『キャンドル』
淡く小さな炎が
揺れいるのを見ていると
疲弊した気持ちが
少し和らいでいくようだ。
浮き沈みを繰り返しながら
揺れ続けている
わたしの心のような小さな灯火。
悲しい時や嬉しい時。
怖い時や楽しい時。
それらの思い出の中には
いつも小さな灯火が揺れていた。
心が疲弊して、暗闇が
わたしを取り込もうとしても
その灯火があるのなら、きっと大丈夫。
どれだけ小さくても
どれだけ揺れて消えそうになっても
その先にあるものを
きっと照らしてくれるものだって
わたしは信じている。
『秋風』
秋の夜に吹く風は、
懐かしさを連れて来る。
湿った空気の匂いを
胸の奥まで吸い込むと
喧騒の疲れをリセットしてくれる。
湿った空気は、
遠足やキャンプで行った青々とした山や海辺のことや
川のせせらぎや虫の音を
聴きながら眠りについた夜のこと。
朝日と共に目が覚め、
一日が終わり、始まったのだと
鮮明に実感した気持ち。
わたし達は、
自然と共に生かされていること。
喧騒の中では知る事が出来ない
本来の自由を思い出させてくれる。
時間は止まってはくれないから
みな必死歩き続けなければならない。
でも、秋の夜に吹く風は
わたしがわたしを生きる為に
あなたがあなたを生きる為に
深呼吸をさせてくれる
唯一の時間なのだ。
『また、会いましょう』
落ちた枯葉を踏み締めると
冬の始まりを感じる。
冬が始まると、
すぐそこに、
次の年が待っているようで
わたしは、立ち止まる。
時間は、水が流れていくように
止まる事はないと分かっているけれど
ふと、考える。
今年も、あなたに会えなかったと。
あなたを探している訳じゃないけれど
何処かにあるはずの偶然を
わたしは待っている。
あなたが残していった名前を
あなたが取りに来てくれるまで。
最後は、あなたが何と言ったのか
今はもう朧げなのに
あなたの名前だけは、消えてくれない。
同級生の名前も
今まで出会った人の名前を
覚えるのも苦手で
心の中からすぐに消えて行ってしまうのに。
一度だけ聞いたあなたの名前は
わたしの心の中で、大きく陣取っているみたいだ。
忘れようと何度も試みたけれど
その度に、耳元で呟かれているみたいで
耳の奥にも刻まれている。
あなたは、いつか、
また、会いにやってくるのでしょう?
だったら、わたしはあなたを探さなくて良いよね。
探さなくたって、
あなたの存在は忘れそうにないもの。
だから、わたしは、わたしのままで
あなたとまた会える、その日まで待ってる。
『飛べない翼』
鳥は、しっかりした足場がないと
飛び立つ事が出来ない。
どれだけ、自由に飛べる翼を
持っていたとしても、
飛ぶことは出来ない。
それは、人も同じ事で
何処へでも、飛べる翼を持っていたとしても
足元がしっかりしていないと
自由に飛び立つ事は出来ない。
どれだけ、
あなたは自由で、自分の人生なんだからと
自分の為に生きなさいと
言われる度に、わたしは、
その言葉に不自由さを覚えてしまう。
この世界の何処かに
自由で生きていける場所があるのだろうか。
誰しもが、自由のようで
制限のある人生を送っている。
好きな事を一生続けていくのにも、
一生好きな事を探さなければならない。
それは、幸福のようで
本当は苦しいもののように思える。
自由に生きるとはなんだろう。
それは、たぶん
生きて居る意味を探すのと同じで
途方も無いものだ。
鳥が、飛ぶ意味
魚が、泳ぐ意味
地上の生命が、歩く意味を探す位
自由に生きる事を探すのは
意味が無いもののように思う。
わたしは、自由に生きていられなくたって
決して不幸では無い。
だって、
今日も明日も、大切な人が
笑ってくれているのなら、
わたしも、笑って居られるだから。
『ススキ』
ススキを見ると
秋が近づいてきたのだと感じる。
秋は、一番好きな季節で
子供の時を良く思い出す。
徐々に、寒くなって来て
学校からの帰り道も
急ぎ足になる。
その帰り道が、いつもワクワクしていた。
今朝には無かった炬燵を
今日は出してくれているのかなと
期待した帰り道が好きだった。
大人になっても
ススキを見ると同じ気持ちになる。
家に帰って、今朝には無かった
炬燵を母が出して、うたた寝をしている。
日常であった景色は
いつの間にか、深い思い出となった。
秋は、帰る家の温かさを
思い出させてくれる。
辛かったけれど、今はそんな季節が好きだ。