『鳥のように』
「僕もいつか鳥みたいに自由に空を飛んでみたい」
それがリクの口癖だった。
リクには翼があった。生まれたときからだ。ある実験施設で【空飛ぶ人間】を産み出すためにリクは作られた。しかし、リクの翼は小さすぎた。ほんの少し地から体を浮かせることしかできなかった。リクは実験のデータを取り終えたらすぐに処分されることになった。
それまでリクは人並みの生活を送った。リクは本を読むのが好きだった。いつも本で多くの知識を身に付けては、楽しそうに監視係の研究員に報告しに行った。
研究施設には、リクの他にも【空飛ぶ人間】のために作られたリクのような子ども達がいた。しかしリク以外は全員大きな翼を持ち、皆リクよりずっと【空飛ぶ人間】に近かった。リクは他の子ども達からいつも嫌がらせを受けていた。所謂いじめ。しかしリクは他の子ども達に憧れた。リクの持っていないものを持っていたから。
いじめはエスカレートした。
その日は空にたくさんの雲が流れていた。
リクはその小さな背中を押された。8階から。
僕は死ぬんだ。リクは本能でそう悟った。
落ちていく最中、気付くと誰かと手を繋いでいた。誰かとそちらを見ると、施設の子ども達より一回りも二回りも大きな純白の翼を背中にはやした少女の見た目をした天使だった。リクは一目で少女が天使だとわかった。少女は綺麗な声で
『ひとつだけお願いかなえてあげる。落ちきる前に言って。はやく。』
と、イタズラっぽくリクに言った。リクは迷わず
「鳥みたいに自由に空を飛んでみたい」
と言った。少女はクスリと笑った。
地面に落ちる直前、リクはバサッと大きなはためく音と共に目を開けた。いつの間にか少女と共に空を飛んでいた。少女とはもう手を繋いでおらず、リク自身の力で飛んでいることがわかった。少女はまたクスリと笑って
『リクはホントに空を飛んでみたかったんだね。ああいう時ってみんな生きたいってお願いするんだよ。』
と言った。遠くでリクを落とした窓から地面のほうを覗く施設の子ども達が見えた。
『行こう。リクの行ってみたい場所、全部!』
リクは少女と共に遠くへ遠くへと翼を広げて飛んでいった。
久しぶりの投稿でした…!
8/21/2023, 6:26:17 PM