脅威をなぜ最初から消さないのだろうと。
 そんな小さな損害じゃ、君たちの嫌いなものは痛くも痒くもないのに。
 
 最初から町中に爆弾を置いておけば捕まる心配もなにも不安なんてないのに。

 そう思いながら私は、手の中の真っ赤なボタンを押した。
 これであんな奴らから解放される。
 あぁ、これでやっと夜が訪れるんだ、そう感じた。


 [速報です。○○県△△市を中心に○○県に大爆発が起こりました。爆破原因は不明で、現在調査中とのことです。近隣にご在宅の皆さんは…]


 きっともうすぐ調査員的な人間達が大勢来るのだろう。爆破されるとも知らずに。
 これが私の始まり。私が彼女達に拾われて、一緒に暮らすまでの話。


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読んでくださりありがとうございました!こういう過去話好きです。

5/28/2023, 2:11:44 AM

『天国と地獄』

 ハルは病院の最上階の病室にいた。ハルのいる病院では、死期が近い患者は天国に一番近いとされている、病院の最上階である110階の病室へと移される。ハルも生まれつき持っていた病気が最近ひどく悪化し、もう助かる見込みがなくなったため最上階の病室にきた。ハルは病室のベットの上から病院の周りに広がる広大な美しい海を眺めていた。
 ハルは最上階の病室に来るずっと前から自分が死ぬことを悟っていた。病院に始めてきた日、ハルには美しい翼が背中にはえた幼い見た目の天使が見えた。ハルを病院に連れてきた人や、病院で働く看護師さんなんかは見えていないようだった。その天使はハルに、アセビという綺麗な花をプレゼントした。ハルは入院して以来、ずっとその花を自分の病室の花瓶に紫のアネモネと一緒に飾っている。他の人には天使がくれたアセビが見えないらしく、いつもアネモネの方だけをほめられるので、少し寂しかった。しかし、天使がよく遊びにきたので寂しさはすぐに無くなった。
 天使はほとんど喋らず無口だったが、ハルの話をよく聞いてくれた。ハルは植物や自然の話が好きだったが、天使に出会うまでハルの話をよく聞いてくれるものはいなかったので、天使と話している時間が好きだった。少し不思議だったのは、天使が帰っていく時毎回窓が開けられないことだった。天使に聞くと、『天国に帰る姿を見せたくない』ということらしかった。
 ハルの病状が悪化し、85階の病室に移され、ハルの周りに2つの変化が現れた。ひとつは、天使が遊びに来る頻度が少しだけ減り、かわりに悪魔も遊びにくるようになったこと。天使が遊びに来ない日は決まって悪魔が遊びにきた。悪魔はおしゃべりだった。
 ある時、ハルに赤いアネモネと白いエゾギクをプレゼントした。ハルは悪魔に「ごめんなさい」という言葉とともにカエデの葉をあげた。悪魔は少し悲しそうにしたが、すぐに笑顔になっていつものように話をした。その日帰るとき悪魔はアンモビウムをハルの部屋の花瓶にさし、[また来るね]と言って帰っていった。今も悪魔は遊びに来る。
 もうひとつは、同室となった12歳くらいの少女とよく話すようになったこと。 少女はモモという名前だった。モモは穏やかだけどおしゃべりで、誰でも楽しく喋ることができるような話し方をする。ハルはモモの話を聞くのが好きだった。ある時モモは〔あくまで私の考えだけれど〕と前置きして、天国は地より下に、地獄は空より上にあるのではないかということを話してくれた。
 〔だって花は地面から咲くし、死んだ人は地面に埋めるでしょ。それで少しでも天国に行きやすくしてるんじゃないかって。それに、空に近づいていったりしたら苦しくて息ができないじゃない。〕
確かに、とハルは思った。〔だから私、あまり上に行きたくないの。〕モモはそう言うと、検査に呼ばれて行ってしまった。
 そしてハルは110階にきた。天使は変わらず遊びにきてくれたが、下の階にいた頃より来るのが大変そうだった。悪魔は前よりたくさんきた。モモはまだ93階にいる。
 最上階の病室の窓は大きい。天使が来やすくするためらしい。天使や悪魔から貰った花はいまだに枯れず、花瓶に入れられ美しく咲き誇っている。
 ある日、悪魔が遊びにきた。悪魔は悲しそうな目をしていた。悪魔は帰る前にハルに窓の前に来てほしいと言った。ハルが言われた通りにすると、悪魔はまるで写真のように綺麗な青空を背景にしたハルを見て[綺麗。]と呟いた。そして
 [これからのハルが幸せでありますように]
そう言ってハルを窓から突き落とした。ハルの視界にめいっぱいの空色が広がる。
 海に落ちる。
そう思った瞬間、天使がハルを受け止めた。ハル達はそのまま海へ落ちた。天使はハルの手をしっかりと握ると、もう片方の手を海底にかざし、海底に向かってハルと進んでいった。ハル達は天国についた。海の底の天国でハル達は楽しく話をした。



数時間後ハルは海に浮かんで死んでいるところを発見された。ハルの病室の窓辺には雨なんか降っていないのに、水滴のついた赤いアネモネが置いてあった。



長くてごめんなさい…!

花言葉
アセビ…犠牲、献身、"あなたと二人で旅をしましょう"
紫のアネモネ…"あなたを信じて待つ"
白いエゾギク…"私を信じてください"
赤いアネモネ…"君を愛す"
カエデ…"大切な思い出"、美しい変化、"遠慮"
アンモビウム…"不変の誓い、永遠の悲しみ"

悪魔はハルが好きだったので、地獄に連れていくため、花を送って気持ちを伝えた。しかし、ハルがカエデをくれたので、アンモビウムで悲しいけど、あなたへの思いは変わらないということを表した。悪魔はハルが幸せになれるように尽くすこと、天国へハルを送ることを誓い、天国のある海の底に突き落とした。
天使は海の底から病室まで飛んでいたため、最上階に近づくたびに来るのが大変になった。悪魔は空から来るので最上階に近づくたびに来やすくなって遊びに行く頻度が増えた。
最後の赤いアネモネに水滴がついていたのは悪魔が泣いたため。

4/2/2023, 11:29:16 AM

『エイプリルフール』

 「私、実は天使なんだよね。羽とかわっかとか無いけど。」
私のとなりに座る彼女は、桜の咲く大木の下でそう言った。私らの住む地域には100年に1度だけ天からの使者(みんな天使って言ってるけどこれが正しい言い方らしい)が何らかの理由で苦しんでいる人を救済するために降りてくるという神話がある。何らかの理由って言うのは、降りてくる天使によって違う理由で苦しむ人を救済するから、条件が分からないらしい。この話はいろんな人に聞いたけど、みんな分かんないんだって。
 あまりに彼女が急に言ってくるのもだから、私は彼女に頼んで作ってきてもらったティラミスを喉に詰まらせそうになってしまった。私は思わず
 『マジ?』
と聞いた。いつも楽しそうに面白おかしく喋る彼女が、こんな真剣な顔で冗談を言うと思えなかったから。そうだ。だから聞いたのだ。すると彼女は
 「うん。」
とみじかく返事をした。そして
 「もうすぐ役目が終わりそうだから、言っておこうと思って。」
と言った。役目とは、きっと救済のことだろう。それじゃあ、もう天国にかえってしまうということだろうか。そう考えた私は、思わず彼女に抱きついた。そして彼女がとまどっているのに目もくれず
 『待って。やだよ。あんたがいなくなるなんて。私も連れてって。』
気づけばそう言っていた。彼女は一瞬驚いたが、私の気持ちを考えてくれたのか、
 「大丈夫だよ。」
と私からゆっくりはなれてそう言った。私たちに帰宅を促すかのように、時計塔の鐘が鳴る。何故か私は安心してしまい、彼女の微笑みにこたえるように私も笑った。すると彼女は、急にいつもの彼女に戻ったかのように
 「じゃあ追いかけっこしよ!私逃げるね!はいっ、始め!」
そう言って走り出してしまった。驚いたが、彼女が唐突になにかを始めるのはいつものことだ。なんとなく嬉しくなって、私も彼女を追いかける。でも、目の前を走っていた彼女が転んでしまい、私も彼女につまずいて2人で原っぱに仰向けに転がる。互いに目があった私たちは、可笑しくなって大笑いした。ひとしきり笑ったあと、彼女が
 「さっきの話、嘘だよ。」
と言って、スマホの時計を見せてきた。時刻は4月1日の午前0時2分。
 「ほら、エイプリルフール」
理解したけど理解したくない事実を再確認させるように、彼女はそう言った。
 『え、じゃあ...』
 「うん。私が天使ってことも、もちろん役目が終わるなんてことも嘘。」
 『なんだよぉ...ほんとかと思ったじゃん...』
 「あはは、ごめんごめん。大丈夫だよ。あんたの前からいなくなったりしないって。」
 『よかったぁ...』




 よかった。時間になる前に言うことができた。時間になっちゃったら、そこからは嘘になっちゃうもんね。



(ここからは投稿主が喋るだけです)
 スクロールお疲れ様でした!ここまで読んでくださりありがとうございます!
 んだこの小説って思われた方もいらっしゃると思うんですが、私なりに色々考えてかいたので、少し補足というか説明的なのを書かせてください。

・まず、時計塔の鐘のタイミングについて。”彼女”が、自身が天使であると言うことを話したあとに、時計塔の鐘が鳴っています。そしてこの話の最後の、スマホの時計の時刻は4月1日の0時2分。つまり時計塔の鐘は、4月1日になった瞬間に鳴らされていることになります。(私のなかで時計塔の鐘は0時ぴったりに鳴るイメージなんですぅ適当とか言わんといてくださいぃ) ということは、鐘が鳴る前に話された”彼女”が天使であると言う話は…

・次にこの話の序盤に出てきたなんの変哲もなさそうなティラミス。ティラミスにしたのにはちゃんと理由があります。ティラミスには「私を上へ引っ張って」「私を元気付けて」などの意味がありますが、実は『私を天国へ連れてって』と意訳されることもあるそうです。(本来はアダルトな意味ですが、ここでは特にアダルトにはしてません笑)
そして”私”は”彼女”にティラミスを作ってもらった。と言うことは…

あと、最後の所は、視点主が変わってます。”私”から”彼女”に。

他にも色々なところに表現を工夫した箇所があるので、ぜひ考察してみてほしいです!
誤字脱字等あったらすみません。

私的には、”私”は生きるのが苦しかったけど”彼女”といる時間が救済のように感じて、もしも”彼女”が天使だったら、”彼女”に天国へ連れてって欲しかった。みたいなのが”私”の中にあるんだよねーってことが伝わってほしいなぁーって思ってます。ホントに長文過ぎて自分でもびびってますごめんなさい。果たしてここまで読んでくださる方がいらっしゃるか…読んでくださっていたら私が泣いて喜びますありがとうございます。

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