※昨日は間に合いませんでした。
昨日よりも明日、明日よりもその明日。
そうしてずっと良くなると信じてた。
「お祈り申し上げます」
画面に立ち並ぶ、使いまわされた定型文には、これっぽっちも気持ちを感じない。
沈んだ心に思考を巡らせ、またどうするか考える。この一文がダメだった、もっと調べ上げるべきだった。ジャンルも違った。
必死にメモを取り、無意味な再考を繰り返しても、何かが掴めることはなかった。
天才と呼ばれる人々は、自らをそう呼称することはない、けれどさも平然と誰もしない事をする。生活の全てを費やして、睡眠時間すらも惜しくなる。
「そこまですれば…、僕は」
思い立って、やってみるけど続かない。
踏ん切りつかずに、右往左往と切り替わる。
あれが良いこれが良い。
ゴミ溜めと化した書斎の一座で、僕は祈りを受け、また言うのだ。
“なんて臆病者なんだろう”
『誰よりも、ずっと』
※今日は疲れたので雑です。ごめんね。
住宅の真ん中を突っ切る、街路樹が左右並びの散歩道、悪い日が続くといつもここにくる。なにか凄いものがあったり、素敵な友人と話すわけでもない、単なる子供の歩みとか、せわしない犬の散歩も見ればまあ、おもしろいが、それに価値を置けるほどわたしは博愛主義ではない。
わたしが一番好きなのは早朝、まだ大抵の店がやっておらず、コンビニも空っぽの商品棚が並んでいる頃ーだ。
普段はつまらない、コンクリ舗装のよくあるものが、街路樹と住宅を貫いて、天に日の姿を映すのだ。炯々と輝く太陽は、まるでそこにあるのが当然かの如く、一つの一枚絵のように現れ、その瞬間の芸術を描く。
その輝きにわたしは惹かれ、すべてがどうでもよい気分になるのだ。
今日は夕暮れ、普段とは違う。
同じ作者の続きもの、もしくは弟子が完成させたような、赤い赤い沈む夕日は、
また違った、寂しさと感懐を残す。
わたしはまた惹かれ、
その美しさに息を呑むのだった。
『沈む夕日』
本日付け、私は太陽系第三惑星への派遣が決定された。事実、私はそのための努力を惜しまず続けてきた。言語を研究、擬似空間でのフィールドワーク、人型構想形成の実技、
全ては今日この日のため…、世話になった家族へ挨拶を済ませ、私は船に乗り込み、惑星へ向かった…。新たな資源と夢と希望、笑顔で再会を約束してー
そんな私は少々困った事態に陥ってる。
「ひっぐ…えっぐ…」
明かり灯った長方形の構造物の並ぶ、小汚い道の一画、シャッター閉じた店前に
一人の小さな人間が泣いてるのだ。
ここは母星の導き出した電波受信の最適な所、そこにいられては困る。
「少年よ、どうした?」
覚えた言語を活用する、震えもない完璧なイントネーションだ。だがしかし、少年は答えない、それどころかますます泣きだす。
周囲の人間の視線が気になる。私は怪しまれてはならない、秘密裏の任務なのだぞ、私のイントネーションに問題があったか?いや完璧なはずだ。何度もシャドーイングを繰り返した、仕方ない。
「こっちへ来い」
少年の手を掴み、手元の装置を起動する。
コンマ秒経つ間もなく、肉体が消え、風吹き荒ぶ屋上にいた。
少年は目を見開いて、キョロキョロしている、頬は腫れているが、涙は止まっている。
「おじさんは…、超能力者なの?」
答えに窮する、危機を脱するためとはいえ、不用意に使うべきでなかった。しかし、地球外からのものとはバレていないのだから、ここは肯定しておくべきだろう。
「ああ、その通りだ。私はー」
「超能力者さん!星をつくって!」
「実はかの某…は?」
まさか、私の正体がバレたというのか!
確かに星造技術に対しての心得は基礎程度だが学んでいる。いやしかし、一人で作れるようなものでもない、途方もない時間がかかるのだ。
「私にはそんなことはできない、せいぜいスプーンを曲げることくらいだ」
「できないの…?」
エアパックのように萎んで、瞳から涙がこぼれる。ああ、そんなつもりではなかったのだ、えっと、そうだな、泣きやますには話させて落ち着かせるといいと聞いたことがある、つまり
「そもそも、少年よ。君はなぜ泣いていたのだ?」
「本で星の話があったの、長野だといっぱい見れるって」
「うんうん」
「だから…、行きたいって言ったけど、そんなお金ないってお父さんが、画像を見せてくれたけど、それはもう見てて、そうじゃなくて、だから、じゃあ一人でいったけど、道が…わかんなくて…」
「そうか、君は星空が見たかったんだな」
「でも、お父さんは行けないって断ったんだ」
少年は僅かな頷きで肯定した。
確かに、この場所は明かりだらけ、それに大気もあって星は見えそうにない。
母星では、空を見上げて、星の輝きに感動したものだ、きっとあの輝きの正体は生き物で、たくさんの小さなものが、より集まって生きているとそんな子供ながらの空想をしたものだ。親に星間旅行に連れて行ってもらったときは、色彩豊かでどこか寂しげな宇宙に、まさに子供のようにはしゃいだものだ。
…そうだな
「じゃあ、私が星をつくってあげよう」
「え、でもできないって」
「小さな流星なら、わたしにも作れるのさ、ほら、家まで送る、その時になったら、目印にあかりを消すからね」
おーいと探す呼び声に少年を送り届けた。
ある東京の夜、突如の停電が起きた。
眠らない街は、微かな微睡に落ち、その空は星々が輝いて、はるか彼方まで煌めいたという。その下で、一人の少年は星以上に目を輝かせ、父と共に見つめるのだった。
「これで宇宙船の電力は十分だ」
星に乗り込む異星の者は待つだろう未来にほくそ笑むのだった。
『星空の下へ』
「お願い、やめてー」
鈍い音に頭が弾けた。何万もかけた艶髪と化粧を溢れる血と脳髄が汚していく。
わずかに聞こえた息遣いも二度三度すると止んだ。わたしをATM扱いし、一生の傷を負わせたこいつは、ようやく死んだ。
積年の恨みを晴らしたというのに、心は妙に冷静だった。解放感も、達成感もない。
”まだ、一人残っているからだ”
思考を巡らすより先に、解答が頭に浮かぶ。
血まみれのバッドを服で軽く拭き、次の標的のもとへ向かう。
パソコンを叩く音が聞こえる。
念のため周囲を確認し、手の狂気を背後に隠してから、扉を開ける。
相変わらず仕事ばかり、こういう男だから、こんなことを引き起こしたのだ。
私の考えを何一つ肯定してくれなかった、名前を呼んでくれることも、犯された私に手を差し伸べたことも、なかった。
およそ父親とは言えない、単なる同居した他人だ。
「お父さん」
こう言うのも嫌だ、でも警戒はされたくない。アイツはゆっくり振り返る。
「ああ、お前か」
黒縁眼鏡に、何年も変わらない彫りの深い顔、それには少しの興奮が見えた。
思い切りバッドを振りかぶる。眼鏡が割れ、書類に血とガラス片が散らばる。
アイツは席から転げ落ち、その中に倒れ込んだ。
「お前らしからぬ方法だ、もっと効率よく、証拠を残さないようにやると思っていた」
「毒殺であればバレることもなかったろう、そこまでの賢さは持つよう育てたはずだ。」
殴る、蹴る。それでもアイツは喋り続ける。
「不確定要素が多すぎたか?いや、防ぐために友人とは離れさせた。交友の条件は私の知人のみにしたはずだが」
黙れ、しね、死んでくれ。
渾身の力を込めた一撃で、頭をスイングする。人の曲がらない方向に首が伸び、そのままアイツは動かなくなった。
最期に聞いたその言葉に私は酷く不快になった。
『それでいい』
「お願いします」
「ダメですよ、僕にはそんな権利ないですから」
「それでも必要なんです」
「お金がないんなら、売れないって何度言ったらわかるんですか」
僕は今、非常に困っていた。時刻は深夜三時、場所はコンビニ、深夜特有の浮遊感と眠気と闘いながら、深夜時給を求め、一人で切り盛りしていた。
そろそろ二、三年経つ、親の散財が酷く、大学費用を稼ぐためのバイト。
大抵のことはできる、搬入もクレーム処理も、調理も、だが、こんな経験ははじめてだった。
「子供が飢えてるんです」
目の前の女性は、必死の形相で訴える。
不思議と声を荒げているようには見えない、その女性は、まるで戦後闇市の一場面みたいに言うのだ。
だが、時は現代。米軍の靴磨きをする子供などもういない。
「ですから、私では対応できません。
そろそろ警察呼びますよ。」
あのババアー店長であれば応対できるはずだが、今の時間帯はすっかり眠りこけている。
長年の経験で出ないことはわかっている。
「ほんとに、たった一つでいいんです」
「予備隊はやめてください、ころされてしまうから」
とうとう女性は泣き出してしまった。ボサボサの髪がレジ前にちらばる。もう勘弁願いたい。
正直、こんなことを続けていては他に客が来たときになんて言われるかわからない。
もちろん深夜帯の客なんて大抵ロクでなしか、死んだ目の大人だから、そこまで気にすることもない。でももう小一時間はこの問答を繰り返している、疲れた。
致し方ない。
「少々お待ちください」
形式的に声をかけ、商品棚の菓子をとる。
ロッカールームのカバンから財布を取り出し、適当に小銭を握った。
会計を済ませた後、女性の肩をポンと叩く。
「こちらをどうぞ」
出したのはうまい棒、僕の好きなコンポタ味。女性はしばし恐縮そうにしていたが、すぐにその目は輝きが灯った。
「ありがとうございます!!」
まるで命の恩人か何かにかけるような声色だった。女性は立ち上がり、うまい棒を握り締めコンビニを出ていった。
王国の中心、広場には奇妙な生き物と謎の文字列のかかれた金の棒。それこそ異界からもたらされた、我らの恵みの象徴である。
『たった一つ』