『あなたとわたし』
あなたとわたしは
違っていて当然。
だけれど、
どうしてこの世界は
あなたとわたしを比べたがるのだろう。
違っていて良いのに
常識から逸脱するのは別として
違う事を否定される時がある。
何でも出来るあなたを羨んだり
疎ましく思ってしまったり
わたしの存在価値を
周りが比べる事で
わたしがわたしを見失って
それでいて、自分自身で
何も出来ないレッテルを貼っている事も
気付かないまま
「どうせわたしなんて」
を繰り返して捻くれて行く性格が嫌で仕方なかった。
思春期は、
自分が嫌いで他人も嫌いで
笑う自分も泣く自分も
全てが気持ち悪くて仕方なかった。
あなたとわたしは違っていて当然と
分かっていても
捻くれてしまった性格は中々元には戻らない。
だけれど、その言葉を吐く度に
母親に
あなたは自分の幸せだけを考えれば良いと
あなたはあなたの人生なんだからと
人の目を気にしたり
人の事を考えるよりも
自分を大切にしなさいと
何度も咎められた。
思春期を乗り越え、
大人になって、漸く
わたしとあなたは違っているのは
良い事だと思えるようになった。
それが良い事だと思えると
わたしはわたしを受け入れらるようなれた。
今では、母親のその強さに感謝しかない。
母親が呆れず何度でも、
咎めてくれたおかげで
わたしはわたしになれたのだから。
『一筋の光』
暗闇の中を照らす光
それは、君の笑った顔だった。
辛くて、苦しくて
後悔ばかりしていた毎日で
顔を上げるのも
誰かの感情を見ているのも
億劫になっていた時
君が私を見ていた目は
同情でも哀れみでもなく
いつもと変わらない目だった。
君は、いつもと変わらない日常で
私の目線を上げようとしてくれていた。
変わらず、優しく笑っている君を見ていると
この世の中が少し明るくなったように思えた。
周りの人達の心配する目線から逃げて、
私が勝手に
暗くて足元も見えない世界に
取り残された気持ちになっていただけ。
後悔を私の都合の良い感情にして
涙を言い訳にしていたかったから。
でも、
君が私の目線を上げてくれたから
周りの人達や君の優しさを
感じる事が出来た。
辛いこと、悲しいことを知らない人は
この世には、居ない。
幸福も不幸は、皆んな
同じようにやってくる。
それは、君にも。
いつかは、分からないけど
君の目線が下がってしまった時
今度は私が
君の一筋の光で居られたらと願ってる。
『もう一つの物語』
もし、この世の何処かに
自分の人生の中で
選択しなかった世界があるなら、
その世界の私は
どんな人生を送っているのだろうか。
私は、もし、そんな世界が何処かにあるなら
きっと、
私が産まれていない世界だってあると思っている。
私の母は、
本当に絵に描いたような気苦労が多い人だった。
母を思うと、
生きて来た人生にどれだけの幸福が
あったのだろうかと
きっと、幸福を感じるよりも
胸を痛めた方が多いように思う。
生前、幸福だったかとは聞けなかったし
聞く事も躊躇ってしまう位だった。
多分、聞いたとしても
大きなお世話だと言われ、
自分の人生を考えなさいと怒られるだろう。
それに、きっと、
母はどれだけ心を痛めたとしても
幸せだったと言える強い人だ。
だからこそ、私は思うのだ。
もし、父親と結婚せずに
愛した人と結婚していたのなら、
あなたは今も元気で生きているのだろうかと。
あなたが、心を痛めずに
素直に幸福を感じられているのだろうかと。
あなたが涙を流すよりも
多く笑っていられる人生なら
私が産まれない世界があれば良いと。
あなたが私の幸福を祈るように
私もあなたの子供なんだから
あなたの幸福を祈りたい。
だから、考える。
はっきりと無いとは言えない世界があるのなら
あなたが
今日も明日も笑っていらますようにと。
『暗がりの中で』
部屋を暗くして、
鉄塔が赤く点滅をしている景色を眺めていると
懐かしい気持ちが込み上げて来る。
点滅するその光は
私の鼓動と同じように一定のリズムを刻み
心地が良い。
その光は、忘れていた子供の時の
感情を思い起こさせて
自然と自分の心の中が解放されて行くようだ。
大人になると
泣く場所も笑う場所も
子供の時のように自由に得られない。
虚勢や見栄を張って
自分の心を偽っている。
泣きたい時だって、大きな声で笑い時だって
無理矢理
気付かないふりをして、
自分の心を隠したままでいてしまう。
行きたい場所があると分かっていても、
見つけにいかないまま、
大人を過ぎて行く。
行き着く場所が無く、落ち着かない心は、
限界の範囲さえも分からなくなって、
いつしか心を少しずつ壊して行く。
自分でも気付かないままに壊れて、
残るのは苦しさだけ。
だけど、もし、
その苦しさに気付けたのなら
立ち止まって欲しい。
そのまま暗がりの中で、彷徨う位なら
どんなに小さくても良い
明るくなくても良い。
せめて、指先が少しでも見える位の
あなただけの光を見つけて。
『紅茶の香り』
朝食には、
コーヒーよりも紅茶が好きなあなたのために
ホットケーキを焼く。
蒸らした紅茶の香りに誘われて
あなたが起きて来る。
そんな毎日をずっと一緒に過ごせると
思っていた。
だけれど、
朝は毎日やってくるのに
紅茶の香りに誘われて
起きて来るあなたが居ない。
少し寝ぼけながら
おはようと笑うあなたの顔や
紅茶を飲みながら
たわいも無い話をしたり
些細なくだらない喧嘩をしたり
あなたの表情を見ているのが
私の日常だった。
居なくなってから、知った。
あなたと居る事が
私の日常だったと。
当たり前のように
二人、歳を取っても
そんな朝を過ごす日常を
信じていた。
私は、朝日に照らされて
眩しい位のあなたの席に
いつものように
紅茶とホットケーキを置いた。
私の心の中だけでも良いから、
寝ぼけながら
おはようと笑って起きてくる
あなたに会えるように。