今年最初に見たものは、土手を並行に沿って花を散らしていた。そんな情景をわたしは今、縁に腰を下ろして眺めている。
今この瞬間、この景色の中に、昔を懐かしむ思い出があった。もう決して戻りはしないあの日々に。
どうしてもっと早くに気づけば良かったのだと、何度も自分を責めたあの日のことを。思い出といえど、まだ癒えぬ傷は深く重い。それは、わたしの胸を何度も突いた。
何もかもが殺伐としていたあの時代。
戦に巻き込まれ行き倒れになった者、その遺体は放り出されたままに、身寄りのない子供、逃げ遅れた者、戦での死者。
長い間放置され白骨化された、かつては人の、何か。…でもあったものが、無造作に朽ち果て転がっていた。
誰しもが、突然生きる途を閉ざされ、転がっていても気に留めるような心も気も無くなっていた。
見せしめに殺される。そんな日常が、恐れが、人々の心を次第に無き者へとさせていた。
そして、この場所こそがちょうどそれにあたる。
今は連日テレビで取り上げられる程の観光名所となったが、、素直に喜べない気持ちもあった。
此処で多くの者が血を流し、そして、看取られないまま死んでいった。
無念だがこの世で報われない者たちも少なくはない。
此処は、そんな者たちの墓場だったのだから。
寂れた道の端に、今でも無縁仏が立っている。
戦中、縁者のいない者などよくある話だった。あんな時代であっても名も知れぬ誰かが、心を痛めた誰かが、憐れに思い、此処に足を止めた者が居たに違いない。
せめてもの供養であり、今を生きる人たちの希望になれば…と建てたのだろう。地蔵とは、そんな現世の嘆き、憐れみや希望が形になっているものが多いという。
今ではその小さな希望が、結果大きな花を咲かせたのだ。
それから幾年が経ち、人の手が加わって…この道は、人の道らしい路になった。
目に見えるは、見事な桜の木が立ち並び、人々はそれを見て大いに感情を溢れさす。
皆に愛される道になっていた。
昔の事など嘘のような…、その光景にわたし自身、感嘆してしまうほどに。
空高く、何処までも続く蒼の中に、風に揺れ舞う無数の花びらを目で追いながら…
お題: 花咲いて
7/24/2024, 2:02:21 AM