"雪"
ある日の放課後、試験が近かったため図書館によって勉強をしていた。
誰かが歩く音、紙が擦れ合う音、誰かの小さな話し声、とても小さな音でも耳が拾える程に静まった空間。
大好きな本にも囲まれて、世界で最も素敵な場所のように感じる。
なんだか機嫌が良くなって座ったまま足をパタパタと動かすと、床と足が擦れ合う。
腕時計を見ると、ここに来てから2時間が経過している。
もう外は暗いかなと窓に視線を送ってみると、ふらふらと不規則に舞い落ちていく沢山の白を見る。
ガタリと、この場所には似合わない音を立てて立ち上がり一瞬の他人の視線を感じながら広げていた教科書を片付けて鞄に詰める。
外に出て、見上げるとしんしんと窓から見た様子と変わらずに降り注いでいる。
雪だ、と相好がとびきり崩れるのを感じる。
この地域はあまり雪が降らず見るのは数年ぶり程
先ほど鞄から取り出した傘を持って差し、手だけ傘から出したりしてみる。どんどんと手が冷えていく。
私は満足しながら帰路に着いた。
"君と一緒に"
春の真っ最中、桜を見下ろして感慨深くなっていた。
今は昼ではなく真夜中で、街灯だけが散る桜を照らしている
やっぱり、見上げる方が好きだと君は言った。
私もだと言おうとしたけれど、桜に君が攫われそうになるのでこっちの方が好きだと思い至る。
そんな儚い君に選ばれて光栄だなんて言ってみる
突然の言葉に驚いた君は、今から同じになるんでしょうと笑った。
揺れる髪と瞳が変わらず愛しくて、冷えていく脳裏と裏腹にふっと頬が赤らむのを感じる。
ただずっと、この時間が続いて欲しいとさえ思った。
私は、それが叶わないのを知っている。
差し出された君の手に、そっと私の手を乗せて握られる
私たちは桜と一緒に儚くなった。
"冬晴れ"
照った日差しと乾いた空気が似合わない。
暖かなバスを降りた先の十字路で、乾燥した手を気にしながら突然の冷たい風に身を捩った
寒い、と言葉が口をついて、信号の赤を見つめる。
少しでも暖かい空気に触れたくて、電柱の影を避けて渡る。
けれど、目の前を車が通り過ぎて少ししてから冷えた風がコートを靡かせた。
出来る限り身を縮ませていると、やっと信号が青く光ったので剥がれかけている白線を踏みながら渡る。
ちらちらと澄んだ空気を通して輝く日差しが私を照らしめる。
眩しくて、痛い日だった。
"幸せとは"
ずっと、太陽のようにと振る舞った。
大丈夫だとか頑張ってるよだとかの言葉を一生懸命に他人に投げかけた。
なんって的外れで惨めだろう
手を差し伸べたら感謝されるが誰も近づこうとはしない
誰も手を出してはくれずにずっと1人で
自らの行動がそうしたから、文句も言えないで
人を助けるのが、役に立つのが自分の存在意義だと唱えれば、自分を騙せるのかもしれないけれど
それもただの時間稼ぎに過ぎなくて
そんな不幸の道を歩いていたのを見て
抜け出せた私を褒めている。
誰彼構わず手を貸すことも無くなって、狭く、浅い人間関係しか築けない惨めなところ
辿り着いた私はきっと前よりは、幸せかもしれないよと
心の中で何度も唱える。
まだまだわからない、惨めに蹲っている
"日の出"
私は、何を思ったか寝起きの友人を家から引っ張り出して、電車に乗っている。
隣の友人は私の肩にもたれかかって船を漕いでいる。
肩にそれなりの重みを感じながら、誰もいない車内にわくわくして、窓から見える乗り物特有の景色を見つめていた。
目的地に駅に到着すると、完全に夢の世界に入っている友人を叩き起こす。
キッと睨まれたが、気付かないフリをしてさっさと電車を降りた。
時間もあるのでふらふらと道を歩きながらついた場所は、浜辺
辺りは未だに暗い
波打つ音が後押しして、怪しげな雰囲気を醸し出していた。
ちょうど良い位置に腰を下ろすと、後ろから来た友人もそれに倣って隣に座る。
隣に座るあなたの呼吸と鼓動を感じる。
わくわくしながら膝を抱えて辺りが照らされるその瞬間を待っていた。