駄作製造機

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【幸せに】

生まれた時から、私の運命は決まっていた。

何をするにも側使いが付き添って、危ない事は何でも禁止。

狩猟、散歩、乗馬、料理、男性との会話、etc

何でもかんでも禁止禁止ばっっかり。

だから飛び出した。

黒いローブを被って、相棒の蛇に囮になってもらって。

城から飛び出した。

初めて出歩く城下町はとても輝いて見えた。

煌めいていて、熱気が溢れていて。

いつも見る湿ったい陰気な城とは違って、町の人達の今日を生きる様が太陽のようだった。

目を輝かせながら見ていると、不意に誰かにぶつかってしまった。

『も、申し訳ございません。』

ぶつかったのは私と同じくらいの青年。

爽やかに笑い、彼は私に手を差し伸べた。

『僕もごめんね。怪我はない?』

いつの日かの子守唄を歌ってくれた乳母のような心地よい声。天使の囁き。

彼は優しく聡明で少し茶目っけがあって可愛かった。

相棒で5歳の頃から一緒にいるというフクロウちゃんともすぐに打ち解けて、しばらくは城のことや家柄格差を忘れていた。

『そういえば、君かなり高いものを身につけているね。何処かの貴族か何かなの?』

彼からの質問を受けた時、今まで忘れていたいろんな事を思い出した。

"王女らしく振る舞いなさい。"

"王女は大声で笑いません。"

"王女はそんなことしません。"

"それがこの国の幸せなのです。"

母親からかけられた暗示ともとれる言葉の数々に吐き気がして、同時に何事にも囚われずに生きている彼を羨ましく、妬ましいとも思った。

『ええ。この国の第一王女よ。城にいたら母がうるさいから抜け出して来たの。』

彼は驚く様子もなく、かといって態度が変わるわけでもなかった。

それが妙に心地よくて、ずっと此処にいたいと思った。

『そろそろ帰るわ。お母様が猛獣になっちゃうから。』

彼と2人で笑い合い、城の前まで送ってもらった。

『また、会えるといいね。』

彼は夕日によく映える笑顔で見送った。

ーーーー

『コイツです!この者が王女様を誑かし誘拐しまし
た。』

ジャラジャラと重い鎖を鳴らしながらボロボロになって歩く彼を見たのは、それから2日後の昼頃だった。

私は駆け寄ろうと手を伸ばしたけれど、届かなかった。

母からは酷い叱責と哀れな顔を向けられた。

『可哀想に、、私の可愛い娘はあんな輩に誑かされて、、』

違う。

『王女様は清らかなお方だから、騙されたとお気づきになられていないのです。』

違う。

『何とお可哀想。』

違う!!

違う。何もかもが間違い。

なのに、、どうして誰も信じてくれないの?

『これより!王女様誘拐の首謀者を打首の刑に処す!』

ワアアアアア!!

湧き上がる熱気が、頭にガンガンと響いた。

苦しい。どうして、彼は違う。

私の言い分は聞き入れず、彼の首に剣がかけられる。

『ミューナ!!』

私の名前が呼ばれた。

反射で顔を上げると、優しく微笑んだ彼と目が合った。

『幸せに。』

ザンッッ

彼の首はコロコロと転がって、汚い地面に頬ずりをした。

『ぅっ、ぁ、、ああああああああああああ!!!!!』

幸せに。シアワセニ。

彼は最期まで私に優しく、私を責めなかった。

それが逆に苦しかった。

責めてくれたら、後腐れないのに。

そんな事を考えている私に腹が立って、私を抱きしめる母の手も悪魔としか思えなかった。

この国は、、、悪魔でできている。

みんなが私達を祝福する。

決められた男性。優しくて聡明な方。

彼とは違う。

太陽のような笑みは見られない。

『よかった。一時はどうなると思ったけど、お前がシアワセニなってくれてよかった。』

『ええ。そうね。お母様。私、シアワセよ。』

彼の最期の言葉に囚われて、今日も私は幸せ。

3/31/2024, 10:40:07 AM