aida

Open App

『天国と地獄』

 ハルは病院の最上階の病室にいた。ハルのいる病院では、死期が近い患者は天国に一番近いとされている、病院の最上階である110階の病室へと移される。ハルも生まれつき持っていた病気が最近ひどく悪化し、もう助かる見込みがなくなったため最上階の病室にきた。ハルは病室のベットの上から病院の周りに広がる広大な美しい海を眺めていた。
 ハルは最上階の病室に来るずっと前から自分が死ぬことを悟っていた。病院に始めてきた日、ハルには美しい翼が背中にはえた幼い見た目の天使が見えた。ハルを病院に連れてきた人や、病院で働く看護師さんなんかは見えていないようだった。その天使はハルに、アセビという綺麗な花をプレゼントした。ハルは入院して以来、ずっとその花を自分の病室の花瓶に紫のアネモネと一緒に飾っている。他の人には天使がくれたアセビが見えないらしく、いつもアネモネの方だけをほめられるので、少し寂しかった。しかし、天使がよく遊びにきたので寂しさはすぐに無くなった。
 天使はほとんど喋らず無口だったが、ハルの話をよく聞いてくれた。ハルは植物や自然の話が好きだったが、天使に出会うまでハルの話をよく聞いてくれるものはいなかったので、天使と話している時間が好きだった。少し不思議だったのは、天使が帰っていく時毎回窓が開けられないことだった。天使に聞くと、『天国に帰る姿を見せたくない』ということらしかった。
 ハルの病状が悪化し、85階の病室に移され、ハルの周りに2つの変化が現れた。ひとつは、天使が遊びに来る頻度が少しだけ減り、かわりに悪魔も遊びにくるようになったこと。天使が遊びに来ない日は決まって悪魔が遊びにきた。悪魔はおしゃべりだった。
 ある時、ハルに赤いアネモネと白いエゾギクをプレゼントした。ハルは悪魔に「ごめんなさい」という言葉とともにカエデの葉をあげた。悪魔は少し悲しそうにしたが、すぐに笑顔になっていつものように話をした。その日帰るとき悪魔はアンモビウムをハルの部屋の花瓶にさし、[また来るね]と言って帰っていった。今も悪魔は遊びに来る。
 もうひとつは、同室となった12歳くらいの少女とよく話すようになったこと。 少女はモモという名前だった。モモは穏やかだけどおしゃべりで、誰でも楽しく喋ることができるような話し方をする。ハルはモモの話を聞くのが好きだった。ある時モモは〔あくまで私の考えだけれど〕と前置きして、天国は地より下に、地獄は空より上にあるのではないかということを話してくれた。
 〔だって花は地面から咲くし、死んだ人は地面に埋めるでしょ。それで少しでも天国に行きやすくしてるんじゃないかって。それに、空に近づいていったりしたら苦しくて息ができないじゃない。〕
確かに、とハルは思った。〔だから私、あまり上に行きたくないの。〕モモはそう言うと、検査に呼ばれて行ってしまった。
 そしてハルは110階にきた。天使は変わらず遊びにきてくれたが、下の階にいた頃より来るのが大変そうだった。悪魔は前よりたくさんきた。モモはまだ93階にいる。
 最上階の病室の窓は大きい。天使が来やすくするためらしい。天使や悪魔から貰った花はいまだに枯れず、花瓶に入れられ美しく咲き誇っている。
 ある日、悪魔が遊びにきた。悪魔は悲しそうな目をしていた。悪魔は帰る前にハルに窓の前に来てほしいと言った。ハルが言われた通りにすると、悪魔はまるで写真のように綺麗な青空を背景にしたハルを見て[綺麗。]と呟いた。そして
 [これからのハルが幸せでありますように]
そう言ってハルを窓から突き落とした。ハルの視界にめいっぱいの空色が広がる。
 海に落ちる。
そう思った瞬間、天使がハルを受け止めた。ハル達はそのまま海へ落ちた。天使はハルの手をしっかりと握ると、もう片方の手を海底にかざし、海底に向かってハルと進んでいった。ハル達は天国についた。海の底の天国でハル達は楽しく話をした。



数時間後ハルは海に浮かんで死んでいるところを発見された。ハルの病室の窓辺には雨なんか降っていないのに、水滴のついた赤いアネモネが置いてあった。



長くてごめんなさい…!

花言葉
アセビ…犠牲、献身、"あなたと二人で旅をしましょう"
紫のアネモネ…"あなたを信じて待つ"
白いエゾギク…"私を信じてください"
赤いアネモネ…"君を愛す"
カエデ…"大切な思い出"、美しい変化、"遠慮"
アンモビウム…"不変の誓い、永遠の悲しみ"

悪魔はハルが好きだったので、地獄に連れていくため、花を送って気持ちを伝えた。しかし、ハルがカエデをくれたので、アンモビウムで悲しいけど、あなたへの思いは変わらないということを表した。悪魔はハルが幸せになれるように尽くすこと、天国へハルを送ることを誓い、天国のある海の底に突き落とした。
天使は海の底から病室まで飛んでいたため、最上階に近づくたびに来るのが大変になった。悪魔は空から来るので最上階に近づくたびに来やすくなって遊びに行く頻度が増えた。
最後の赤いアネモネに水滴がついていたのは悪魔が泣いたため。

5/28/2023, 2:11:44 AM