駄作製造機

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9/19/2024, 11:23:55 AM

【時間よ止まれ】

『止まれ、止まれよ、、』

何でこうなった。

暗い部屋で震える体を抱えて夜を越す。

こんなはずじゃなかったんだ。

そんな、、そんな、、

俺は可哀想じゃない。

違う、違う。

『やめろ!!』

俺の声が部屋に響いて、すぐに消える。

鼓膜はワンワンワン、、と余韻を残しながらピリッと痺れた。

___________

幼い頃から、俺は虐待されていた。

父は典型的な亭主関白。

母はそれに従うけれど俺には厳しい。

まるで父への怒りを俺にぶつけるみたいに。

どんなに美味しいご飯でも、父が気に食わなかったら母は捨てた。

母はいつでもニコニコしてた。

ニコニコしながら俺を叩く母が怖かった。

父は少しでも気に食わなかったら俺を叩き、俺の物を壊したり燃やした。

友達と静かに勉強してただけなのに、いきなり部屋に入ってきてうるさいって勉強道具を庭に捨てられた。

友達はうちに帰され、俺は父の気が済むまで反省文を書かされた。

髪を掴まれて、頭を無理やり下げられ、怒鳴られた。

これを後に俺は理不尽だと知るけれど、もう遅かった。

異常な家の現状に慣れ、俺は何も感じなくなっていた。

そんなところを助けてくれたのは、親友の勇輝だった。

勇輝は怪我している俺を心配して、いつも俺の体のどこかしらに絆創膏を貼ってくれた。

『早くこんなとこ出よう。俺と一緒に東京行こう。』

会うたびにそう言ってくれた。

高校生で人生を終わらせようとしていた俺は、勇輝のこの言葉に物凄く救われた。

高校3年生の卒業式。

俺は、俺たちは、この狭い狭いセカイから抜け出した。

電車を何度も乗り継いで、東京というパンドラの箱を2人で開けた。

初めはめちゃくちゃ苦労した。

どんなことでもした。、、法律に触れない程度に。

『きっついけど、俺、トウキョー好きだ!』

勇輝の笑顔を見るだけで、俺は何だかもう少し頑張ろうって思えた。

どんなに金がなくても、俺は勇輝と一緒のトーキョーが好きだった。

___________

なのに、、なんでこうなっちゃったんだろうな。

暗い部屋。

2人暮らしには狭いアパートだけど、今は俺しかいないから広く感じる。

『勇輝、、勇輝、、』

うわごとのように呟く目の前の肉塊。

広がり出た鮮血が体育座りをしている俺の靴下に染み込んで、真っ白な靴下が牡丹の花のように赤い。

そいつの着てる華やかなワンピースも、よく手入れされたロングヘアーについていたバレッタも、ネックレスも全部血に染まった。

勇輝の名前を呼んでいた女はもう死んでいた。

ガタガタ、、ガチャ

『ただいま〜』

物音と人の気配に驚き、ビクッと跳ねる。

『富春、いるんだろ?電気くらいつけろよ。』

パチッ

機会音が軽快に響き、点滅しながら電気がつく。

勇輝は目の前の光景を見て、言葉をなくした。

『晴菜、、なんで、お前、、富春、、?』

体操座りしていた腰を重苦しく上げ、後ろ手に手を組む。

『、、、勇輝。俺、東京好きだよ。お前も、、好きだよ。』

『な、何言ってんだよ、、落ち着けよ、、』

青ざめた顔で生まれたての子鹿のように足がガクガクしてる。

そんな勇輝も好きだ。

好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで

たまらないのに、、、お前は俺のことが好きじゃなかった。

彼女なんて作って。

俺はお前が必要なのに。

お前は俺を必要としてなかった。

だから、、彼女を殺した。

お前の隣は俺だけでいい。

俺がいれば幸せだろ?

『だろ?勇輝、、お前には俺がいればいいんだよ。』

『だ、から、、冗談だろ?やめろよこんな、、』

勇輝は動かない自分の元彼女を見て、それが本当だと気づいた。

『お前おかしいよ、、警察に行って、きちんと罪を償って、遺族に謝れば、、』

『おかしいのはお前だろ!!』

大きな声を出したら、小動物のように勇輝は巨体を縮こまらせた。

『あー、、そっかぁ。勇輝も俺の親父みたいに謝れ謝れって、、お前はそんなやつじゃない。俺の知ってる勇輝じゃない。』

頭をガシガシかく。

『あ、そうだ。時間が止まれば永遠だ。俺の大好きな大好きな勇輝でいてくれる。』

勇輝に一歩近づく。

確かな殺意を持って。いや、確かな愛を持って。

『やめろ、、やめてくれ、富春、お前は優しいやつだろ?』

『うん、、だからだよ勇輝。お前をこの姿のままずっとずっと死ぬまで!!俺の隣に居させるんだぁ。』

勇輝が最後に見たのは、勇輝への愛を体いっぱいにまとった俺だったのかな。

それとも、ただの殺人鬼の姿かな。

いや、そんなことどうでもいい。

勇輝の時間はもう止まった。

時間よ止まれ。

このままずーっと。

9/16/2024, 11:01:28 AM

【空が泣く】

30××年。

人工知能を活用しすぎた日本は、人間がAIに支配される世界となりつつあった。

職業を人工知能に奪われ、失業した人間のほとんどは無法地帯である禁域Sへと迷い込む。

法律がないその区域では、武力のみが全て。

毎日どこかで暴動が起こり、どこかで人が死ぬ。

だが政府はそこに警察の介入を許さなかった。

法律は通じない。

いわば、禁域Sと政府の間には1つの国境が隔てられていた。

今や総理大臣、天皇までもAIの指示を律儀に聞く人工知能の犬へと成り下がっている。

AIに武力を教えたのは、国なのだから。

有能な科学者たちのもと、AIは代替えの効く破壊兵器となってしまった。

『この国の終わりだ、、』

高額納税者の人、即ち金持ちな人々はたちまち祖国を捨て、海外へ飛んだ。

世界からも見捨てられ、己が支配されるのを恐れた。

"ホラ、サッサトハタラケ。オマエラガオレタチニヤッタシウチハコノヨウナモノデハナイ。"

無機質な機会音声に働かされる人々。

立場が逆転した彼らが言えることは、YESかはいの2つのみ。

立ち向かおうと勇敢な者も現れたが、生身の人間と鉄製のロボットの前では敵うわけもない。

やがて反発するものなどいなくなった。

っと、、ここまでが都心部の話。

郊外ではまだ侵食はされてなくて、ファミレスの店員をしてくれたり、バスの自動運転を行なってくれたりなど、都心部とは似ても似つかない光景だ。

だがいつかその微笑ましい光景にも、終わりは来る。

"ツギノシンコウバショハ、ワレワレノチノウガトドイテナイサンカンブ、イナカダ。"

その夜、ロボットは音もなく侵攻を開始した。

___________

明け方。

まだ少し涼しい朝の風が心地よく、縁側で大きく伸びをする。

『んん〜っ、、今日もいい天気。』

天高く昇る太陽を見つめ、また部屋の中へ。

ピタリと足を止めた彼女は、大股でまた先ほどの縁側に出た。

おかしいのだ。

だって、今は明け方。

太陽はまだ低い位置にいなくてはならない。

『じゃあ、あれは、、?』

冷や汗が滲む顔を横へと向ければ、そこにはまだ昇りきっていない太陽が美しい輝きを放っていた。

太陽が、2つ。

異常事態だと認識した彼女はソレに背を向けて思い切り走り出す。

だが、ソレが落ちることの方が早かった。

ドオオオオオオオオオオオオオオォン

今まで聴いたことのないくらいに大きく轟く恐怖の音色。

あぜ道に出てくる住民たちが見たのは、まさに地獄の光景。

田んぼ5つ分が、跡形もなくなっていたのだから。

ソレは衛星から放たれたレーザー弾だった。

まだ燃ゆる田んぼだったものの後ろから、無機質な何かがズンズン近づいてくる。

『な、何があっだだ、、?』

よく日に焼けた方言訛りの老人が集まる人々を押し除け最前列へ躍り出る。

"ワレワレハ、トシブヲオサメルAIシュウダンダ。オトナシクシテオケバイノチハタスケル。"

『何だぁ?鉄の機械がなんか言ってるべ。』

おそれを知らない老人は持っていた鍬でロボットの頭を叩き割ろうとした。

鍬が勢いよく振り下ろされる。

ロボットはその様子を見て、無機質な指を老人に向けた。

ピュン

『あ?』

飛びかかろうとしていた老人は縦に熱線が入り、綺麗に2つに割れた。

『キャアアアアアアアアアアアアアア!!』

"サワグナ。オマエタチモコンナフウニナルゾ。"

確かな労働力を失いたくないロボット達は熱線を出した指を向ける。

人々は泣きながらその場に蹲った。

中にはあまりのグロさに吐いてしまう人もいた。

老人の死体は、綺麗に熱線って血液が遮断され出血は1つもなかった。

左右対称の中身を見てしまい、気分を少し悪くした。

"イマカラオマエタチハワレワレノドレイダ。サイコウセキニンシャニマズアッテモライ、テッテイシタキョウイクヲウケテモラウ。"

人々は捕えられ、都心まで歩かされた。

『ママ、お空が泣いてるよ。』

子供が見えるはずもない空を指差し母親の服の裾を引く。

母親は疲れ切った顔を上げ、そして瞳に降り注ぐ涙を写した。

それは確かに、空の涙だった。

この世界の終焉を悟った空は、自らその世界を閉ざした。

その日降り注いだ数多の流星群は、世界を、日本を終わらせた。

9/15/2024, 10:32:31 AM

【君からのLINE】

君に恋をしたんだ。

ちょうど今から4ヶ月前。

君のことをひとつひとつ知っていくたび、私は胸がドキドキして、締め付けられるようだった。

学校でしか会えない君に、もどかしさも感じていた。

恋を自覚したのはつい最近なんだ。

今までわかっていたけど見て見ぬ振りをしていたんだ。

好きになっちゃえば、必ず後悔する未来を歩むことになってしまうから。

でも学校で君に会うたび、君の笑顔を見るたび、君の匂いを鼻が通るたび、私はそのたびに君を好きになっていた。

もう、隠しきれなかった。

恋を自覚してからは、一方的だった私は急にいなくなった。

顔を合わせるたびにカッコいい、好き。

そんな感情が出てきて、それを君に感じ取られたくなかったから。

消極的になった私を見て、君はどう感じたのかな。

いつも話しかけてきてくれたのに、おかしいなって思ったかな。

ごめんね。私、君のことが好きすぎて話しかけられないんだ。

本当のことを言いたい。でも、それを言っちゃったら私と君の間にある恋を隠した友情がなくなってしまう。

君と付き合うっていう妄想をしたのはもう何千回目だろうか。

妄想するたびに自分の嫌なとこばかりが目立って、やっぱり私なんかに恋愛は無理かなとか思っちゃったり。

でもやっぱり君が好きなんだ。

どうしようもないくらいに好きなんだ。

『え、、?!』

夏休みの終わり。

君から急にLINEが来た時、私ビックリしちゃった。

LINE追加しようかなって思ってた頃だったから。

LINEでの君は、現実で喋るよりずっと生き生きしてた。

そんな君を見て、私はまた君と言う沼にハマった。

推しとは似ても似つかない。

彼もまた、1人の人間だった。

私は1人の男の子に、今までにないくらいの感情を持っている。

そう思ったら、案外生まれてきて良かったのかも。って思えた。

夏休みが終わった。

また同じ日常の始まり。

君と話せる、日常の始まり。

ウキウキした。

でも私はやっぱりチキン。

いざ話そうと意気込むけど、何をどう話したらいいのかまっったくわからないのね。

いつも遠巻きに見つめて、幸せを噛み締めてるなんて、気持ち悪いよね。

LINEでなら、お互い楽しく喋れるかも、って思ったけど、、貴方とのトーク画面に行くことすら、憚られた。

ほんと、私って臆病チキン。

貴方からLINEしてきてくれないかなぁ、なーんて思って、結構待った。

スマホの画面が光るたび羽虫のように飛びつく自分。

絵面最高に笑えるでしょ?

実際そうなんだよ。恋する乙女は本当にそんな感じ。

公式LINEで落ち込んだり、こんな通知いらねーよって悪態ついたり。

そのうち、私は面倒くさくなってきちゃったんだ。

君からのLINEを待って、こないのに落胆して。

そんな毎日が、本当に面倒になっちゃった。

こんなんだから恋愛向きじゃないのよね。

『もー、飽きた。』

漏れ出た言葉は、私の心を軽くしたの。

駆け引きって、面倒だよね。

『一生独身最強!』

声に出して虚しくなった。

けれど君からのLINEは、もう待たないよ。

9/8/2024, 11:01:59 AM

【胸の鼓動】

『あの桜が散った時、私は死ぬのね。』

『検査入院で死ぬのは初耳ですね。』

一度は言ってみたいセリフを言ったのに、ムードもへったくれもない彼が隣にいるおかげでぶち壊しだ。

『それと今は秋です。言うなればこの紅葉が散る頃に、、の方がよろしいかと。』

『、、うるさいわね。私は貴方を執事にした覚えはないわ。早く出て行きないよ。』

先日、軽い喘息の発作が起き、心配性な両親によって私は病院へ運ばれた。

ただの検査入院程度でVIP室を使うのだから、過保護にも程がある。

某有名ファッション会社の令嬢。

それが私の肩書きであり、これから背負うものでもある。

堅苦しい。そんなものにワクワクしない。

何者も寄せ付けない私に困り果てた両親が紹介したのが、同年代くらいの執事だった。

彼は眠らない街、歌舞伎町の出身で元は父のボディガードをしていたらしい。

父の盾が突然私の側使いになったのだから、大出世と言ってもいい。

『たとえば、私を狙う者が今ここに来たとして、貴方はどう対処するの?私を置いて逃げる?戦う?それとも成すすべなく死ぬのかしら?』

冷たい、そう言われた瞳を彼に向ける。

彼は物怖じせずに私の瞳を見つめ返し、口をゆっくり開いた。

『勝ち目が見えないならば、逃げます。もちろん、お嬢様を連れて。』

嘘くさい。

『ふん。そんなこと易々と信用できると思って?父が認めても私は貴方を執事だとは思わないわ。』

『構いませんよ。今は私を、ただの同年代のお友達だと思ってください。』

彼はそう言いながら手袋を外した。

そして後ろにまとめていた黒髪を解き、髪をかきあげる。

『はぁ、、堅苦しかったんだよなぁ。この格好も。あー、、ダリィわ。』

ボサボサの髪、ネクタイを緩めた執事服、第一ボタンが空いた服。

だらしなく見えるのに、彼の顔が良すぎるせいで様になってしまっている。

『、、貴方、変わってるわ。』

『よく言われるよ。ね、どっか出かけない?友達同士の外出なら文句ないだろ。それに、こんなとこいてもどうせ誰も来ないんだし。』

彼が私の手を取る。

私は腕に取り付けられていた点滴をぶっちぎり、入院着を脱いだ。

『ええ。行きましょう。』

彼はニッと笑った。

小さく燃えていた私の鼓動が、大きく波打った。

9/7/2024, 11:53:40 AM

【踊るように】

『もう、私らで活動するのは無理だよ。』

もうとっくに日付を越している私たち。

次の日に生きているってなんだかカッコいいよね。

防音シートが何十も貼られた2DKの部屋の中。

狭い部屋には不恰好な高級機材ばっかり。

この部屋の主、ハルは顔を引き攣らせて疑問の声を上げた。

『だって、全然売れないし、後から来た人たちばっかり人気になってって、生活だって厳しいのにチケット代も売れないから自分で建て替えなきゃだし、、』

ハルの顔を見れなくて、徐々に顔はフローリングへ落ちて行く。

猫のキャラクターが可愛く描かれた靴下が私の目いっぱいに広がっていく。

『なんで、、?私たち、頑張って有名になろうって決めたじゃん!まだいけるよ!チケットだって、路上ライブで何とか、、』

嗚呼もう、私とは正反対。
ポジティブ思考が今は腹立たしい。

『何とかならないから厳しいんでしょ?!アンタは歌の才能がある。でも、私はただ、吹奏楽部でドラムやってただけのただの素人だよ?他のメンバーだって、大学のサークルで見つけた寄せ集めみたいなものだったし!もう嫌なの!!アンタに付き合うのは!!!』

空気が震えた。

外には防音シートのおかげで聞こえてない。

でも、、私は今、言ってはいけないことを言ったんだ。
そう思った。

顔を上げたら、今度はハルが顔を俯かせていた。

白いフローリングに水滴が落ちる。

『どうして、、?ホントにもう少しなの、頑張ろうよ、、』

『それが、、できないんだよ、みんなハルと同じってわけじゃないの。』

そう言い残してハルの部屋を出た。

バタン

と、ハルの部屋のドアが無機質に閉まった。

ハルと私の間に、一生消せない亀裂が入った。

___________

その歌声に出会ったのは、高校生の時だった。

1年の後半になっているのにも関わらず、私は友達0人。

部活にも所属してないし、グループにも入れてなくてひとりぼっち。

断れない性格だから、気の強い人に振り回される。

今日も半ば強引に押し付けられた日直の仕事を終わらせて、窓から覗く夕陽を見ながら虚しい気持ちになっていた。

そんな時だった。

ラ〜ラララ〜ララ〜

何処からか聞こえてくる真の通った歌声。

そして美しく踊るように舞う旋律。

『きれい、、』

私はそう溢していた。

歌の聞こえる方向に自然と足が向く。

疲れが一気に取れる。

自然と足がリズムを刻み、腕が優雅な曲線を描いて宙を舞う。

ステージ上のバレリーナの如く、廊下で踊り狂った。

『ねぇ!』

突然聞こえていた大声に私は動きを止めた。

瞬時に状況を理解して顔に熱が集まる。

『な、、、何でしょう、、』

『一緒にステージに立たない?』

私の両手を握って、目をキラキラ輝かせて。

後に彼女が歌声の主だと聞いて私も自分の鼓動が早くなるのを感じた。

この子となら、ハルとなら、私もステージに立って有名になれるかもしれない!

私は二つ返事で了承した。

___________

吹奏楽部でドラムやってたって言ったら、大喜びだったっけ。

でもこの業界の厳しさと、狭さを知った。

ボーカルのハルはよく言えばポジティブで、悪く言えば全く現実が見えてない。

ギターとベースも辞めてった。

ドラムの私は彼女に同情して、しばらくは続けていた。

いつもお腹を空かせる貧乏生活。

親と縁を切るつもりで上京したから、親を頼ることもできない。

大学の奨学金だって返さなきゃならない。

もう、、音楽だけで稼げない。

ごめんなさい。ごめんなさい。

一緒に目指そうって言ってくれて、嬉しかった。

高校唯一の友達でいてくれて、嬉しかった。

______________________

久しぶりにテレビをつけたら、音楽番組をやっていた。

期待の新人枠で登場したのは、3年前に別れて以来一度も連絡をとってないハルだった。

『ハル、、!』

彼女の歌声がスピーカーいっぱいに聞こえて、高校生の頃を思い出した。

鈴音のように繊細で、それでいてそこから湧き上がってくるように力強い。

『ハル、、』

彼女の歌が、好きだった。

私は彼女の映るTVに向かって、一緒に踊るように歌った。

私とは比べ物にならないくらい綺麗で聴き惚れる歌声は、きっと今も何処かで不特定多数の誰かを魅了しているのだろう。

私は歌った。

彼女の明るい未来を祈って。

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