輪手輪ダーリン

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1/28/2025, 1:45:02 PM

薄墨桜の巫女

美濃の山深き地に、「大枯桜」と呼ばれる桜があった。その桜は何百年も花を咲かせることなく、枯れたように立ち続けていた。村人たちは、この桜に恐ろしい呪いが宿っていると信じ、その周りを避けていた。

伝説曰く、かつて桜の下に命を捧げた巫女・お菊がいた。お菊は、村を守るために命を捧げることを命じられたが、その命は無駄に奪われたという無念の魂が桜に宿り、命を奪う呪いを生んだという。

京より来たる詩人・藤原雅信、彼は桜の伝説に心動かされ、月夜の晩、ひとり桜の前に立つ。村人たちは、雅信がその桜に近づくことを止めたが、彼は警告を無視して立ち続けた。月の光が大枯桜を照らす中、雅信は筆を取り、一首を詠む。

雅信
「大枯桜、何ぞ咲かぬ
長き歳月、枯れし枝
命を宿すことなかれ
何を恨み、何を訴えん」

その言葉が桜に届くと、幹より冷徹なる風が吹き、やがてお菊の姿がぼんやりと現れた。彼女は深き悲しみをその目に宿し、静かに言葉を紡ぐ。

お菊
「我が命、祭りに捧げし
村を守るためなりしが
皆は
無念の心、桜に宿り、
命奪い、永遠に縛られぬ。」

雅信はその言葉に打たれ、心より再び詩を詠む。

雅信
「お菊よ、無念を解かれよ、
そなたの命、無駄ならず、
村を守ることにあらず、
真実を知り、魂を解き放たん。」

お菊はしばし黙し、やがて再び言葉を紡ぐ。

お菊
「命を捧げしは、無知なる者ら、
ただ一人、儀式のために死せり。
無念の心、桜に宿り、
花を咲かせず、枯れしまま。」

雅信は再度、詩を口にする。

雅信
「お菊よ、今こそ解き放たれ、
呪いを解き、桜に命を与えん、
無念を晴らし、魂を導き、
詩の力を信じよ、花咲かせん。」

その言葉が終わると、大枯桜は激しく揺れ、月光の下で花が開き始めた。桜の花は、一夜にして咲き誇り、夜空に浮かぶ星々のように輝いた。

お菊の姿は桜の花の中から現れ、微笑みながら静かに言った。

お菊
「ありがとう、歌人よ、
今、我は解放される。
無念の心、桜に託し、
成仏の時、花と共に。」

その言葉を残し、お菊の姿は光となり、桜の花とともに消え去った。大枯桜は呪いが解かれると、枯れた枝が活気を取り戻し、薄墨色の花を咲かせ始めた。

薄墨桜として蘇ったその木は、毎年春になると美しい花を咲かせ、その花は「お菊の祈り」として村人たちに深く敬われるようになった。

10/5/2023, 3:37:39 AM

『踊りませんか?』

至高にして崇高な存在
TKG

太陽のような黄身を
シャカシャカとかき混ぜて
醤油をサッとかける

炊き上がったご飯
モワモワと蒸気があがる

ご飯と醤油をまとった卵は
互いに一緒になりたいと惹かれ合う
出会うべくして出会ったのだ

『Shall we dance?』



完全にして無欠な存在
TKG

出来上がり

口に入れたと同時に
光速の100倍の速さで
旨みが脳髄を駆け抜けて
神経伝達物質がドバドバと噴き出る

俺の胃の中に落ちるまで
情熱的に踊る
ラストタンゴを

9/25/2023, 3:52:40 AM

妄想昔話 最終話


声のする後方に身体を向けると
先程まで何もなかった空間に数千もの鳥居が立ち並び、その先の彼方にはお社が見えていました。

お社まで距離がかなりありましたが
天界では身体が浮き上がるほど軽く、スタスタと駆けていくことができました。

お社に着くと、本殿の頭上のしめ縄には紙垂がかかっていて、扉は開かれていました。扉の向こう側に朧げながら誰かいる気配がします。

『よく天界まで参ったな。歓迎するぞ。儂は宇迦之御魂大神と申す』

声が聞こえたとき、紙垂がひらりと揺れました。

『翁狐でなく、そなたがここに参ったからには、儂に何か用があるのだろう?』

霊狐は膝をつき名を名乗ると、宇迦之御魂大神に事の詳細をつぶさに話しました。

人間から迫害をうけていること。
人間と狐族との関係性について。
とてつもない飢饉が迫っていること。
そして、宇迦之御魂大神に豊穣の雨をもたらして欲しいことを。

どれだけ時が経ったか分からないくらい懸命に伝えました。叶わなければ自害するとらいわんばかりにの気迫で伝えました。

『そなたの言いたいことは理解した』

『ただ残念だが、儂は神という立場があるから、私情で生き物の生死に関わる行為をしてはならぬのだ。自然の均衡が崩れるからな』

『だが、そなたの殊勝な心構えが気に入った。儂の使いにならぬか。使いとなれば神の力を分け与えることができる。豊穣の雨をいつでも降らせることができるようになるぞ』

『そなたは神ではないから特別に、村人や狐族のために雨を降らせても目を瞑ってやる』

『ただし…』

宇迦之御魂大神は語気を強めて

『使いになるには肉体を捨てて、魂だけの存在にならねばならぬ』

『魂だけの存在になると、わたしはどうなってしまうのですか?』霊狐は聴きます。

『同じ魂だけの存在である神か死者にしか、そなたの存在を認知できなくなる』

『そなたにできることは2つだけだ。
このまま帰るか、肉体と決別し儂の使いとなるか。さて…どちらを選ぶ?』

霊狐は宙を見上げて哀しげな表情をうかべましたが、答えはすでに決まっていました。

『また離れ離れになってしまうな』
と霊狐はつぶやくと、宇迦之御魂大神に返答をしたのでした。

『使いにしてください』



源蔵は空を見上げていました。

いつもと変わることなく、空は隅々まで青く晴れ渡っていましたが、1つだけ大きく変わったことがありました。

雲一つない空なのに突然雨が降る、"狐の嫁入り"がなぜか頻発したのです。

翌年は西日本全体で大飢饉が起きましたが、この村周辺だけは狐の嫁入りのおかげで作物は枯れずに実ったため、飢饉を乗り越えることができたのです。

村長である源蔵は、稲荷様の使いである狐が、村の現状を稲荷様に報告したから、もたらされた雨であると村人たちに伝えました。

源蔵のあまりの変貌ぶりに、村人は戸惑っておりましたが、雨が降る奇跡を何度も目の当たりにしたこともあり、信じるようになっていきました。

こうして狐の嫁入りは、農作物を豊かに実らせる縁起のいいものとして。狐は稲荷様の使いとして、村人に敬われる存在になったのでした。

余談ですが、奇跡が起こるようになってから40年余りが経ったころ、源蔵は村人に見守られながら、臨終の時を迎えていました。その時にも狐の嫁入りが降ったそうな。

源蔵は雨が降る空が見える方向へ
顔を向けると『やっと会えるね』と
つぶやき微笑みを浮かべて
静かに息を引き取ったそうです。

太陽の反対側の方角に
七色の虹が淡く輝いておりました。




おしまい

"形の無いもの、存在"

9/23/2023, 5:36:36 AM



妄想昔話 第6話


『そんな…僕は行けないのか…』
天狐は人間の身体であることを怨みました。

村の狐たちの間で沈黙が流れました。
沈黙に耐えかねた翁狐が

『誰も行く者はいないかの。
では儂が…』というと

『いや。わたしが行く』

霊狐が翁狐の言葉を遮って
声を上げました。

そして天狐の目をじっと見つめて

『あんたはあんたのできることをやりな。村人を変えるのはあんたにしかできないんだよ』

『天狐や仲間達が殺されたあと、冷静でいられなくなった。人間なんて死んでしまえばいいとばかり思っていた』

『だけど、あんたの言葉を聴いて分かったよ。わたしの本心はひと時の和じゃなくて、人間と共存し後世に紡いでいく安寧を望んでたんだ』

『もう迫害なんてさせない。ここにいる我らの世代で終わらせる。そのためにわたしは力を尽くしたい』

天狐は姉にいろいろと伝えたい言葉がありましたが

『気をつけて…稲荷様を説得して雨が降ることを祈ってるよ。村人は僕にまかせて』

としか言えませんでした。

『決まりじゃの。出発はいつにするのじゃ?』

『善は急げだ。今すぐにでも行きたいが、こんな夜更けに赴くのは稲荷様に失礼かな』

『稲荷様には朝も夜もない。失礼にはならぬじゃろ』

翁狐は火、水、木、金、土の5文字を地面に書くと、それぞれの文字を線で繋ぎました。すると星形が浮かび上がってきました。そして星形の中央に、勾玉を2つ組み合わせて作った陰陽太極図を置いたのです。

『詠唱を始めるから皆、離れていなさい』

『イーナリズシクエ…』
『アーブラアーゲトゥキトゥキ!』

翁狐の口から青白い炎がボオッと出て火、水、木、金、土の文字に吹きかけました。すると、その5文字が金色に発光して宙に浮かび上がると、陰陽太極図に向かって吸い寄せられて消えました。やがて、陰陽太極図の場所には、ぽっかりと円状に空いた闇が広がりました。

『この闇に落ちれば天界へといける』
翁狐が言いました。

『ありがとう。行ってくるよ』と
霊狐は村の狐たち一人ひとりに目配せした後
意を決して闇に飛び込みました。

30秒ほど落ち続けたでしょうか。
途中、閃光がときおりパッパッと飛び散るのが見えました。その閃光が1つに集まり、巨大な光となって霊狐の身体を包み込んだのです。視界が真っ白になったとき、やっと地に脚がついた感触を感じました。

強烈な光をうけたせいで、しばらく目が眩んでいましたが、徐々に視力が戻ってきて周囲の状況を把握できるようになりました。

日の出と日の入のときの空の色を混ぜたような背景の
空間がどこまでも広がっていて、どこに向かえばいいのかも分からない。そんな場所でした。

『こちらにおいでなさい』
どこからか声が聞こえてきました。

霊狐は声のする方向へ
身体を翻しました。



次のテーマに続く
"声が聞こえる"

9/21/2023, 11:18:59 PM

妄想昔話 第5話


『では、どうやって悪因を断つというんじゃ?』と翁狐が尋ねました。

『嫁入りのときに、稲荷神の宇迦之御魂大神様にお願いして、雨を賜っていますよね。これを日照り続きのときにも賜ることができないか、天界へ行って稲荷神に陳情したいのです』

狐族の掟で嫁入り行列は、人間に見られてはいけないということが決められていました。村長である翁狐が、特殊な術を用いて天界へ赴き、稲荷神に、嫁入りのときに雨を降らせてほしいとお願いをしていたのでした。雨を降らせて人間を家のなかにいるようにさせ
その間に嫁入り行列をしていたのです。

『簡単に言うがのう。かなり無茶な願いじゃぞ。だが、雨を賜ることがなぜ、村人の認識の変化につながるんじゃ?何か策でもあるのか?』

『村人は秋の収穫期をいまかいまかと恋焦がれております。この恵みの雨は、稲荷神の使者である狐が下界の状況を報告して、もたらされた雨であると、村長である僕が村人たちに吹聴します。狐は不吉な存在ではなく、敬うべき存在であると印象づけるんです。雨が降る奇跡が何度も起これば否応なく信じざるえないし、稲荷神の使者となれば傷つける者はいなくなるでしょう』

『なるほど。確かにその策なら人間の狐族に対する認識も変わるかもしれぬの』

『じゃが……1つ大きな問題がある』

『天界への道を開くには特殊な術を使うのじゃが、この術は狐しか効果が出ぬ』

『つまり、人間の姿である天狐には、天界に入ることはできないのじゃ』

天狐は絶望の淵に追い込まれてしまいました。


次のテーマに続く

"秋恋"

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