輪手輪ダーリン

Open App

『バカハラ』

鈴木優子は、広告代理店で働く25歳の若手社員。毎日仕事に追われ、どこか疲れ切っていた。そんなある日、上司の小島から突然の命令が下る。

「お前、バカンス行け」

優子は目を疑った。今、忙しくてどうしても休んでいる暇はない。クライアントとの打ち合わせが迫っているし、プロジェクトも進行中だ。しかし、小島は一切譲らなかった。

「お前、半年以上休んでないだろ。これ以上仕事ばかりしてたら、壊れるぞ。どこでもいいから行ってこい!!」

バカンスハラスメントかよと言わんばかりの鬼気迫る表情に圧倒されて、優子はその命令を受け入れるしかなかった。そんなわけで、優子は何の計画もなく、ただ休みを取ることになってしまった。

どこへ行こうか。高級なリゾート地は予算的に無理だし、海外なんて考える余裕もない。優子は適当にネットで検索し、目に入ったのは、「評判が悪いけれど安価な隠れ家リゾート」。安すぎる値段が逆に不安を募らせたが、他に選択肢がなく、その場所を予約することに決めた。

二日後、到着したのは、まさに“隠れ家”と呼ぶにふさわしい、遠くに海を望む小さなリゾート地。建物は古く、設備は最低限。海までは徒歩20分以上かかり、周囲にはほとんど何もなかった。到着した途端、優子は「こんなところ、絶対にリゾートじゃない…」と呟いた。

その時、背後から声をかけられた。

「おい、君もバカンスか?」

振り向くと、そこには見知らぬ男性が立っていた。男の名は田中拓真といい、歳も同じ25歳で、同じように上司から休むように命じられたらしい。二人は、共通の無理矢理感に笑って、すぐに意気投合した。

翌日、二人は観光地に行くことに決める。しかし、リゾート地からの交通手段は不便で、結局歩いていくことになった。舗装されていない道を歩きながら、二人は次第にお互いに「どうしてこんな場所に来てしまったのか」とぼやきながらも、途中で見つけた地元の屋台で食べ物を買って食べることにした。

「これ、思ったよりうまいな」

拓真が言った。優子はその言葉に頷きながら、香ばしい匂いが漂う焼き鳥を口にした。その瞬間、少しだけ気が楽になった。そうだ、こういう小さなことに楽しさを見出すことが大切なのだと感じ始めていた。

昼過ぎ、二人はようやく観光地に到着。だが、案の定、観光地もほとんどが人影がなく、どこか寂しい雰囲気が漂っていた。せっかく来たのだから、何かをしなくてはと、二人は地元の小さな博物館を訪れた。その博物館には、地域の歴史や文化を紹介する展示が並んでいたが、施設自体は非常に簡素で、優子は途中で何度も笑いをこらえながら見ていた。

「これ、リゾートって言えるのか?」拓真が苦笑いを浮かべながら言う。

「全然リゾートじゃないけど、まあ、こんなもんでしょ」優子は肩をすくめて答えた。

次に、二人は近くのビーチへ向かうことにした。海が見える場所に到着すると、波の音と潮風に包まれ、急に心が落ち着くのを感じた。普段は仕事のことばかりで、こんなにゆっくりとした時間を過ごすことがなかった。波が打ち寄せる音を聞きながら、優子はふと、自分が何を求めていたのかを考え始めた。

「こんなバカンスも、悪くないかもね。」優子は拓真に向かって言った。

拓真は笑顔で答えた。「結局、無理矢理来たからこそ、こうして自由に過ごせてる気がするな。」

その後、二人は地元の居酒屋で夕食を共にした。地元の新鮮な魚や野菜を使った料理を食べながら、会話は途切れることなく続き、自然と親しくなった。何気ない話をしながら笑い合ううちに、優子は自分が少しだけ「休む」ことに対して心地よさを感じていることに気づいた。

最終日、二人はリゾートの庭で日が暮れるのを見つめながら、最後の時間を過ごした。優子はふと、自分が思っていた以上にこの場所でリラックスできていたことに驚く。

「結局、何も計画しないで過ごすのもいいかもな。」優子が静かに言った。

拓真も同じように、優子の言葉に頷きながら、何もしない時間を堪能するのであった。

明日からボチボチ頑張ろ。

1/30/2025, 11:55:43 AM