妄想昔話 第5話
『では、どうやって悪因を断つというんじゃ?』と翁狐が尋ねました。
『嫁入りのときに、稲荷神の宇迦之御魂大神様にお願いして、雨を賜っていますよね。これを日照り続きのときにも賜ることができないか、天界へ行って稲荷神に陳情したいのです』
狐族の掟で嫁入り行列は、人間に見られてはいけないということが決められていました。村長である翁狐が、特殊な術を用いて天界へ赴き、稲荷神に、嫁入りのときに雨を降らせてほしいとお願いをしていたのでした。雨を降らせて人間を家のなかにいるようにさせ
その間に嫁入り行列をしていたのです。
『簡単に言うがのう。かなり無茶な願いじゃぞ。だが、雨を賜ることがなぜ、村人の認識の変化につながるんじゃ?何か策でもあるのか?』
『村人は秋の収穫期をいまかいまかと恋焦がれております。この恵みの雨は、稲荷神の使者である狐が下界の状況を報告して、もたらされた雨であると、村長である僕が村人たちに吹聴します。狐は不吉な存在ではなく、敬うべき存在であると印象づけるんです。雨が降る奇跡が何度も起これば否応なく信じざるえないし、稲荷神の使者となれば傷つける者はいなくなるでしょう』
『なるほど。確かにその策なら人間の狐族に対する認識も変わるかもしれぬの』
『じゃが……1つ大きな問題がある』
『天界への道を開くには特殊な術を使うのじゃが、この術は狐しか効果が出ぬ』
『つまり、人間の姿である天狐には、天界に入ることはできないのじゃ』
天狐は絶望の淵に追い込まれてしまいました。
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"秋恋"
9/21/2023, 11:18:59 PM