本日付け、私は太陽系第三惑星への派遣が決定された。事実、私はそのための努力を惜しまず続けてきた。言語を研究、擬似空間でのフィールドワーク、人型構想形成の実技、
全ては今日この日のため…、世話になった家族へ挨拶を済ませ、私は船に乗り込み、惑星へ向かった…。新たな資源と夢と希望、笑顔で再会を約束してー
そんな私は少々困った事態に陥ってる。
「ひっぐ…えっぐ…」
明かり灯った長方形の構造物の並ぶ、小汚い道の一画、シャッター閉じた店前に
一人の小さな人間が泣いてるのだ。
ここは母星の導き出した電波受信の最適な所、そこにいられては困る。
「少年よ、どうした?」
覚えた言語を活用する、震えもない完璧なイントネーションだ。だがしかし、少年は答えない、それどころかますます泣きだす。
周囲の人間の視線が気になる。私は怪しまれてはならない、秘密裏の任務なのだぞ、私のイントネーションに問題があったか?いや完璧なはずだ。何度もシャドーイングを繰り返した、仕方ない。
「こっちへ来い」
少年の手を掴み、手元の装置を起動する。
コンマ秒経つ間もなく、肉体が消え、風吹き荒ぶ屋上にいた。
少年は目を見開いて、キョロキョロしている、頬は腫れているが、涙は止まっている。
「おじさんは…、超能力者なの?」
答えに窮する、危機を脱するためとはいえ、不用意に使うべきでなかった。しかし、地球外からのものとはバレていないのだから、ここは肯定しておくべきだろう。
「ああ、その通りだ。私はー」
「超能力者さん!星をつくって!」
「実はかの某…は?」
まさか、私の正体がバレたというのか!
確かに星造技術に対しての心得は基礎程度だが学んでいる。いやしかし、一人で作れるようなものでもない、途方もない時間がかかるのだ。
「私にはそんなことはできない、せいぜいスプーンを曲げることくらいだ」
「できないの…?」
エアパックのように萎んで、瞳から涙がこぼれる。ああ、そんなつもりではなかったのだ、えっと、そうだな、泣きやますには話させて落ち着かせるといいと聞いたことがある、つまり
「そもそも、少年よ。君はなぜ泣いていたのだ?」
「本で星の話があったの、長野だといっぱい見れるって」
「うんうん」
「だから…、行きたいって言ったけど、そんなお金ないってお父さんが、画像を見せてくれたけど、それはもう見てて、そうじゃなくて、だから、じゃあ一人でいったけど、道が…わかんなくて…」
「そうか、君は星空が見たかったんだな」
「でも、お父さんは行けないって断ったんだ」
少年は僅かな頷きで肯定した。
確かに、この場所は明かりだらけ、それに大気もあって星は見えそうにない。
母星では、空を見上げて、星の輝きに感動したものだ、きっとあの輝きの正体は生き物で、たくさんの小さなものが、より集まって生きているとそんな子供ながらの空想をしたものだ。親に星間旅行に連れて行ってもらったときは、色彩豊かでどこか寂しげな宇宙に、まさに子供のようにはしゃいだものだ。
…そうだな
「じゃあ、私が星をつくってあげよう」
「え、でもできないって」
「小さな流星なら、わたしにも作れるのさ、ほら、家まで送る、その時になったら、目印にあかりを消すからね」
おーいと探す呼び声に少年を送り届けた。
ある東京の夜、突如の停電が起きた。
眠らない街は、微かな微睡に落ち、その空は星々が輝いて、はるか彼方まで煌めいたという。その下で、一人の少年は星以上に目を輝かせ、父と共に見つめるのだった。
「これで宇宙船の電力は十分だ」
星に乗り込む異星の者は待つだろう未来にほくそ笑むのだった。
『星空の下へ』
4/6/2023, 1:21:11 PM