Ryu

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3/29/2025, 1:07:12 AM

名前も顔も居場所も伏せて、ネットの隅っこで虎視眈々と。
やらかした標的を見つけ出して、完膚無きまでに叩きのめす。
何の恨みもないが、正義の言葉を振りかざし、反撃はされない安全地帯で、言いたいことを言える小さな幸せ。

リアルでは、発言権は行使しない。
だって、暴力に訴える輩がいるから。
だけどもし、そんな奴らが逮捕されて、メディアに載ることがあるようなら、その時は心置きなく叩かせてもらうよ。
こちらが完全なる正義。
小さな幸せが、大きな幸せに変わる。

ある日、友達に話したら、
「それは、大きくも小さくもない、歪んだ幸せだ」
と、言われた。
どうかな。
そんなことを言うなら、ボランティアだってデモだって、歪んだ正義かもしれない。
自分より弱い立場の人間を相手にしたり、多勢に無勢で相手を追い込んだり。

「幸せはさ、一人でなるもんじゃないんじゃないかな。誰かと一緒に、誰かが幸せになるのを見届けて、自分も幸せになれる」
件の友達が言う。綺麗事にしか聞こえない。
現に俺は、一人で小さな幸せを満喫してるじゃないか。
「ネットの向こうに、自分に賛同してくれる仲間がいると思ってるんだろ?だから幸せを感じるんだよ。でもそれは、歪んでる。幻想でしかない」

「正義の味方ってのは、倒されて上等な相手と闘うんだよ。相手がそう思ってる。ただの弱りものイジメじゃない」
「弱りもの…」
「理由があって今、弱ってる人。何か悪いことをしてしまったのかもしれないけど、事情があったのかもしれない。そんな事情もまったく知らない人間が、ネットの向こうから好き勝手言える権利なんてないんだよ。そこは、当事者達が解決する」
「…自分の意見を伝えてるだけだよ」
「その意見が真実を歪めるんだ。事情を知らない人間が、感情だけで書いたものだから。自分が正義だと思い込んで」

論破、された気分だ。
ネット上なら、こんなこともないから好き勝手言えるのに。
…そんな権利はないのか。
言論の自由と、暴言の自由は違う。
俺の言葉は暴れまくって、必ず誰かを傷付ける。
ネットの隅っこに隠れてるから、その罪を追及されないだけだ。
いや、きっとそのうち…。

俺にとっての小さな幸せは、それを諭してくれた友達の存在だった。

3/28/2025, 2:30:28 AM

春が来て、桜が咲き乱れ、街は活気づいて賑やかさを増してゆく。
目に映える青空や爽やかな風に誘われて、人々が外の世界に足を向け、笑顔が満ち溢れる季節だ。

そしてそれは、悩み事を抱えづらい季節でもある。
決してこの季節に悩み事が消えて無くなる訳でもなく、状況は何ひとつ変わっていないにもかかわらず、この陽気にほだされて、なんだか人生は楽しいと錯覚してしまう、今日この頃。

まあ、春爛漫の光景を目の前にすれば、それも致し方のないこと。
この雰囲気に飲まれるのが正解なんだろう、日本人としては。
正直、一年に一度必ず咲く花が今年も咲いたとて、いったい何がめでたいのかって話だが、桜咲き乱れるニッポンの風物詩は、きっと世界に誇れる景色と言えるのだろう。

それならば、このお祭りムードに乗じて、些細な悩みなんか吹き飛ばしてしまえばいいのだが、それは一時的なものであって、さすがの桜にもそこまでの力はない。
いずれ花は散り、当たり前の日常が訪れる。
それは思いのほか早く、一度手放した分だけ、悩み事はさらに大きく、増幅されてのしかかってくる。

桜に惑わされている訳だ。
春爛漫の桜には、人を惑わせる力がある。
花見の人達に溢れる公園で、明日の糧を渇望し続けるのは難しい。
何もかもがどうにかなるさで飲めや歌えや。
夢から覚めて、気付けばそこは茨の道か。

それでも、また来年も桜は咲くのだろう。
そしてまた、人生に彩りを与えてくれるのだろう。
儚い宴だとしても、これがあるから人は営み続けられるのかもしれない。

そんなことを思う。
早すぎる花見の酔客を眺めつつ。

3/26/2025, 10:46:36 PM

夕暮れ時、空に七色の光。
UFOだろうか。
いやでも、最近はいろんなタイプのドローンがあるらしい。
七色に光りながら飛ぶドローンなんてのも、普通にありそうだな。
しかも最近は、街中では飛ばせなくなったので、こんな田舎にまでやって来て飛ばす人が多いと聞く。
こんなんで騒いでちゃ、田舎者だって馬鹿にされるかもしれない。
うん、きっとあれはドローンだ。

家の裏手から、聞き慣れない言語が聞こえてきた。
そっと覗くと、銀色の巨頭巨眼な生物が三体ほど。
あれは、グレイってやつだ。
まさか、さっきのはホントにUFOで、それに乗ってきた宇宙人なんじゃ…。
いや、そんな訳がない。
さっきのはドローンだし、ドローンに人が乗れないことぐらい知っている。
きっとあれは、ハロウィン用の仮装なんだろう。
宇宙人の仮装だ。
今やハロウィンの渋谷は大混雑で、治安も悪いと聞くから、こんな田舎で仮装することにしたのかもしれない。
これから公民館にでも集まるのかな。

どこかで聞き慣れた声がして見上げると、ウチで飼っている牛が空へ昇っていく。
おお、キャトルミューティレーション?とか思ったが、ドローンにそんな機能はないし、仮装してBBQって訳でもないだろう。
そもそも、あんな重い動物をあんな軽々と吸い上げられるはずがない。
これはきっと、最近巷でよく聞くフェイク動画ってやつなんだろう。
どうやって見せられてるのかは分からんが、プロジェクトマッピングとやらで可能なのではないだろうか。
…知らんけど。

とにかく、村は今日も平和だった。
ドローンもハロウィンもフェイク動画も、都会で流行るものは、遅れてここにもやって来る。
それらを受け入れて、これからもこの村で生きてゆく。
山田太郎、77歳。

3/26/2025, 12:07:29 AM

思い出せるのは、仲の良かった数人の友達。
一緒に富士急ハイランドに行ったこと。
帰り道の車の運転を任されて、少し緊張しながら山道を走らせていたこと。

日が暮れて、夜の帳が下りてくる。
ヘッドライトの向こうに、変わり映えのしない景色が流れてゆく。
「道、合ってるよな?」
助手席に問いかけるが、答えがない。
「え?なんで?」
助手席にも、バックミラーに映る後部座席にも人の姿はない。
「え?なんで?」

路肩に車を止め、シートベルトを外して振り返る。
誰もいない。そんなバカな。
今日、一緒に遊んだ友達は?
途中で降りた?
いや、赤信号以外、車を止めた覚えはない。
降りられるもんか。
こんな時は、どうすればいい?
しばらく考えて、友達に電話をしてみることに。

スマホを探るが、友達の番号などない。
仕事関係の連絡先ばかり。
不安に駆られながら、写真フォルダを開く。
今日撮った画像が、一枚も無かった。
あんなにはしゃいで撮りまくったはずなのに。
「え?なんで?」
もう、訳が分からない。

友達の顔を思い浮かべようとした。
…出来なかった。
両親や職場の上司の顔しか浮かばない。
あれ…?もしかして、俺に友達なんか、いなかった?
そんな結論にたどり着く。
心が締めつけられるような、夜の山道。
楽しかった、今日の記憶。
でも、誰一人として、その顔は思い出せない。

「記憶の混乱ってのはね、誰にでも起こり得るんですよ。自分の望み通りに塗り替えてしまうこともある」

頭の中を、誰かの言葉がグルグルと回り続ける。
俺はゆっくりと車をスタートさせ、夜の山道を走り続けた。
遠く眼下に、街の灯りが広がっている。

自宅に到着したところで、LINEの着信音が鳴った。
駐車場に車を止め、スマホを開く。
LINEの画面に、
「今日は楽しかったな。また行こうぜ」の文字。
頭が混乱する。
続けて、
「俺が撮った写真送るよ。後でお前のも送ってくれ」
次々と写真が送られてくる。
楽しそうに笑う俺と、思い出せなかった友達の顔。
「他の奴らも、無事に帰宅したみたいだよ。じゃあまたな」
俺は、スマホを握りしめて号泣した。
すべてを取り戻したような気分だった。

記憶の混乱。
現地集合で、それぞれが自分の車で集まった。
運転を任されてなどいない。
皆が、自分の運転でバラバラに帰ったのだ。

スマホに友達の電話番号は一件も登録していない。
LINEグループがあるから、必要性を感じなくて。
電話をするなら、LINEでよかったはずなのに。

写真は、趣味の一眼レフで撮りまくった。
スマホの画像では満足出来ず、ほとんど使っていない。
自慢のカメラには、たくさんの友達の顔が並んでいた。

そして、今日俺達が行ったのは、富士急ハイランドなんかじゃなかった。
山の上のキャンプ場。
大学時代の仲間達が集まって、数年振りのBBQだった。

こんな話。
なんか無理があって、面白みもなく、だからどうしたという内容に思うかもしれないが、これをもう少し、いや、もうひと回り興味を引くエピソードにする言葉がある。
それは、これが「実話」であるということだ。

3/24/2025, 8:29:12 PM

もう二度と、君を離さない。
これまでずっと、君のことばかり考えて生きてきた。
片時も忘れたことはないんだ。
ずっと君を追いかけて、いつかこの手に入れたいと願ってきた。
でも君は、いつだってもう少しのところで、僕をするりと躱して逃げてゆく。
こんな僕の気持ちをからかうように。

でも、今度ばかりは、君も心を決めたんだね。
君の方から僕に手を差し伸べてくれた。
夢のような瞬間。夢にまで見た瞬間。
僕はこの時をずっと待っていたんだ。
君へのプレゼントは、いつだって懐に忍ばせて。
差し出される君の両手。
その、細い両腕に、僕は用意していたプレゼントをかける。

「御用だ、ルパン。もう逃さんぞ」

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