yukopi

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数十年前、金魚を飼っていた。
今思えば、何匹飼っていたかは、定かではない。 
覚えているのは、4匹だ。
私の記憶の内にあるのは、私が屋台で貰えた2匹で、雌雄もわからないのに、名前を「オス」「メス」と付け、呼んでいた。

今では個体名にとって名前というものが重要なことを知っているが、当時は幼いながらに残酷だった。
ある程度育っていても2匹とも個体差すらなかった(と当時は記憶している)ので、名付けたその翌日、どっちがオスでメスなのかわからなくもなっていた。



しかしある夏の日に、虫籠に水を張っただけの水槽にて、1匹プカプカと浮いていた。のっぺりとした眼は曇っていて、死んだ魚の目をしていた。スーパーに売られている現状を目の当たりにしても何も思わないのに、その時はとてもリアルで、自分のしてしまった事実に当時は少し落ち込んだが、今思うと当時の私を叱りたいほど、本当に申し訳ないという思いが強く胸を打つ。


金魚とは、とても敏感な生き物で、飼い始めの水槽に水を張る時や、掃除をする場合でも、新しい環境に馴染ませる為、慎重に水の温度調整をしっかり測った上で環境を整えてあげねばならぬ、と…知ったのは最近になってからだった。
私は庭の土に埋め、手を合わせた。
雌雄判別もつかない、名である「オス」なのか「メス」なのかもわからない2匹の内の…1匹を。

実のところ、死んだ金魚は川などに流してあげる方が良いということだったが、なんだか急な川の流れに身を投げさせるのも可哀想に思ってしまい、土葬を選んだ。

そして、オスかメスかのどちらかが死に、そしてまたメスかオスかのどちらかが天国に逝ってしまった。

思うところ多分、水の中の酸素が陽によってなくなった酸欠死ではないかと思うとさらに胸が痛い。
それからは、とにかく暑い中で放置するのはダメだというのを学んだのだった。


そしてあと2匹は、特徴のある強く横に長い金魚と、ヒラヒラした尾を持つ観賞用の金魚だった。
やはり知識の無駄にない私には、
死ぬ前まで両方雄だと思っていたが、頭が丸く削げている形の一番強い金魚の方が、雄だと判明。
そして、長いこと飼っていたのに、初めて卵のようなものを産みつけたのが、ヒラヒラした尾の子だった。どうやら雌だったらしい。

金魚もテリトリーがあったのだが、横60センチくらいの小さな水槽に2匹入れて飼っていた。
両者とも居心地がさぞ悪かったことだろう。
そして、金魚の知識がない家族に拾われて、13年も生きた。私がマミーに怒られている時も、廊下で正座させられている時も、ヒステリックな人間の叫びはさぞ恐ろしかったに違いない。

…申し訳なかった。
もっとも小さき、か弱な生き物たちの事を考えてやるべきだった。
私でさえもマミーの怒涛は、怖かった。
多分宇宙一だと思う。あの銀河系で超有名なダースベーダーよりも怖いと思っているので、当時ガラケーの自宅の着信音は、ダースベイダーのテーマソングを指定していた。
本屋で立ち読みしていると響く、ダースベイダーのテーマ。

横の人の視線が痛い。…変な事を思い出してしまった。


もう誰にも邪魔されることなく、
先に天国で、綺麗な蓮見の池の下で
悠々と泳いでいて欲しい。


この2匹の出会いとは、ある祭りの日、ある程度泳げる程の水が入った、小さなビニール袋が木の枝に吊るされていたらしい。すくう網が破れた場合、おまけとして2匹貰えるあの小さなビニール袋だ。

うちの親がそれを見つけ、「あらまぁ、可哀想に。」と拾ってきたらしい。神社のお祭りだったから誰かが拾ってくれるだろうという事だったのかも知れない。…今も昔も人のすることは変わってはいない。
だが、拾ったのはどうしようないほどの知識のない家族であった。特に金魚知識は皆無だった。水道水からカルキを除去する透明な錠剤を2粒入れるだけで良い、と思っていた知識と時代だった。
そこから13年生きた。

最期は寿命だったと思っていたのだが、最近ある金魚の動画で知った。マツカサという名の病だった。放っておけば鱗が逆立ち、身体が溶けていく病気だ。金魚でいうところの難病だった。

何もかも知識のカケラも無くて、本当にすまなかった。
もう思い出すことしか出来ないが、なんとか成仏して欲しい。動物はあまり長く思いを留めると、成仏出来ないと父に言われたことがある。…こうして、たまに思い出すくらいがちょうどいいらしい。


屋台に並ぶ金魚を見ると、小さくて可愛いと思うと同時に、なんだか切ない、可哀想だという思いも抱く。長いこと生きられるのは、ほんの数匹かもしれないということを知っているからだ。

華やかに見えるその裏で、小さな命を売ってるテキ屋のおじさんたち。悪意は感じないけれど、あまり良い想いを抱かなくなってしまった。それは私も大人になったということだろうか。

それでも屋台を見ると、胸が躍る無邪気さは忘れてはいないけれど。




お題: お祭り


7/29/2024, 8:48:48 AM