駄作製造機

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4/4/2024, 10:27:21 AM

【それでいい】

『おはよー。』

『おはよう。昨日のドラマ見たー?』

教室はとても騒がしい。

メガネの奥から見えるたくさんのクラスメイト。

欠伸をしている人、机に突っ伏して寝ている人。

多種多様な人たちがこの小さなクラスにぎゅうぎゅう詰め。

『そういえばさー、昨日センコーに授業遅れただけで怒られちゃって!マジありえなくない?』

『それな?出席してるんだから別によくね?』

彼彼女達は自分の意見こそ正しいと思い込み、別の意見を言う者を排除する。

此処はそんな場所。

嗚呼息苦しい。

上手く笑えない。呼吸ができない。

『クスクス、、マジ声ウケる〜。』

『聞こえるってば。プッ』

3年生最後のクラス。最後の1年間。

あるのは暗黙の了解と、絶対的な独裁。

自分の意見はみんなの意見。

みんなをよくわかっているのは自分だ。

自分が中心だ。

そんな考えの奴らばかりで全く吐き気がする。

お前は私の彼氏がなんかか?

アイツらは自分の尺度でしか物事を測れないんだ。

嗚呼可哀想。

少しだけ違った雰囲気を持つクラスメイトを認めることもできない。

みんな同じで何が面白いの?

わからない。

『ねぇ美香〜悠河の机触っちゃったどーしよ〜。』

何でそんなにふざけるの。

触ったから何?何か悪いの?その人が何かした?

わからない。

『そんなに言うことなくないかな、、害さないんだしさー。』

『そう思う?でもアイツ3Kだよ?臭い、汚い、キモい。』

嗚呼やっぱりこうなる。

彼は何も悪いことをしてない。

ただ少し、声が高いだけ。笑い方が独特なだけ。
『そう、、?かな、』

どんどんどんどんクラスに呑まれていく。

貴方達は彼のことを知らない。

本当は優しいところも、面白いところも、何もかも知らない。

なのに何でそんなことが言えるの?

"いじめなし クラスの平和 異常なし"

誰かが書いたいじめ撲滅標語が目に入った。

可愛らしい字。あの子が書いたんだな。

『でさー、その時悠河が後ろ通ってさ、、マジで臭かったわけ!みんなアイサイトで避けなきゃだよ?』

所詮、嘘なんだ。

全てにおいて偽善でできたこの世界は、息がしづらかった。

でも私は助けない。

どうせ無駄だとわかってる。

反感を買うのはこの人が悪いから。

そう言い聞かせ、私は今日も心の中で。

それでいい。それでいいと魔法の様に。

だって私も偽善者だから。

3/31/2024, 10:40:07 AM

【幸せに】

生まれた時から、私の運命は決まっていた。

何をするにも側使いが付き添って、危ない事は何でも禁止。

狩猟、散歩、乗馬、料理、男性との会話、etc

何でもかんでも禁止禁止ばっっかり。

だから飛び出した。

黒いローブを被って、相棒の蛇に囮になってもらって。

城から飛び出した。

初めて出歩く城下町はとても輝いて見えた。

煌めいていて、熱気が溢れていて。

いつも見る湿ったい陰気な城とは違って、町の人達の今日を生きる様が太陽のようだった。

目を輝かせながら見ていると、不意に誰かにぶつかってしまった。

『も、申し訳ございません。』

ぶつかったのは私と同じくらいの青年。

爽やかに笑い、彼は私に手を差し伸べた。

『僕もごめんね。怪我はない?』

いつの日かの子守唄を歌ってくれた乳母のような心地よい声。天使の囁き。

彼は優しく聡明で少し茶目っけがあって可愛かった。

相棒で5歳の頃から一緒にいるというフクロウちゃんともすぐに打ち解けて、しばらくは城のことや家柄格差を忘れていた。

『そういえば、君かなり高いものを身につけているね。何処かの貴族か何かなの?』

彼からの質問を受けた時、今まで忘れていたいろんな事を思い出した。

"王女らしく振る舞いなさい。"

"王女は大声で笑いません。"

"王女はそんなことしません。"

"それがこの国の幸せなのです。"

母親からかけられた暗示ともとれる言葉の数々に吐き気がして、同時に何事にも囚われずに生きている彼を羨ましく、妬ましいとも思った。

『ええ。この国の第一王女よ。城にいたら母がうるさいから抜け出して来たの。』

彼は驚く様子もなく、かといって態度が変わるわけでもなかった。

それが妙に心地よくて、ずっと此処にいたいと思った。

『そろそろ帰るわ。お母様が猛獣になっちゃうから。』

彼と2人で笑い合い、城の前まで送ってもらった。

『また、会えるといいね。』

彼は夕日によく映える笑顔で見送った。

ーーーー

『コイツです!この者が王女様を誑かし誘拐しまし
た。』

ジャラジャラと重い鎖を鳴らしながらボロボロになって歩く彼を見たのは、それから2日後の昼頃だった。

私は駆け寄ろうと手を伸ばしたけれど、届かなかった。

母からは酷い叱責と哀れな顔を向けられた。

『可哀想に、、私の可愛い娘はあんな輩に誑かされて、、』

違う。

『王女様は清らかなお方だから、騙されたとお気づきになられていないのです。』

違う。

『何とお可哀想。』

違う!!

違う。何もかもが間違い。

なのに、、どうして誰も信じてくれないの?

『これより!王女様誘拐の首謀者を打首の刑に処す!』

ワアアアアア!!

湧き上がる熱気が、頭にガンガンと響いた。

苦しい。どうして、彼は違う。

私の言い分は聞き入れず、彼の首に剣がかけられる。

『ミューナ!!』

私の名前が呼ばれた。

反射で顔を上げると、優しく微笑んだ彼と目が合った。

『幸せに。』

ザンッッ

彼の首はコロコロと転がって、汚い地面に頬ずりをした。

『ぅっ、ぁ、、ああああああああああああ!!!!!』

幸せに。シアワセニ。

彼は最期まで私に優しく、私を責めなかった。

それが逆に苦しかった。

責めてくれたら、後腐れないのに。

そんな事を考えている私に腹が立って、私を抱きしめる母の手も悪魔としか思えなかった。

この国は、、、悪魔でできている。

みんなが私達を祝福する。

決められた男性。優しくて聡明な方。

彼とは違う。

太陽のような笑みは見られない。

『よかった。一時はどうなると思ったけど、お前がシアワセニなってくれてよかった。』

『ええ。そうね。お母様。私、シアワセよ。』

彼の最期の言葉に囚われて、今日も私は幸せ。

3/30/2024, 11:38:37 AM

【何気ないふり】

『んん、、、』

本日2度目の眠りからぼんやりと覚める。

半醒半睡のまま布団を畳み、トイレに行って手を洗って顔を洗う。

ダラダラと机に座り、ダラダラと白米を胃にかき込む。

『、、、9時か、』

休日の起床時間はいつも9時か8時頃。

休みの日くらいゆっくりしたいよね。

スローな私とは対照的にバタバタと忙しなく動くのはお母さんと姉の幸子。

『幸子ー。今日なんか予定あるの?』

私と幸子は1個下の年子だから"お姉ちゃん"などという距離の離れた言葉では呼ばない。

時間にルーズな幸子が珍しく着替えて私より早く起きている。

これは今日は何かあるな。

そう感じ尋ねた。

『はぁ?今日アンタの誕生日やろ。ケーキ買ってくるとよ。』

嗚呼そうだった。

すっかり忘れていた。

『そうやった。いってらー。タルトがいい。』

『んー。』

姉は準備のできたお母さんに急かされて慌ただしく家から出て行った。

午前10時。

『んー、、やることやったし、アニメでも見よっかな。』

朝の茶碗洗い、洗濯物を畳んで直し、周りをちょっと片付けるのが家にいる人の役目。

それを終わらせたら私は自由。

『やっほほい!』

ウキウキでソファに座り、テレビをポチッとつける。

あっという間に時間は過ぎた。

ーーー

ガチャ

『ただいま〜ケーキ買って来たよー』

午後1時。

恐らく昼ご飯を食べて来たのだろう、2人が帰って来た。

『ケーキ!ケーキ!』

私のテンションは爆上がりだった。

『あ、あと、お父さんも帰って来るから、先にデパートで待ってるね。6時ね。あそこの4階のキングでご飯食べよう。』

『ほいほい。』

『準備しといてね。1階の化粧品売り場のとこら辺うろちょろしとくけんね。』

口うるさく言って2人はまた出て行った。

『あー面倒いけど準備するか。』

ヨロヨロと立ち上がり、服を決めてバッグを肩から下げる。

『、、、行ってき〜』

誰もいない家に声を残して鍵を閉めた。

『早く行かないと怒られる。』

時刻は5時50分。

上着を着ながら道を走り、信号で止まる。

『あれ?なんかいつもより人多くない?』

帰宅ラッシュなんだろうなーとは思うけど、一点に人が集まるのはおかしくない?

興味を唆られて人混みの中に入って行った。

まだ人が多すぎてその中心は見えない。

っていうか、もうデパートすぐそこまで来てんのに人が止まってるから入れないじゃん。

『電話かけて遅れるって伝えるか。』

♪♪♪ ♪♪♪

電話をかけた。

でも、その着信音は人混みの中心から聞こえた。

血溜まりの中にお母さんのスマホがあった。

幸子がつけてたお気に入りのアニメのキーホルダーがあった。

私の誕生日は、私1人で迎えた。

"午後6時頃、買い物客で賑わうデパート前の交差点に大型トラックが突っ込みました。この事故で3人が死亡、10人が重軽傷を負いました。県警はトラック運転手を過失運転障害の容疑でーーーーーーーーー"

家に1人。

日がとっぷり暮れたのにも関わらず、電気すらつける気になれない。

ソファに身を沈めてテレビを見る。

『お腹、、、すいた。』

人間食欲には抗えないみたいで、料理もできないしカップ麺を何もなかったからコンビニへ向かう。

無心でおにぎりを買って、無心でコンビニから出る。

頭の中で渦巻くのは自分のこれからの事。

水道代、電気代、ガス代、払い方は?

わからない。

親戚に連絡して葬儀を、、

わからない。

お母さんとお父さんは保険に入ってたかな?

わからない。

学校の学費は?

ワカラナイ。

掃除も洗濯も自分で、、

ワカラナイ。

葬式の手続き、骨を焼いて、、

ワカラナイ。

ぷっつり。

頭の中で何かが切れて、それと同時に涙がドンドンと溢れ出て来た。

何気ない。

自分は何ともない、何気ないふりをしていたのに。

我慢しなきゃ。だって、これから1人だから。

でも、、、

何もわからない。

何もできない。

もう何もない。

『うっ、、ぁっ、、ひぐ、えぐっ、、、、』

道の真ん中で人の目も憚らずに大泣きした。

何気ないふりをしていた自分と、私を残して逝ってしまった家族に対して、ひたすら涙が止まらなかった。

3/28/2024, 10:41:20 AM

【見つめられると】

『視線病、、ですか?』

『ええ。ごく稀な10代の学生さんの間で発症する病です。』

珍しそうに診断票みたいなのを見るお医者さん。

中1の頃から、人からの視線が急に怖く感じた。

どうしてだろう。わからない。怖い。

とうとう僕は、見られることへのストレスと、どうして?という途方もない不安で倒れてしまった。

そんな時に診断されたこの病。

良かった。自分がおかしいんじゃないんだ。

『そうやって、何でも病名つけたがりますよね。自分はこれだからって安心したいだけじゃないの?』

お母さんの声が隣から聞こえてきた。

『お母さん、確かに目には見えない心の病気です。でも甘えっていうわけじゃ、、』

必死にフォローしてくれるお医者さんの声も遠くて、キーン、、と酷く耳鳴りがした。

信じてくれない母に対しての怒りと、底なしの絶望が僕を襲った。

どうして信じてくれないの?何故?

痛い、イタイ、、

ナースステーションを通った時も、信号で止まって渡っている高齢者と目が合った時も、家族で囲んで食事をしている時も、背中に壁がない限り視線を感じて痛かった。

ーー

キーコーンカーンコーン

遠くで学校のチャイムが鳴るのが聞こえる。

もう、かれこれ3週間。

僕は学校を休み続けてる。

ダメだ。そうはわかってる。

けど、、、どうしても背中に壁がないと不安で吐きそうになる。

教室の何処にいても休まらない。

いっその事壁になりたかった。

今日もお母さんは怒って会社に向かった。

病気なのはわかるけど学校には行けだって。

わかってねえじゃん。

お母さんなんて嫌だ。いなくなればいい。

こんなことを考えている僕も死ねばいいのに。

生まれてこなきゃよかった。

誰にも僕のこと見えなければいいのに。

布団の中は落ち着く。

誰にも見えない。

見つめられると息が詰まる。

僕はこの先、生きていけるんだろう?

誰かに見つめられるのが嫌だなんて、もう社会不適合者じゃないか。

僕は一生ニートだ、、、

『ああああああぁ、、、』

ーーーー

更に1週間後。

お母さんがリハビリにって、ゴザエモンの散歩に行ってって言われた。

早朝5時。

そのくらいの時間帯なら人も歩いてないだろう。

『じゃあ、ゴザエモン、行こうか。』

柴犬のゴザエモンは元気に吠えた。

リードを千切れそうなくらいに引っ張るゴザエモンを落ち着かせながら小走りでお散歩をする。

『わぁ、、』

走りながら海沿いから顔を出す朝日に目を眩ませながら口から白い息を出す。

『綺麗だね、ゴザエモン。』

ゴザエモンは走るのに夢中で気づいていないみたいだ。

そんなゴザエモンに久しぶりに笑い声が漏れた。

多分僕のこの病は、治りにくいだろう。

でも、いい加減に休憩は終わりにしよう。

保健室登校でも、相談室に行ってもいい。

『少し、、、頑張ろうかな。』

ゴザエモンの屈託のない顔を見てたらまた笑みが溢れた。

『偉いぞー。ゴザエモン。お前は1人救ったんだ。』

ゴザエモンは元気に吠えた。

3/24/2024, 10:42:33 AM

【ところにより雨】

『茉美ー?今日10時から遊ぶんでしょ?早くしなさい。』

『うん、、わかってるよ。』

今日は半年ぶりに中学の頃の友達と遊ぶ。

でも準備するまでがものすごく面倒くさい。

今日は8時くらいに起きて、ノロノロと服を着替える。

おまけに晴れだけど地味に寒い。

『はぁー、、ダル、、』

久しぶりに友達と遊ぶ約束を取り付けられて嬉しい。

けど、、、ものすごく面倒くさい。

どうしよう。

『あぁー、、行きたくなくなって来た、、』

敷いたままの布団の中に倒れ込み、枕に顔を埋める。

『行かんば、、楽しみだけど、、』

また私はノロノロの準備を始めた。

『行って来まーす。』

家さえ出たらもう楽しい気持ちは全開。

駅に行き、友達と話しながら隣町へ行く。

『でさ、〇〇君が〜』

最近、私の友達は好きな人がいるみたいで、その人の話をかなりの頻度でしてくる。

まぁ、、別に聞くのは嫌いじゃない。

けど、、なんかキツイ。

『あ〜そうなんだ。』

自分からは質問したりはしない。

だって話が長引くもん。

『それでね〜』

まだ話すのかよ、、

そう思いつつもちゃんと話を聞いてあげる。

『そういえば、茉美は最近彼氏とどうなん?』

あ、私の話になった。

これでもう好きな人の話にはならないかな、、

『ん〜この前ヤな事があったんだよね。』

『何?』

『ちょっと容姿の事で揶揄われてさ。悪気はないんだろうけど。』

『あ〜!それウチもある!実はこの前ね、、』

話を戻すんかい。

また聞き役に徹しないといけなくなった。

意外と相槌打つのも疲れんだよな。

っていうか、貴方の好きな人の話は別に私興味ないんですけど。

何で女子って話したがりなんだろ、、

あ〜空綺麗だなー

雲は何であんなに綺麗で神秘的なんだろ。

『〜でね?』

『あ、うん。』

また隣で話し出す友達。

ショッピングもほどほどにし、帰りの電車の中でも友達の好きな人の話は尽きなかった。

まぁ、半年ぶりやけん話したい事もいっぱいあるよね。

でもさ、、私もいっぱい話したい事あったんだよなぁ。

でも友達は憎めないよな。

車道側優先して歩いてくれるし、重い荷物は率先して持つよって言ってくれるし、、

だからメンヘラ製造機なんだよ。

だから私は貴方の事を嫌いになれない。

嫌いなところより好きなところがたくさんあるから。

『ふぅ、、もぅミスド行こう。話聞くけん。』

『うん。行こ行こ〜』

私の気分は晴れ。

ところにより雨。

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