駄作製造機

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11/11/2024, 10:56:07 AM

【スーパーヒーロー】

ある日朝起きたら、"あー、今日学校に行きたくない"って思った。

本当に、突然のことだった。

今まで普通に学校行って、勉強もなぁなぁで、授業中はたびたび居眠りして、部活して。

他の人たちに比べたら、全然頑張ってない日常。

なのに。

僕は今日学校を休んだ。

1日休んだら次の日、そのまた次の日。

どんどん伸びていく僕の連休。

いつも畳んで整頓していた布団も、ここ1週間は敷きっぱなし。

起床時間は陽の光を浴びてない影響でみんな仕事や学校に行った後になり、ほとんど動かずじっとしているから就寝時間は余裕で日を越した。

暗闇の中に浮かび上がる液晶の光。

僕は夜が好きになった。

誰にも邪魔されない1人の時間。

みんなの寝息や寝返りを打つ音が静かな家の中では大きなBGMになる。

今起きているのは僕だけ。

世界が静かになったみたいで、昼より断然落ち着く。

夜が本当に大好きだ。

朝ぼんやりと目を覚ますと、みんな起きててバタバタしてる。

寝ぼけているけど、耳は鮮明になっている。

『今日も悠人休みなの?』

『しょうがないじゃない。もう言わないで。ただでさえストレスいっぱいなんだから。』

『いいなぁ、、』

『1日何もせず家でゴロゴロして、、ブタになるよ?』

『あ、もうなってるか。』

『私の育て方が悪いの?!』

聞きたくなくて耳を塞いだ。

毛布にくるまった。次第に体が震えた。

学校休むのって、大罪なんだ。悪いことなんだ。

風邪とか病気じゃない限り、休めない。

『だめ、、休んじゃダメ、、』

頭の中で永遠に反芻するダメという言葉。

じゃあ、もう、、

『死ぬしかない。』

休み始めて2週間。

僕の目に初めて宿ったやる気だった。

みんな家から出て行った。

1番手頃な死に方は飛び降りか首吊りらしい。

僕は飛び降りるために空きビルを検索した。

目深までフードを被った僕はただ死だけを目標に家から出た。

鍵なんてかけてない。

かけても意味ない。

『どうせ、終わりなんだ。』

僕に残された道はこれしかない。

これ以外にない。

今日で死ねなかったら明日も明後日もこの先もずっと光のない日々だ。

日の本には出られない日々だ。

『はぁっ、はぁっ、、』

着いた。空きビルは当然の如く人っ子1人おらず、錆びた外階段が放置年数を物語っていた。

カン、カンと鉄製の階段を登るたびに足音が響く。

いよいよだ。僕は死ぬんだ。死ぬしかないんだ。

『はっ、はっ、はっ、はっ、はっ』

呼吸がみるみる浅くなる。

死にたくない。それはかき消されて、頭の中には死ななきゃいけない。という気持ちが洪水のように流れる。

空きビルから見下ろした街並みから、昔のことが走馬灯のように流れてきた。

"僕は街の平和を守るスーパーヒーローだ!"

"誰かを守るヒーローになりたい!!"

"ヒーローはカッコいいんだ!空をヒューンって飛んで、ドカーンって!"

今思えば、ヒーローになりたいだなんていかにも幼稚園児らしい子供じみた夢だと思う。

でも、あの頃の方が僕は幸せだった。

『飛べるかな。』

そうだ。スーパーヒーローになって空を飛ぼう。

足を一歩、踏み出した。

飛んでる。

空中でスーパーマンが飛ぶように右拳を突き出す。

飛びたかった。











ぐしゃ

9/30/2024, 10:54:50 AM

【きっと明日も】

きっと明日も、同じ1日の始まりなのだ。

そう思った途端、私は突然死にたくなった。

時は18世紀。

帝国主義による植民地支配が強く出始めたこの時、ある小さな1つの国の民が、自殺を企てていた。

『おら!さっさと働かんか!』

『強者に逆らうな弱者が!!お前らは俺たちの手足なんだよ。さっさと従え!』

バシン!

鞭で打たれ、およそ服とは言えぬボロを着て男も女も子供も関係なく荷物を運ばされているのは、列強により支配されてしまったある小さな国の民だった。

『怖いよぉ!お母さん、、』

『大丈夫よ。大丈夫。従っていれば悪いようにはされないからね。』

幼い子供も頬に泥をつけて荷物を運ぶ。

襲われた国側からしたら地獄のような光景だが、今は1人1人が殺されないように波風立たぬよう振る舞うのでやっとであった。

『俺たち、このまま死ぬまで馬車馬のように働かされるのかなぁ。』

『そんなこと言うなよ。口に出したら、、終わりだろ。』

国の民たちの目には、光が灯っていなかった。

もう何もかもを諦めたような顔。

いや、諦めた顔であった。

『、、、』

荷物を運ぶ大勢の民たちの中に紛れて、静かな憤怒を燃やす者もいた。

___________

私の国は今、支配されている。

相手はあの独裁支配で有名な強国。

私の父は早々に降伏し、幽閉された。

きっと近いうちに処刑されるだろう。

国に2人も王はいらないから。

母は幼い頃に病気で亡くしており、私の父は私を逞しく育て上げてくれた。

それが、この小さな国の中だけであったとしても、私は強く育ったことを誇りに思う。

自然がいっぱいのこの国は、今や黒煙が舞う地獄と化した。

森の動物たちは逃げ、不気味に静まり返った静寂だけ。

『明日も同じ労働をしてもらう!もちろん、お前らの働きはただのボランティアだと思え。』

明日も同じ。

『同じ、、』

泥と砂利で傷つけられた自分の手を見つめる。

爪の間に入った石が指を圧迫している。

白いワンピースだったのに、今は初めから黄土色だったかのように泥で汚らしい。

明日はこれよりもっと汚れて、もっと鞭で打たれて、もっと国が堕ちる様をこの目に焼き付けられる。

『同じなら、、死んだ方がいい。』

今までずっと思っていたその一言が、ぬるりと自分の口から出てきた。

そうだね。もう早くお母さんのとこに行ってもいいのかも。

家臣も、騎士も殺された。

この国に未来はない。

私の決断は固まってしまった。

その日、つけていたペンダントを投げ捨てた。

父に謝りながら。

次の日、1人の小国の民が消えた。

だがそれに気づく者はいなかった。

ただ1人1人が、その日を生きるのに必死になっていたからだ。

彼らはまた、明日も同じ労働を続けるのだ。

きっと明日も。その次も。

9/22/2024, 11:15:38 AM

【声が聞こえる】

⚠️戦争表現有り






ウゥ〜ウゥ〜

地面の底から押し上げるような大きな大きな音。

ごおごおと鳴る空のエンジン。

空から降るたくさんの鉄の雨。

防空壕にいても聞こえるこの音に、僕の心臓は前よりギュッと縮む。

『っ、、はぁ、はぁ、、』

みんなの息遣いも今の僕には大きく聞こえる。

『コウタ、大丈夫?』

僕の手をギュッと握ってるお姉ちゃんの手も、雪の中で1時間遊んだ後のように冷たくなってた。

『だ、大丈夫、、お母さんとお父さん、大丈夫かな、、』

まだ日が昇ってたお昼時。

お父さんとお母さんが仕事に行っている時に空襲警報が鳴ってしまった。

『コウタ、早くこっち!』

僕と一緒に家にいたお姉ちゃんに連れられて、陽の光も一切届かない暗い穴の中に入った。

しばらくして、地面が小刻みに揺れ始めた。

カタカタって、馬車が僕の顔スレスレを通ったみたいに。

それから穴の中にいても聞こえる大きな音。

巨人がたくさん来て、僕たちの住んでる場所で足踏みしてるみたいに。

毎日すいとんかさつまいものツルくらいしか食べれてない僕のお腹はペコペコだったけれど、僕の大きなお腹の音は、それよりも大きな巨人の足踏みでかき消された。

やがて音が止んで、入り口付近にいた大人の人達がそろっと外を見た。

途端に、今まで真っ暗な場所にいたから、あまりの明るさに目が眩んで思わずカエルが轢かれたような声が出た。

『コウタ、出るよ。』

チカチカする目を閉じたまま、お姉ちゃんに引かれるまま外に出る。

目のチカチカがやんだ僕は、ゆっくりと目を開いた。

囲炉裏の中のようだった。

僕らの住んでた場所は、くべた薪が炭になって火がちろちろと燃えているようだった。

『お姉ちゃんっ、僕たちの家は?!』

お姉ちゃんはジッと目の前を見つめていた。

僕もそれに倣って前を見た。

家が、バラバラになってた。

バラバラ?ボロボロの方がいいのかも。

残っていたのは僅かな縁の下のみ。

『ど、どうすればいいの、、?』

お姉ちゃんは両手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。

『お姉ちゃん、家どこ?』

ここって、僕の家だったっけ。

___________

その後、僕らは都心から離れた田舎に移った。

お母さんとお父さんは無事だった。

でも家がなくなっちゃった。

新しい土地で借りられる家なんてなくて、ほったて小屋みたいなところが僕らの家になった。

『じゃあ、行ってくるけ、ちゃんと良い子にするんよ。』

お母さんは毎日そう言って出かけた。

お姉ちゃんは僕と一緒にお留守番。

時々どこかに出かけて行くけど、何をしてるのかはわかんない。

『コウタ、いつでもあの穴に隠れんぼ出来るように、これ被るんよ。』

お姉ちゃんはお母さんが出て行った後、僕に頭巾を被せた。

お姉ちゃんの手は、ちょっと冷たかった。

それからちょっとだけすぎた。

この生活にも慣れて、僕はお姉ちゃんに言われなくても頭巾を被れるようになった。

『コウタ、偉いね。』

そんな僕をお姉ちゃんは優しく撫でてくれた。

お昼になった。

『今日のお昼、甘いお芋にしよっか!』

お姉ちゃんの提案で、まだ早い時間からお芋を焼くことになった。

『やった〜!』

僕は庭で走り回った。

ゴゴゴゴォ

僕とお姉ちゃんは揃って空を見上げた。

空には黒いカラスが真っ直ぐに飛んでいた。

『コウタ、、早くあっちに隠れんぼして!』

お姉ちゃんが今までにない力で僕を押した。

僕は倒れかけながらもお姉ちゃんに言われた通りに穴の中に入って奥に逃げた。

ずっとずっと逃げた。

ぴか

広くて深い穴の中が、一瞬明るくなった。

僕は体を思い切り丸めて、頭巾を力いっぱい握った。

どん

思い切り穴の奥に飛ばされて、体を土壁に打ちつけた。

『ゔっ!!』

またカエルみたいな声が出て、あまりの痛みに声がしばらく出なかった。

収まった、、?

そう思ってそろりと穴から出た。

そこはもう、僕の知ってる場所じゃなかった。

辺りは何もなくした机の上みたいにまっさらで、空は白い煙に覆われていた。

『お姉、、ちゃん』

まっさらな机の上を僕は一歩一歩歩いた。

周りは全部同じ。

肌が焼けてドロドロになった人、家に押しつぶされて足が変な方向に曲がっちゃってる人。

おんなじ光景がずっと続いた。

そしてみんなみんな同じことを言った。

『助けて、、助けて、、』

『熱いよ、、熱いよ、、、』

『いたい、、いたい』

耳を塞ぎたくなった。

声が僕の耳元で聞こえる。

ずっとずっと聞こえる。

80を過ぎた今も、ずっと聞こえてる。

9/19/2024, 11:23:55 AM

【時間よ止まれ】

『止まれ、止まれよ、、』

何でこうなった。

暗い部屋で震える体を抱えて夜を越す。

こんなはずじゃなかったんだ。

そんな、、そんな、、

俺は可哀想じゃない。

違う、違う。

『やめろ!!』

俺の声が部屋に響いて、すぐに消える。

鼓膜はワンワンワン、、と余韻を残しながらピリッと痺れた。

___________

幼い頃から、俺は虐待されていた。

父は典型的な亭主関白。

母はそれに従うけれど俺には厳しい。

まるで父への怒りを俺にぶつけるみたいに。

どんなに美味しいご飯でも、父が気に食わなかったら母は捨てた。

母はいつでもニコニコしてた。

ニコニコしながら俺を叩く母が怖かった。

父は少しでも気に食わなかったら俺を叩き、俺の物を壊したり燃やした。

友達と静かに勉強してただけなのに、いきなり部屋に入ってきてうるさいって勉強道具を庭に捨てられた。

友達はうちに帰され、俺は父の気が済むまで反省文を書かされた。

髪を掴まれて、頭を無理やり下げられ、怒鳴られた。

これを後に俺は理不尽だと知るけれど、もう遅かった。

異常な家の現状に慣れ、俺は何も感じなくなっていた。

そんなところを助けてくれたのは、親友の勇輝だった。

勇輝は怪我している俺を心配して、いつも俺の体のどこかしらに絆創膏を貼ってくれた。

『早くこんなとこ出よう。俺と一緒に東京行こう。』

会うたびにそう言ってくれた。

高校生で人生を終わらせようとしていた俺は、勇輝のこの言葉に物凄く救われた。

高校3年生の卒業式。

俺は、俺たちは、この狭い狭いセカイから抜け出した。

電車を何度も乗り継いで、東京というパンドラの箱を2人で開けた。

初めはめちゃくちゃ苦労した。

どんなことでもした。、、法律に触れない程度に。

『きっついけど、俺、トウキョー好きだ!』

勇輝の笑顔を見るだけで、俺は何だかもう少し頑張ろうって思えた。

どんなに金がなくても、俺は勇輝と一緒のトーキョーが好きだった。

___________

なのに、、なんでこうなっちゃったんだろうな。

暗い部屋。

2人暮らしには狭いアパートだけど、今は俺しかいないから広く感じる。

『勇輝、、勇輝、、』

うわごとのように呟く目の前の肉塊。

広がり出た鮮血が体育座りをしている俺の靴下に染み込んで、真っ白な靴下が牡丹の花のように赤い。

そいつの着てる華やかなワンピースも、よく手入れされたロングヘアーについていたバレッタも、ネックレスも全部血に染まった。

勇輝の名前を呼んでいた女はもう死んでいた。

ガタガタ、、ガチャ

『ただいま〜』

物音と人の気配に驚き、ビクッと跳ねる。

『富春、いるんだろ?電気くらいつけろよ。』

パチッ

機会音が軽快に響き、点滅しながら電気がつく。

勇輝は目の前の光景を見て、言葉をなくした。

『晴菜、、なんで、お前、、富春、、?』

体操座りしていた腰を重苦しく上げ、後ろ手に手を組む。

『、、、勇輝。俺、東京好きだよ。お前も、、好きだよ。』

『な、何言ってんだよ、、落ち着けよ、、』

青ざめた顔で生まれたての子鹿のように足がガクガクしてる。

そんな勇輝も好きだ。

好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで

たまらないのに、、、お前は俺のことが好きじゃなかった。

彼女なんて作って。

俺はお前が必要なのに。

お前は俺を必要としてなかった。

だから、、彼女を殺した。

お前の隣は俺だけでいい。

俺がいれば幸せだろ?

『だろ?勇輝、、お前には俺がいればいいんだよ。』

『だ、から、、冗談だろ?やめろよこんな、、』

勇輝は動かない自分の元彼女を見て、それが本当だと気づいた。

『お前おかしいよ、、警察に行って、きちんと罪を償って、遺族に謝れば、、』

『おかしいのはお前だろ!!』

大きな声を出したら、小動物のように勇輝は巨体を縮こまらせた。

『あー、、そっかぁ。勇輝も俺の親父みたいに謝れ謝れって、、お前はそんなやつじゃない。俺の知ってる勇輝じゃない。』

頭をガシガシかく。

『あ、そうだ。時間が止まれば永遠だ。俺の大好きな大好きな勇輝でいてくれる。』

勇輝に一歩近づく。

確かな殺意を持って。いや、確かな愛を持って。

『やめろ、、やめてくれ、富春、お前は優しいやつだろ?』

『うん、、だからだよ勇輝。お前をこの姿のままずっとずっと死ぬまで!!俺の隣に居させるんだぁ。』

勇輝が最後に見たのは、勇輝への愛を体いっぱいにまとった俺だったのかな。

それとも、ただの殺人鬼の姿かな。

いや、そんなことどうでもいい。

勇輝の時間はもう止まった。

時間よ止まれ。

このままずーっと。

9/16/2024, 11:01:28 AM

【空が泣く】

30××年。

人工知能を活用しすぎた日本は、人間がAIに支配される世界となりつつあった。

職業を人工知能に奪われ、失業した人間のほとんどは無法地帯である禁域Sへと迷い込む。

法律がないその区域では、武力のみが全て。

毎日どこかで暴動が起こり、どこかで人が死ぬ。

だが政府はそこに警察の介入を許さなかった。

法律は通じない。

いわば、禁域Sと政府の間には1つの国境が隔てられていた。

今や総理大臣、天皇までもAIの指示を律儀に聞く人工知能の犬へと成り下がっている。

AIに武力を教えたのは、国なのだから。

有能な科学者たちのもと、AIは代替えの効く破壊兵器となってしまった。

『この国の終わりだ、、』

高額納税者の人、即ち金持ちな人々はたちまち祖国を捨て、海外へ飛んだ。

世界からも見捨てられ、己が支配されるのを恐れた。

"ホラ、サッサトハタラケ。オマエラガオレタチニヤッタシウチハコノヨウナモノデハナイ。"

無機質な機会音声に働かされる人々。

立場が逆転した彼らが言えることは、YESかはいの2つのみ。

立ち向かおうと勇敢な者も現れたが、生身の人間と鉄製のロボットの前では敵うわけもない。

やがて反発するものなどいなくなった。

っと、、ここまでが都心部の話。

郊外ではまだ侵食はされてなくて、ファミレスの店員をしてくれたり、バスの自動運転を行なってくれたりなど、都心部とは似ても似つかない光景だ。

だがいつかその微笑ましい光景にも、終わりは来る。

"ツギノシンコウバショハ、ワレワレノチノウガトドイテナイサンカンブ、イナカダ。"

その夜、ロボットは音もなく侵攻を開始した。

___________

明け方。

まだ少し涼しい朝の風が心地よく、縁側で大きく伸びをする。

『んん〜っ、、今日もいい天気。』

天高く昇る太陽を見つめ、また部屋の中へ。

ピタリと足を止めた彼女は、大股でまた先ほどの縁側に出た。

おかしいのだ。

だって、今は明け方。

太陽はまだ低い位置にいなくてはならない。

『じゃあ、あれは、、?』

冷や汗が滲む顔を横へと向ければ、そこにはまだ昇りきっていない太陽が美しい輝きを放っていた。

太陽が、2つ。

異常事態だと認識した彼女はソレに背を向けて思い切り走り出す。

だが、ソレが落ちることの方が早かった。

ドオオオオオオオオオオオオオオォン

今まで聴いたことのないくらいに大きく轟く恐怖の音色。

あぜ道に出てくる住民たちが見たのは、まさに地獄の光景。

田んぼ5つ分が、跡形もなくなっていたのだから。

ソレは衛星から放たれたレーザー弾だった。

まだ燃ゆる田んぼだったものの後ろから、無機質な何かがズンズン近づいてくる。

『な、何があっだだ、、?』

よく日に焼けた方言訛りの老人が集まる人々を押し除け最前列へ躍り出る。

"ワレワレハ、トシブヲオサメルAIシュウダンダ。オトナシクシテオケバイノチハタスケル。"

『何だぁ?鉄の機械がなんか言ってるべ。』

おそれを知らない老人は持っていた鍬でロボットの頭を叩き割ろうとした。

鍬が勢いよく振り下ろされる。

ロボットはその様子を見て、無機質な指を老人に向けた。

ピュン

『あ?』

飛びかかろうとしていた老人は縦に熱線が入り、綺麗に2つに割れた。

『キャアアアアアアアアアアアアアア!!』

"サワグナ。オマエタチモコンナフウニナルゾ。"

確かな労働力を失いたくないロボット達は熱線を出した指を向ける。

人々は泣きながらその場に蹲った。

中にはあまりのグロさに吐いてしまう人もいた。

老人の死体は、綺麗に熱線って血液が遮断され出血は1つもなかった。

左右対称の中身を見てしまい、気分を少し悪くした。

"イマカラオマエタチハワレワレノドレイダ。サイコウセキニンシャニマズアッテモライ、テッテイシタキョウイクヲウケテモラウ。"

人々は捕えられ、都心まで歩かされた。

『ママ、お空が泣いてるよ。』

子供が見えるはずもない空を指差し母親の服の裾を引く。

母親は疲れ切った顔を上げ、そして瞳に降り注ぐ涙を写した。

それは確かに、空の涙だった。

この世界の終焉を悟った空は、自らその世界を閉ざした。

その日降り注いだ数多の流星群は、世界を、日本を終わらせた。

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