待って、行かないで。言葉にすることはできない。今すぐにでも叫んで君を抱きしめたいのに。どうしてこんなことになってしまったのだろう。私はいつからここにいる?もう何日だろう。ここから動くことができないのは。ずっと同じ場面を見せられてる。君が、目の前で死ぬ。もう何回目だろう。7回目で数えるのはやめた。目を閉じたくても閉じられない。背けようとしても、逃げ出そうとしても、脳みそと身体が完全に別物になったみたいに、身体だけが別の人のもののように動かせない。思い通りに動かない。きっと私は、夢を見ているのだろう。夢は意外と思い通りにならない。人は、今日あったことを整理するために夢を見るんだとか。なら君は今日死んだのだろうか。夢で長い時間を過ごしたと思っていても、現実ではあまり時間が経っていないことがある。
常人であれば、人が死ぬという不快感を与えるだけの悪夢を見たいなどとは思わないだろう。ああ、でも私はきっと、しばらくはこの夢が醒めてほしいとは思わないんだ。だってこの夢から醒めてしまえば、嫌悪と憎しみが渦巻く現実へ引き戻され、君がこの夢通り死んでいるのであれば、万が一にも生きていた君を見ることができないから。もし君の夢をまた見ることができ、会話ができたり、君が笑ったり、怒ったりしても、それは私の想像上の君でしかない。こう言ったら君はこう返してくれる、こうすれば泣く、そういう私の中の認識だけで作られた君だ。だから、いらない。私は君の理解できない言動が好きだったのだ。
他者がどう思っているかなんて、嫌でも分かった。文字通り手に取るように、目に見えるように。私の目に映る奴らの情感は、どれも幼い頃の私の心にひどい傷をつけた。年をくってもそれは変わらない。
でも君は。君だけは他者とは違った。
君の感情だけは奴らと違って全く予想のつかない起伏を見せた。私は恐ろしくなって一度君から逃げた。でも君は私に寄ってきた。私を気味悪がったり、いいように使ったりなんてしなかった。
しかし君はもういない。今ここから去り、目を醒ませば、君は私を驚かせるために物陰に隠れていて、私がそれを見つける。何て言うことはもうない。私が目を覚まし、目の前にあるのは、もう私の瞳に感情を映すことのない君。質問しても、もう答えてはくれない君。
何でなんだろう。私は君が好きだった。他のどんな人間よりも。なのにどうして。
私自身も分からなくなってしまった。何故あの時、あんなことをしたのか、君はなんでも私の予想を上回る。私の想像の斜め上を行く。私はそれが好きだったはずなのに。
でも後悔先に立たずなんて言葉の通り、後悔はしたときにはもう手遅れなのだ。君はもう私の前に現れてくれない。私の好きだった、あの理解不能な言動をまた私の前で披露してはくれない。私の目の前に映るのは未だ君の死ぬシーン。君の顔はよく見えない。私は毎回絶望している。
人は、望んだことをたくさん現実にしてきた。だから、せめて私もこれだけは君に言いたい。一度でいいから君を抱きしめてこの夢を去りたい。今だけは神を信じよう。お願い、神様。
この夢が、醒める前に。
『夢が醒める前に』