『愛言葉』
二人にある愛言葉を探してみても、
もう、あれ以上の言葉は見つからない。
あなたが私を置いていった日から
何度も何度も後悔した。
あなたへの感情を知っていたのに
私は伝えられなかった。
いつかは、伝えられると思って
心の中に置いていた言葉を
渡せずにあなたは居なくなってしまった。
あなたは、私に言葉を置いていってくれたのに。
あなたを忘れられたら
あなたの名前を忘れられたら良いのに
と思ってしまう程、
あなたからの残された合言葉は、
今では、私の感情を何度も揺さぶって
苦しい。
どうして、居なくなってしまったの。
私は、
あなたに何も言葉を渡せて居なかったのに。
あなたは、言葉を置いて行くなんて狡いよ。
だったら、せめて
あなたにまた会える時まで
私はあなたへ渡せなかった愛言葉を
心の中に置いておくから。
取りに来てよ。
『友達』
友達を作るのは、簡単なのに
本当の友達を作る事は、難しい。
本当の友達って何だろう。
友達同士が友達だと思ってくれている事だろうか。
友達という基準もなければ、
概念もない、曖昧な関係。
簡単に、傷つけてしまう相手
簡単に、傷つけられる相手なんて
友達とは言えないのに、
表面上は友達同士に見える。
何でも言える相手が友達なら
どうして、
簡単に傷つく言葉を吐けると言うのか。
相手を思うからこそ言えない言葉もあるはずだ。
私にとって、友達は、
全てを受け入れてくれる、
全てを分かってくれる相手じゃない。
お互いの距離感を知ってくれている相手だ。
連絡を取らなくなって行く大人になっても、
日常の中で、ふと、思い出す相手なんだと思う。
特に、会いたいわけじゃない。
今日も元気に過ごしてくれているだけでいい。
それだけで、充分だ。
『行かないで』
大切に思う人ほど、
私を置いて行ってしまう。
あなたは、何年も、近くに居たくせに
最後は、あなたが
何者だったのかを教えてはくれなかった。
急に、居なくなると知っていたのなら
私は、
あなたの名前も、
あなたの好きな事も知りたくなかった。
私が、階段で転けそうになった時、
とっさに、あなたが手を差し出さなければ、
私は、あなたの手の感触も
その温もりも知らなくて済んだはず。
置いて行くあなたの気持ちは、
知らない。
けど、
置いていかれるこの気持ちは、
私の中に、今でも生きている事を
あなたに届いて欲しい。
ふと、あの時を思い出しては、
不思議だったあの時間は、
何だったのだろうと考える。
どうして、あなたは
私に名前を置いて行ったの。
そのせいで、
私は、これからも、
あなたの名前を探してしまうんだ。
『秋晴れ』
秋の晴れた空を見ると、
あなたが煙になって、
空に向かった時の事を思い出す。
ずっと晴れていたのに、その時だけは
天気雨だった。
バスの中で、
透き通るような青い空から
涙のような優しい雨が降ってくるのを
眺めていた。
バスの中では、誰も言葉を発さず
あなたのことを心から
みんな悲しんでいるのが伝わってくる。
だけれど、
私は、そんな美しい空を眺めながら
あなたがたくさんの苦しい事から
解放されて、自由になれたのなら
良かったのでは無いかと思った。
あなたが好きだった散歩を
あなたをずっと待っていた愛犬と共に、
こんな素敵な空の中をしているのだろうと
考えると胸を撫で下ろす事が出来た。
これからは、
たくさんの辛い事よりも
自由に楽しい事の方がきっと多くあると。
あなたの泣いている顔を思い出すよりも
あなたが楽しく笑ってくれているのだと
思える方が、
私も嬉しいし、安心して居られる。
私は、あの日と同じように
晴れた空を眺め、あなたを思う。
もうすぐ、5年目の秋がやってくる。
あなたがいなくなった事が
悲しいのは変わらないけれど、
私の人生を全う出来たのなら
また、あなたに会えると信じている。
だって、あなたに会って、
あなたにちゃんと伝えたいから。
伝えられなかった言葉を伝えたいから。
私は私の幸せを見つけれたんだと。
私は、何よりあなたの子供で良かったと。
あなたが私を産んでくれたから、
私は、私の幸せを見つけられたと
伝えられる日を待っていて。
『忘れたくても 忘れられない』
忘れたくても、忘れられない思いは
誰にだって、心の中にあるもので、
それは、石のように
とても重いものだろう。
転がす事も、その石を砕く事も簡単には出来ない。
きっと、一生その石は、
そこにあって、
その石につまずかないように
気をつけるしか出来ない位になって行く。
忘れたくても、忘れられない。
忘れたと思っても、
石はそこにあるのだから、
また、つまずいて、転んで痛い思いで
思い出すはめになる。
だったら、私は思う。
その心の石に
標識を立てたらどうだろうかと。
標識があれば、
その石につまずく事もなくなる。
恥ずかしい思い、苦しい思い、悲しい思い、
人によって、
きっと、その石の形も重さも大きさも違うけれど、
持っていない人などこの世には居ないのだから、
標識を立ててしまえば良い。
自分の好きな言葉、好きな人の顔、
好きな景色。
どんな標識だって良い、
心の中に、一瞬でも立ち止まれる場所があれば
きっと、足元の石に気付く事が出来る。
それに、もし、疲れたのなら、
その石に座って休憩するのも良い。
つまずく前に気付けたのなら、その石を
あっさりと越えて行けるだろうし、
もし、石と向き合う事が出来たのなら、
案外、
忘れたくても、忘れられない思いは
良い方向へと
変わっているのかも知れないから。