髪弄り

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「お願い、やめてー」
鈍い音に頭が弾けた。何万もかけた艶髪と化粧を溢れる血と脳髄が汚していく。
わずかに聞こえた息遣いも二度三度すると止んだ。わたしをATM扱いし、一生の傷を負わせたこいつは、ようやく死んだ。

積年の恨みを晴らしたというのに、心は妙に冷静だった。解放感も、達成感もない。
”まだ、一人残っているからだ”
思考を巡らすより先に、解答が頭に浮かぶ。
血まみれのバッドを服で軽く拭き、次の標的のもとへ向かう。

パソコンを叩く音が聞こえる。
念のため周囲を確認し、手の狂気を背後に隠してから、扉を開ける。

相変わらず仕事ばかり、こういう男だから、こんなことを引き起こしたのだ。
私の考えを何一つ肯定してくれなかった、名前を呼んでくれることも、犯された私に手を差し伸べたことも、なかった。
およそ父親とは言えない、単なる同居した他人だ。

「お父さん」
こう言うのも嫌だ、でも警戒はされたくない。アイツはゆっくり振り返る。
「ああ、お前か」
黒縁眼鏡に、何年も変わらない彫りの深い顔、それには少しの興奮が見えた。
思い切りバッドを振りかぶる。眼鏡が割れ、書類に血とガラス片が散らばる。
アイツは席から転げ落ち、その中に倒れ込んだ。

「お前らしからぬ方法だ、もっと効率よく、証拠を残さないようにやると思っていた」
「毒殺であればバレることもなかったろう、そこまでの賢さは持つよう育てたはずだ。」

殴る、蹴る。それでもアイツは喋り続ける。
「不確定要素が多すぎたか?いや、防ぐために友人とは離れさせた。交友の条件は私の知人のみにしたはずだが」

黙れ、しね、死んでくれ。
渾身の力を込めた一撃で、頭をスイングする。人の曲がらない方向に首が伸び、そのままアイツは動かなくなった。

最期に聞いたその言葉に私は酷く不快になった。

『それでいい』

4/5/2023, 2:15:58 PM