『今を生きる』
もう、過去の事は忘れて
今を確実に生きていられたのなら
私は、この世に居なくたって良い。
もし、私が産まれなかったとしても
それは、あなたには分からない事。
だって、それは
出会わなかった事と同じだから。
だから、私と出会わない道があったとしても
もう、振り返らないで
私の目線の先を、どうかもう気にしないで
過去は、やり直せないなんて分かりきった事で
もう、悩まないで
あなたが進むその道筋を見て欲しい
ねえ、あなたの心に照らす光が無くなるのなら
『ごめん』って
もう、思わなくてたっていいんだよ
あなたには
『幸せが何処かにあるはずだから、
振り返らずにただ生きてほしい』
『あの日の景色』
小さい時、母が漕ぐ自転車の
後ろに乗っていた景色の中で、
夜風共に揺れながら
いつまでも追いかけてくる月を
不思議に思いながら
見ているのが好きだった。
私の家族は大人数で
母はいつもいつも忙しそうに
目まぐるしく動いていた。
その上、兄弟が年子だったから
一番下の私の相手をしている余裕もなくて
唯一、買い物に行く時にだけ母と二人。
自転車に夜風に揺られながら、
今日の月はどこまで追ってくるんだろうと
母の背中にしがみつきながら考える時間が
小さな私の思い出。
『桜』
桜の花びらが舞い上がり
ふと見上げると
あなたの何処か寂しそうな表情が見えた
あの時は分からなかったけれど
今、思うと
寂しそうな表情は、
これからを憂いていたように思う
来年の春には、この景色が見れないかも知れないと
心の何処かで気付いていたのだろう
なのに、どうして、私は、
あなたのその気持ちに
気付いてあげられなかったのかと
桜が舞う季節には思い出しては苦しい
いつかはと分かっていたのに、
私は、目先の事に囚われて
舞い上がった桜の花びらが
地に落ちて行くのをただ見ていただけ
せめて、あなたの手のひらに
舞い降りたのなら
思い出すあなたの顔は
どんなだったのだろう
『ひそかな想い』
私が何故、一人で居るのが好きなのか理由がある。
友達や好きな人は居るけれど
その人達には
私の側にいて欲しいとは思わない。
生きてるものにはいつか終わりが来るように
私の人生もいつかは終わりが来る。
それがいつかなんて分からないのは
誰もが同じ事だけれど
私は、私が居なくなった時の事を考えてしまう
誰かが居なくなった寂しさや苦しさを
知っているからこそ
特別な誰かには隣に居て欲しくない。
思い出が沢山ある程辛くて苦しい
その思い出の中の私には
元気だった私で居てくれる方が
私が居なくなったとしても
すぐに、ただの思い出になってくれるから
人の本当に死ぬ時は
忘れられる時と良く言われるけれど
私は、ずっと、誰かの心の中に
居続ける方が苦しいと思っている。
それに、心に居続けるのは
辛い思い出の方がずっと長い。
もし誰かが、
ふと思い出してくれた時の私は
暗い顔で居るより
元気な私で居たいのだ。
『第三話』
二人で借りていたアパートから
引っ越し準備をしていると
あの人の荷物は、ほぼ無かった事に気付いた。
私が気付かないように少しずつ
減らしていたのだと今頃知った。
私は、いつからか変わって行っている事にも
気付かないふりをして
あの人の方を見ないようにしていた。
私の心を見透かされている
真っ直ぐの視線に
あの人と目線を合わせているふりを
ずっとして居たのだ。
悪いのは私の方だった。
『愛情や友情、恋情』
どれにも当てはまらない
あの人への感情は何と呼べば良いのか分からない。
でも、私の心の中には
情はあった事は確かなのだ。
あの人が居ない部屋は寂しいとも
悲しいとも思っている。
何と呼べば良いかは分からないけれど
決して、『嫌い』ではなかった。
あの人が悲しいと私も一緒に
泣ける位の感情は心にはあったのだ。
私は、あの人に置いて行かれた
あの人専用のマグカップを手に取ると
廃棄のダンボールに入れた。