"心の旅路"
心は部屋のようなもの
他人に自由に立ち入らせる人もいるし、絶対に扉を開けようとしない人もいる。
それ自体は当たり前で、そんな人それぞれの心のあり方を咎めるというのは常軌を逸している。
例えば、先ほど挙げた例の前者の人がいるとすれば
「自分はこんなに心を開いているんだから、そっちも同じようにして欲しい」
と無理やり鍵をこじ開けて土足で入ってくる輩もいる。
私はそんな人を蹴っ飛ばして追い出してみるが、追い出したとしても気が晴れることはない。
そういう奴は追い出してみても、自分が悪いとは全く思わずキーキー喚く。
もちろん、前者の人が全員そうではないということはわかっている。
そして、後者である絶対に扉を開けない人には、私は扉をノックして返事が返ってくるのを待ってみる。
人によっては開けてくれるし、人によっては扉越しに会話をしてくれる、人によっては全く返事がないこともある。
だがそれも人としてのあり方で、心の置き方。
扉の扱い方は生きていく上で決まっていく。
だからこそ全員がそれぞれ違っていて、絶対にそれは誰も咎めていいものではない。
何度でも言いたい。
私が決めた扉の扱い方を咎めるのは、私が生きてきた痕跡を否定するのは
常軌を逸している!
"凍てつく鏡"
とある森の奥底で彷徨っていた。
深く深い森の中、冷たい空気が立ち込めている
浅く雪が積もっており、ちらほらと草が顔を出している
体を包むコートに身を潜めて、先へと進む。
歩いていると、少し先に開いた場所があるのが目に入る
そこには木も草もなく、ただ雪があるばかりだった。
不思議に思って近づくと、突然に視界が空を向いた。
雪と草が交わった地面に頭を打ち付けて、少ししてから滑ってしまったのだと気付く。
立ち上がってコートについた雪を払う
不思議に思ったので、またしゃがみ込んで手をいっぱいに広げて滑った部分をなぞってみると、氷だった。
湖が凍ったものらしい。ガラスのように澄んで透明で、奥底に泳いでいる魚影が見える。
石の凹凸や枝が落ちている様子まで鮮明だ
とても美しいものを見た。
と自分でもわかるほど目を輝かせてそれを見つめる。
満足したらば立ち上がって、その湖の上を歩いてみた。
サクサクと薄雪が割れる心地の良い音が足元から伝わってくる。
やっと湖の中央まで進んだあたりでそんないい音の中にパキッと嫌な音が混ざった。
気付いた時にはもう遅く、氷が割れて私は湖の中に引っ張り込まれる
冷たい。そう思うことだけで精一杯だった。
自然に上を見上げる体勢になる
先ほどまで歩いていたガラスに私の呆けた顔が写っている。
愚かな自分を侮蔑して、割れた氷と共に沈んでいった。
"雪明かりの夜"
とある星で1人きりだった私は、降りしきる雪を木の下から座って眺めていた。
1万年の間、宇宙を漂って不意に辿り着いたこの星で、ただずっと歩き回っていた。
木の数を数えたり、一周どれほどかかるのか計算してみたり、きっとこの世の誰よりも知り尽くしてしまった。
期待していた生命はおらず、がっかりしてしまったのは記憶に新しい。
雪が降ると言うのはこの星にしては珍しい出来事だった。この星に降り立ってからというもの、上から見下ろすことしかなかったこの雪は、今や私を見下ろしている。
ゆらゆらと空を舞い、ふわっと地面に降り立って積もっていく。
眺めていると、空がいつも通りに満点の星空に輝いているのに気付いた。
美しいと心から感じる。もしかしたらあの星が落ちて来ているのかもしれない
生きているのだから、不思議なこともあるものだと、白く輝いて眩しいほどの雪を手で受け止める。
皆と同じように地面に積もることはなく、私の体温でじわと溶けていった。
12/8 "雪原の先へ"の続きです。宜しければ読んでみてください❄️
"祈りを捧げて"
ある晩のこと
暇だったので外で歩いてみれば1人の男を見かけた。
石の前で目を瞑って、何かを訴えているよう
こんな夜になにしているのか、不審者かなぁと思って家に帰った。
次の夜も暇だったので外に出た。
気になって昨晩に男のいた方に目をやると、昨日と変わらぬ様子で石の前にいた。
気になったので声をかけてみた。
返事はない、見向きもせずにじっと堪えて石に祈っている。
予想通り不審者だったらしい
満足したので家に帰った。
やっぱり次の夜も暇だったので外に出た。
そしてやっぱり、男も同じ様子だった。
何をやっているのかとじっくり見てみれば、石に何か彫ってあるのがわかった
何が彫ってあるのかはわからなかった。見渡せば似たようなものがたくさんある。
なんとなく男にも見覚えがある気がしたが、よくわからなかったのでやっぱり家に帰った。
なんとなくその夜は、地に足がついていないような気がした。
"遠い日のぬくもり"
ある夏の夜。
雨が降っていた、じめじめとしていて心地の良い夜とは言えなかった。
珍しく君の帰りが遅くって、連絡も来ないから心配になって傘を差して探しに行った。
傘は持って行ったはず、濡れて冷えてしまっていないかな
晩御飯が冷えてしまう
何か事件にでも巻き込まれてしまったの?
なんて色々考えながら傘に当たる雨音しか聞こえない街を彷徨っていると、やっと君を見つけた。
君は、人通りの少ない歩道で傘を投げ出して倒れていた
なりふり構わずに傘を捨て置いて、駆け寄る。
長い間雨に打たれて、体は冷え切っていた。
けれど、冷たいのはきっとそれだけのせいじゃない。
それから救急車を待つまでの時間。手を取って脈の確認をしていた。
あるけど、少ない気がする。
人工呼吸だとか心臓マッサージだとかの単語が頭の中に埋め尽くされる。
けれど素人の私が触れて壊してしまったら?
せめて温めるぐらいは。
私は傘を近くに置いて君に覆い被さった。
雨音が耳の中でこだましている
まるで、私を責め立てているような雨。
今まではずっと、私の方が冷たかったのに、
私は君の手を何度も何度も撫でて、願っていた。