輪手輪ダーリン

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10/5/2023, 3:37:39 AM

『踊りませんか?』

至高にして崇高な存在
TKG

太陽のような黄身を
シャカシャカとかき混ぜて
醤油をサッとかける

炊き上がったご飯
モワモワと蒸気があがる

ご飯と醤油をまとった卵は
互いに一緒になりたいと惹かれ合う
出会うべくして出会ったのだ

『Shall we dance?』



完全にして無欠な存在
TKG

出来上がり

口に入れたと同時に
光速の100倍の速さで
旨みが脳髄を駆け抜けて
神経伝達物質がドバドバと噴き出る

俺の胃の中に落ちるまで
情熱的に踊る
ラストタンゴを

9/25/2023, 3:52:40 AM

妄想昔話 最終話


声のする後方に身体を向けると
先程まで何もなかった空間に数千もの鳥居が立ち並び、その先の彼方にはお社が見えていました。

お社まで距離がかなりありましたが
天界では身体が浮き上がるほど軽く、スタスタと駆けていくことができました。

お社に着くと、本殿の頭上のしめ縄には紙垂がかかっていて、扉は開かれていました。扉の向こう側に朧げながら誰かいる気配がします。

『よく天界まで参ったな。歓迎するぞ。儂は宇迦之御魂大神と申す』

声が聞こえたとき、紙垂がひらりと揺れました。

『翁狐でなく、そなたがここに参ったからには、儂に何か用があるのだろう?』

霊狐は膝をつき名を名乗ると、宇迦之御魂大神に事の詳細をつぶさに話しました。

人間から迫害をうけていること。
人間と狐族との関係性について。
とてつもない飢饉が迫っていること。
そして、宇迦之御魂大神に豊穣の雨をもたらして欲しいことを。

どれだけ時が経ったか分からないくらい懸命に伝えました。叶わなければ自害するとらいわんばかりにの気迫で伝えました。

『そなたの言いたいことは理解した』

『ただ残念だが、儂は神という立場があるから、私情で生き物の生死に関わる行為をしてはならぬのだ。自然の均衡が崩れるからな』

『だが、そなたの殊勝な心構えが気に入った。儂の使いにならぬか。使いとなれば神の力を分け与えることができる。豊穣の雨をいつでも降らせることができるようになるぞ』

『そなたは神ではないから特別に、村人や狐族のために雨を降らせても目を瞑ってやる』

『ただし…』

宇迦之御魂大神は語気を強めて

『使いになるには肉体を捨てて、魂だけの存在にならねばならぬ』

『魂だけの存在になると、わたしはどうなってしまうのですか?』霊狐は聴きます。

『同じ魂だけの存在である神か死者にしか、そなたの存在を認知できなくなる』

『そなたにできることは2つだけだ。
このまま帰るか、肉体と決別し儂の使いとなるか。さて…どちらを選ぶ?』

霊狐は宙を見上げて哀しげな表情をうかべましたが、答えはすでに決まっていました。

『また離れ離れになってしまうな』
と霊狐はつぶやくと、宇迦之御魂大神に返答をしたのでした。

『使いにしてください』



源蔵は空を見上げていました。

いつもと変わることなく、空は隅々まで青く晴れ渡っていましたが、1つだけ大きく変わったことがありました。

雲一つない空なのに突然雨が降る、"狐の嫁入り"がなぜか頻発したのです。

翌年は西日本全体で大飢饉が起きましたが、この村周辺だけは狐の嫁入りのおかげで作物は枯れずに実ったため、飢饉を乗り越えることができたのです。

村長である源蔵は、稲荷様の使いである狐が、村の現状を稲荷様に報告したから、もたらされた雨であると村人たちに伝えました。

源蔵のあまりの変貌ぶりに、村人は戸惑っておりましたが、雨が降る奇跡を何度も目の当たりにしたこともあり、信じるようになっていきました。

こうして狐の嫁入りは、農作物を豊かに実らせる縁起のいいものとして。狐は稲荷様の使いとして、村人に敬われる存在になったのでした。

余談ですが、奇跡が起こるようになってから40年余りが経ったころ、源蔵は村人に見守られながら、臨終の時を迎えていました。その時にも狐の嫁入りが降ったそうな。

源蔵は雨が降る空が見える方向へ
顔を向けると『やっと会えるね』と
つぶやき微笑みを浮かべて
静かに息を引き取ったそうです。

太陽の反対側の方角に
七色の虹が淡く輝いておりました。




おしまい

"形の無いもの、存在"

9/23/2023, 5:36:36 AM



妄想昔話 第6話


『そんな…僕は行けないのか…』
天狐は人間の身体であることを怨みました。

村の狐たちの間で沈黙が流れました。
沈黙に耐えかねた翁狐が

『誰も行く者はいないかの。
では儂が…』というと

『いや。わたしが行く』

霊狐が翁狐の言葉を遮って
声を上げました。

そして天狐の目をじっと見つめて

『あんたはあんたのできることをやりな。村人を変えるのはあんたにしかできないんだよ』

『天狐や仲間達が殺されたあと、冷静でいられなくなった。人間なんて死んでしまえばいいとばかり思っていた』

『だけど、あんたの言葉を聴いて分かったよ。わたしの本心はひと時の和じゃなくて、人間と共存し後世に紡いでいく安寧を望んでたんだ』

『もう迫害なんてさせない。ここにいる我らの世代で終わらせる。そのためにわたしは力を尽くしたい』

天狐は姉にいろいろと伝えたい言葉がありましたが

『気をつけて…稲荷様を説得して雨が降ることを祈ってるよ。村人は僕にまかせて』

としか言えませんでした。

『決まりじゃの。出発はいつにするのじゃ?』

『善は急げだ。今すぐにでも行きたいが、こんな夜更けに赴くのは稲荷様に失礼かな』

『稲荷様には朝も夜もない。失礼にはならぬじゃろ』

翁狐は火、水、木、金、土の5文字を地面に書くと、それぞれの文字を線で繋ぎました。すると星形が浮かび上がってきました。そして星形の中央に、勾玉を2つ組み合わせて作った陰陽太極図を置いたのです。

『詠唱を始めるから皆、離れていなさい』

『イーナリズシクエ…』
『アーブラアーゲトゥキトゥキ!』

翁狐の口から青白い炎がボオッと出て火、水、木、金、土の文字に吹きかけました。すると、その5文字が金色に発光して宙に浮かび上がると、陰陽太極図に向かって吸い寄せられて消えました。やがて、陰陽太極図の場所には、ぽっかりと円状に空いた闇が広がりました。

『この闇に落ちれば天界へといける』
翁狐が言いました。

『ありがとう。行ってくるよ』と
霊狐は村の狐たち一人ひとりに目配せした後
意を決して闇に飛び込みました。

30秒ほど落ち続けたでしょうか。
途中、閃光がときおりパッパッと飛び散るのが見えました。その閃光が1つに集まり、巨大な光となって霊狐の身体を包み込んだのです。視界が真っ白になったとき、やっと地に脚がついた感触を感じました。

強烈な光をうけたせいで、しばらく目が眩んでいましたが、徐々に視力が戻ってきて周囲の状況を把握できるようになりました。

日の出と日の入のときの空の色を混ぜたような背景の
空間がどこまでも広がっていて、どこに向かえばいいのかも分からない。そんな場所でした。

『こちらにおいでなさい』
どこからか声が聞こえてきました。

霊狐は声のする方向へ
身体を翻しました。



次のテーマに続く
"声が聞こえる"

9/21/2023, 11:18:59 PM

妄想昔話 第5話


『では、どうやって悪因を断つというんじゃ?』と翁狐が尋ねました。

『嫁入りのときに、稲荷神の宇迦之御魂大神様にお願いして、雨を賜っていますよね。これを日照り続きのときにも賜ることができないか、天界へ行って稲荷神に陳情したいのです』

狐族の掟で嫁入り行列は、人間に見られてはいけないということが決められていました。村長である翁狐が、特殊な術を用いて天界へ赴き、稲荷神に、嫁入りのときに雨を降らせてほしいとお願いをしていたのでした。雨を降らせて人間を家のなかにいるようにさせ
その間に嫁入り行列をしていたのです。

『簡単に言うがのう。かなり無茶な願いじゃぞ。だが、雨を賜ることがなぜ、村人の認識の変化につながるんじゃ?何か策でもあるのか?』

『村人は秋の収穫期をいまかいまかと恋焦がれております。この恵みの雨は、稲荷神の使者である狐が下界の状況を報告して、もたらされた雨であると、村長である僕が村人たちに吹聴します。狐は不吉な存在ではなく、敬うべき存在であると印象づけるんです。雨が降る奇跡が何度も起これば否応なく信じざるえないし、稲荷神の使者となれば傷つける者はいなくなるでしょう』

『なるほど。確かにその策なら人間の狐族に対する認識も変わるかもしれぬの』

『じゃが……1つ大きな問題がある』

『天界への道を開くには特殊な術を使うのじゃが、この術は狐しか効果が出ぬ』

『つまり、人間の姿である天狐には、天界に入ることはできないのじゃ』

天狐は絶望の淵に追い込まれてしまいました。


次のテーマに続く

"秋恋"

9/21/2023, 5:48:00 AM


妄想昔話 第4話


久々に弟との再会に喜んだのも束の間。
村長である翁狐と仲間たちが
鋭い目付きをして2人を囲んで威嚇をしました。

霊狐が事の顛末を翁狐たちに説明すると
はじめは信じられないという様相をしていましたが
源蔵の話し方や雰囲気から
天狐を感じ取ったのでしょう。
目付きがみるみる和らいでいき
2匹?を村へと招き入れました。

人間の姿ではありますが、死んだと思っていた天狐が帰ってきたことを祝う宴会が開かれました。食料も備蓄はほとんどないはずなのに、宴会では豪勢な食事が振る舞われ、歌ったり踊ったりして楽しむのでした。

宴会が終わりに差し掛かったころ
霊狐が口を開きました。

『あんたはこれからどうするの?この村で皆と一緒に暮らすのかい?それともあの村にいて、村長という立場を使って、村人に復讐するのかい?』

『人間の姿でこの村にはいれないよ……』

『実は…僕は村人たちを助けたいと思ってるんだ。そのために、夜にこっそり抜け出して皆に会いに来た』

『はあ?何を言ってるの?あんたは殺されたんだよ?仲間たちも!どうして助けるという発想になるのさ!』霊狐は激昂する。周囲にいる狐たちも相槌をうつ。

『僕もはじめは怒りに震えていたよ。許せないという気持ちしかなかった。でも、源蔵の身体に入って日々を過ごしているうちに、気持ちが少しずつ変わっていったんだ。僕や仲間たちを殺したのは、不気味で不吉な存在に対する"恐怖"から村人を守りたいという"愛"の気持ちから来ているんだって。狐族も人間も変わらないって感じたんだ』

『狐族は人間に危害を加えていない!一方的に迫害しているのは人間の方さ!一緒にされるのは不愉快だね!』

『確かに狐族は危害を加えていない。どころか一切報復することなく耐えてきた。ただ今回は今までとは状況が全くちがう。何も行動せずに黙って、人間が飢饉で苦しむ様を見ているという行為が、後に大乱を招くことになる』

『どういう意味だい?』霊狐が尋ねる。

『いま村人が飢饉で大勢死んだとしたら、天災が起こった理由を狐族のせいにする可能性が高い。そうなったら生き残った村人が狐族を殺しに来るだろう。それはもう徹底的に。すべては"狐は不吉な存在"という村人の間違った認識から起こっているんだ。この因果律を断ち切らない限り、悪果は永遠に続くんだ』

『村人の狐族に対する認識を変えること。且つ、飢饉を起こさないこと。以上2つが、狐族が後世に安寧を築くためには不可欠だと思います』

『一度は死んだ身なのに人間の源蔵としてまだ生きている。人間と狐族の後世へと和を紡ぐために神が与えたとしか思えない。神が与えたこの命、大事に使いたいんだ!頼む。みんな協力してくれ!』

弟の眼には"覚悟"が宿っていました。 
覚悟ある眼差しと弁舌にいつしか皆、惹き込まれていくのでした。


次のテーマに続く

"大事にしたい"

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