満天に輝く星空を見ていると、抱え事など小さなものに思えてしまう。今まで躊躇いを感じる弱さが、とてもとても、小さきものにも見えてくる。
あのとき、、あと一歩踏み出せなかった迷いの心。
この輝きで意思を持つ強さに、変わるような気がした。
無数の綺羅星の中に、溶けるような速さで横切る一筋の光が見えた。
…ねぇ、何をお願いしたの?
なんだと思う?
そして訪れる静寂の時、同時に2つの心が変化した。
辺りは暗く、互いの表情は見えない。でも紡ぐ言葉はもう要らなかった。ただ抱きしめ合う温度は、更なる幸福で満たされるのには充分だった。この空間が堪らなく好きだと思った。
平常心よりも少し高い…微熱
それが、魔法にかかる温度だ。
お題: 言葉はいらない、ただ…
数十年前、金魚を飼っていた。
今思えば、何匹飼っていたかは、定かではない。
覚えているのは、4匹だ。
私の記憶の内にあるのは、私が屋台で貰えた2匹で、雌雄もわからないのに、名前を「オス」「メス」と付け、呼んでいた。
今では個体名にとって名前というものが重要なことを知っているが、当時は幼いながらに残酷だった。
ある程度育っていても2匹とも個体差すらなかった(と当時は記憶している)ので、名付けたその翌日、どっちがオスでメスなのかわからなくもなっていた。
しかしある夏の日に、虫籠に水を張っただけの水槽にて、1匹プカプカと浮いていた。のっぺりとした眼は曇っていて、死んだ魚の目をしていた。スーパーに売られている現状を目の当たりにしても何も思わないのに、その時はとてもリアルで、自分のしてしまった事実に当時は少し落ち込んだが、今思うと当時の私を叱りたいほど、本当に申し訳ないという思いが強く胸を打つ。
金魚とは、とても敏感な生き物で、飼い始めの水槽に水を張る時や、掃除をする場合でも、新しい環境に馴染ませる為、慎重に水の温度調整をしっかり測った上で環境を整えてあげねばならぬ、と…知ったのは最近になってからだった。
私は庭の土に埋め、手を合わせた。
雌雄判別もつかない、名である「オス」なのか「メス」なのかもわからない2匹の内の…1匹を。
実のところ、死んだ金魚は川などに流してあげる方が良いということだったが、なんだか急な川の流れに身を投げさせるのも可哀想に思ってしまい、土葬を選んだ。
そして、オスかメスかのどちらかが死に、そしてまたメスかオスかのどちらかが天国に逝ってしまった。
思うところ多分、水の中の酸素が陽によってなくなった酸欠死ではないかと思うとさらに胸が痛い。
それからは、とにかく暑い中で放置するのはダメだというのを学んだのだった。
そしてあと2匹は、特徴のある強く横に長い金魚と、ヒラヒラした尾を持つ観賞用の金魚だった。
やはり知識の無駄にない私には、
死ぬ前まで両方雄だと思っていたが、頭が丸く削げている形の一番強い金魚の方が、雄だと判明。
そして、長いこと飼っていたのに、初めて卵のようなものを産みつけたのが、ヒラヒラした尾の子だった。どうやら雌だったらしい。
金魚もテリトリーがあったのだが、横60センチくらいの小さな水槽に2匹入れて飼っていた。
両者とも居心地がさぞ悪かったことだろう。
そして、金魚の知識がない家族に拾われて、13年も生きた。私がマミーに怒られている時も、廊下で正座させられている時も、ヒステリックな人間の叫びはさぞ恐ろしかったに違いない。
…申し訳なかった。
もっとも小さき、か弱な生き物たちの事を考えてやるべきだった。
私でさえもマミーの怒涛は、怖かった。
多分宇宙一だと思う。あの銀河系で超有名なダースベーダーよりも怖いと思っているので、当時ガラケーの自宅の着信音は、ダースベイダーのテーマソングを指定していた。
本屋で立ち読みしていると響く、ダースベイダーのテーマ。
横の人の視線が痛い。…変な事を思い出してしまった。
もう誰にも邪魔されることなく、
先に天国で、綺麗な蓮見の池の下で
悠々と泳いでいて欲しい。
この2匹の出会いとは、ある祭りの日、ある程度泳げる程の水が入った、小さなビニール袋が木の枝に吊るされていたらしい。すくう網が破れた場合、おまけとして2匹貰えるあの小さなビニール袋だ。
うちの親がそれを見つけ、「あらまぁ、可哀想に。」と拾ってきたらしい。神社のお祭りだったから誰かが拾ってくれるだろうという事だったのかも知れない。…今も昔も人のすることは変わってはいない。
だが、拾ったのはどうしようないほどの知識のない家族であった。特に金魚知識は皆無だった。水道水からカルキを除去する透明な錠剤を2粒入れるだけで良い、と思っていた知識と時代だった。
そこから13年生きた。
最期は寿命だったと思っていたのだが、最近ある金魚の動画で知った。マツカサという名の病だった。放っておけば鱗が逆立ち、身体が溶けていく病気だ。金魚でいうところの難病だった。
何もかも知識のカケラも無くて、本当にすまなかった。
もう思い出すことしか出来ないが、なんとか成仏して欲しい。動物はあまり長く思いを留めると、成仏出来ないと父に言われたことがある。…こうして、たまに思い出すくらいがちょうどいいらしい。
屋台に並ぶ金魚を見ると、小さくて可愛いと思うと同時に、なんだか切ない、可哀想だという思いも抱く。長いこと生きられるのは、ほんの数匹かもしれないということを知っているからだ。
華やかに見えるその裏で、小さな命を売ってるテキ屋のおじさんたち。悪意は感じないけれど、あまり良い想いを抱かなくなってしまった。それは私も大人になったということだろうか。
それでも屋台を見ると、胸が躍る無邪気さは忘れてはいないけれど。
お題: お祭り
今年最初に見たものは、土手を並行に沿って花を散らしていた。そんな情景をわたしは今、縁に腰を下ろして眺めている。
今この瞬間、この景色の中に、昔を懐かしむ思い出があった。もう決して戻りはしないあの日々に。
どうしてもっと早くに気づけば良かったのだと、何度も自分を責めたあの日のことを。思い出といえど、まだ癒えぬ傷は深く重い。それは、わたしの胸を何度も突いた。
何もかもが殺伐としていたあの時代。
戦に巻き込まれ行き倒れになった者、その遺体は放り出されたままに、身寄りのない子供、逃げ遅れた者、戦での死者。
長い間放置され白骨化された、かつては人の、何か。…でもあったものが、無造作に朽ち果て転がっていた。
誰しもが、突然生きる途を閉ざされ、転がっていても気に留めるような心も気も無くなっていた。
見せしめに殺される。そんな日常が、恐れが、人々の心を次第に無き者へとさせていた。
そして、この場所こそがちょうどそれにあたる。
今は連日テレビで取り上げられる程の観光名所となったが、、素直に喜べない気持ちもあった。
此処で多くの者が血を流し、そして、看取られないまま死んでいった。
無念だがこの世で報われない者たちも少なくはない。
此処は、そんな者たちの墓場だったのだから。
寂れた道の端に、今でも無縁仏が立っている。
戦中、縁者のいない者などよくある話だった。あんな時代であっても名も知れぬ誰かが、心を痛めた誰かが、憐れに思い、此処に足を止めた者が居たに違いない。
せめてもの供養であり、今を生きる人たちの希望になれば…と建てたのだろう。地蔵とは、そんな現世の嘆き、憐れみや希望が形になっているものが多いという。
今ではその小さな希望が、結果大きな花を咲かせたのだ。
それから幾年が経ち、人の手が加わって…この道は、人の道らしい路になった。
目に見えるは、見事な桜の木が立ち並び、人々はそれを見て大いに感情を溢れさす。
皆に愛される道になっていた。
昔の事など嘘のような…、その光景にわたし自身、感嘆してしまうほどに。
空高く、何処までも続く蒼の中に、風に揺れ舞う無数の花びらを目で追いながら…
お題: 花咲いて
男は顔で笑顔を作りながら、こう言った。
『当選おめでとうございますぅ。厳しい審査を乗り越えたそこのあなた。これから、我が社が開発した《タイムマシーン》によって、過去へ飛んでもらいますぅ。そして、出来るだけ且つ単純に、彼らを、誘えば良いのですぅ。』
たった、それだけなのですよ。
初心者でもできる"簡単なお仕事"ですぅ。
私の前に立ち、「ささっどぞ、此方へ。」と頭を低く腰を曲げる。
(たいむましーん?彼ら?なんだ?それは…)
男の話し方といい、雑な説明といい、頭を低くした時に見てしまった頭の中心部の毛の薄さから、かなりの胡散臭さを感じながらも、私は男の言われるがまま、前に出る。
男は持っていたビジネスバッグを開けると、銀メッキの大きな箱を取り出した。箱の蓋を開けると、更に中から
赤い大きなボタンが埋め込まれた装置が出てきた。
ささ、どーうぞ、こちらへ…。
私は更に胡散臭さを感じながら怪訝な顔を向ける。
男は、何も怪しい者では御座いませんですぅ。という顔をしながら、私を促した。私は迷いながらもまた一歩近づいた。
『はい。いーまから、あーなたは、この我が社、我がー社ーの、《タイムマッシーン》に乗り、過去へと、飛んで頂きますぅ。』
男の説明は、耳障りだった。
なにかのドラマでこのような喋り方をしている俳優を観たことがある気がした。…なんだっけ。思い出せない。
男の説明は続く。
『はい。そーれーでぇ、そこのあなた、あなーたーには、』
…頭が痛くなってきた。
すまないが、もっと手短に話してくれないか?
私は男に言う。
『はい。かしこまりー』
…ぃぃぃ居酒屋か!
私は思わずつっこんでしまった。普段感情が揺さぶられることはない筈なのに。
男は私のツッコミにも無関心な表情で、再び話始める。結局話し方は相変わらずだった。
…なので、男が話した説明を要約する。
ーー男の会社が開発した、タイムマシーンという装置で過去へと飛び、進化していない猿も同然の我ら祖先の元に、彼らが道具を使うよりも前に、この赤いボタンを押す事を促し、いかに恐怖や危険を感じ悟る潜在能力を持たせないようにさせるか。
…と、いう事ですぅ。
男は説明し終わると、私にまた笑顔を作った。
私は怪訝な顔を向ける。
…どうせその笑顔も本心から笑っていないんだろう。
なにせ、こんな重大な任務とやらを、ただの一般人にやらせるような仕事じゃない。
私は眉間に皺を寄せ、深い息を吐いた。
…じゃ、辞めますぅ?
男は、私が酷く困惑している様子から、覗き込むようにして聞いてくる。
こんな重大ともいえる説明をしておきながら、こんな簡単に返事をしていいのか?…と、咄嗟に思いながら、口を噤んだ。
男はそんな私を真似るかのように、
口を噤み、への字に曲げる。次にはアヒルのような口にしたり、口をイーの形にしたり、まるで子供のようだった。
…はぁぁぁ。
私はかなり大きな音で溜息を吐く。
男を見ると、私から視線を外し、口の端を曲げて…如何にもめんどくさそうな顔をしていた。それでも、何秒かに一回は、此方に視線を送ってくるが、私と目が合うと慌てて視線を逸らし、何か独りごちる素ぶりを見せたりもしている。…まったくもって、白々しかった。
(なんなんだ、この人は…。)
全く得体の知れないハゲたオッさんを横に、私は白い目を向けながら、…わかりましたよ、やりますよ。諦めの声をかけた。
もう、やればいいんでしょ。という感じだった。
すると男は、急に空が晴れたような声と表情を露わにしながら、私に「やってくれますぅ?」と、満面の笑みを向けてくる。
(だからお前、そういうとこだぞ……。)
私は心の中で、既に諦めの境地にいた。
所詮、私は金で雇われた身なのだろう。多額の金と引き換えに"当選"という形で、今この男の前に立っているのだ。
その赤いボタンの装置で、何かが、もしかしたら変わるかもしれない。しかし、やっぱり何も変わらないかもしれない。
実際のところ私は自分の事しか考えていなかった。男のいう壮大な計画がもし、うまくいってもいかなくともどうでも良かった。所詮他人の未来なんて私には関係がないのだ。
快く引き受けた私を、男は満面の笑みという名の作った表情で、銀メッキの箱を手渡してくる。
あ…それから。と言いかけて男はビジネスバッグの中から一枚の白い紙を取り出した。
書面に書かれた文字を見て、私が金より欲しかったものだと、瞬時に理解した。この紙一つで私の未来が左右されるといっても過言ではない。
『あなたの未来は、もう我々の手でしか救えないのです。』
男の笑みは、これまでと違う表情していて、
最後の最後に癖のない言葉で、私の背中を押した。
私はずっと私の事しか考えてはこなかった。
もしかしたらもう、帰ってはこれないのかもしれない。
金欲しさで釣られた、過去の自分の過ちがある。
だがあの紙だけで、散々迷惑をかけてきてしまったあいつらの生涯の保証になるのなら。
…せめて最後くらいは自分の言葉で伝えたかったと、
今になってからでは遅いのだ。
お題: もしもタイムマシーンがあったなら
先日博物館に行った帰り、館内のお土産売り場で『一生のお願い』を連呼している子どもがいた。
少しぽっちゃり型の小学生の女子である。
「一生のお願い!一生のお願い!一生のお願い!」
隣には細く長身な父親がいて、何度も連呼しながら背の高い父親を見上げている。
そんな女子の顔は…笑っていた。
父親は足元でせがむ我儘娘であっても、まだ可愛くて仕方がないのだろう。
鼻の下を伸ばしながら、内心(まいったなこりゃ)という満更でもない顔だった。
何に対して、一生のお願いを繰り返しているのかと見ていると、パンダの形を模った鉛筆削りだった。
わたしからしてみれば、(なんだこんなもの)という目で見てしまうのだが、あのパンダ大使でもある黒柳徹子だったら、この女子と同じ尊い目で見るのだろうか?
わたしの目には、女子の隣に「あらぁ、いいわねぇ」という黒柳徹子の幻影が見えはじめていた。
わたしから見る女子は、それなりにあざとかった。
だが我が子を愛おしく想う父親の目に映る娘の笑顔は違ったものに見えているのだろう。
我が子に対する声色も緩みきっていた。
しかしながら紛れなもなくとも、あざと女子の笑みは、わたしが知っているものだった。
…子ガキめ。
此奴、自分の立場というものを知っておるな…。
…そう、かくゆうわたしもこの手を何度、使ったことだろうか。
口は悪い事は確かだが、わたしが敢えて"子ガキ"と称したのは、其奴の顔が、思っているほどに困っていない顔をしていたからである。
実は、わたしは未だに『一生のお願い』を使ったことがない。
しかしわたしが未だに一生のお願いを未使用であっても、この光景は過去の記憶の中で幾度となく見てきたものであった。
…フッ、幼いガキよ。
この歳にして、味を占めた顔を親に仕向けているが、まだまだそんなことではこれから先上手く事が進むようには思えないな。
例え一生のお願いを使わなくとも、
父親という者は娘に弱いのだという事を、早く違う道で知るが良い。
『一生のお願い』という言葉は所詮まやかしであり、幻想に過ぎないのだ。連呼して叶うのは、ほんの一途期だけだ。
これは戯言か?いいや、哲学である。
言葉の真理と心理の化学反応だ。
そういう運を持っているか拾うかは、全て貴様の選択次第なのだからな。フハハハハハ
…と、かのパツキン愉悦王ギルガメッ…なんとか関智一みたいに成り切った様子で見ていると、
父親は、娘の頭を撫でながら宥め、顔が緩んで往くのを見た。
((あ…この顔は))
この瞬間、愉悦王なわたしが悟ったと同時に、子ガキも咄嗟に悟ったに違いない。
わたしがすかさず子ガキの顔を確認すると、既に勝利の笑みを浮かべていた。
そう、まるで過去の幼いわたしのような勝ち誇った、勝利の笑みを。
子ガキは、はしゃぎながら父親の背を追ってレジに向かっていく。
親バカ子ガキの2人を見送った後、わたしは思っていた。
…子ガキよ。お主もいつか気づくときがあるだろう。いつか大人になり自ら働いて生きていくのは、それなりにお金がかかるものなのだということを。
敢えて言おう!自分が何事もなく育っていたのは親の懐の深さがあったからだと!
あー…、お金欲しい。
お題: 今一番欲しいもの