駄作製造機

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【なんでもないフリ】

『それはね、、恋だよ。』

夕日の茜色が青春の1ページを物語るかの如く並んだ机に影を落とす。

少しだけ冷たい風が吹き、季節はもう秋だと感じさせる乾いた空気感。

『いや〜美琴もついに好きな人ができたかぁ〜』

机に肘をついて黄昏るくるみは心から私の幸せを願っているかのような微笑みを向けた。

『好きな人っていうか、、まだわかんないけど、、』

私も思わずニヤける顔を抑えつつ悩ましい顔をする。

午後5時の町内チャイムが鳴り、小学生特有の高い声が遠巻きに聞こえる。

『ねぇ、次の土曜日、デートに誘ってみたら?』

心底おもしろそうに笑うくるみ。

誘うのも結構勇気いるのに!とか考えるけれど、先輩と一緒に遊ぶ自分を想像してみたりして頬が緩む。

『誘っ、、ちゃう?ちゃいます??』

ポケットからスマホを取り出し、緑のメッセージアプリをタップする。

青いピンでタグ付けしてあるのは1人のみ。

最近で会話したのはもう2日も前。

何か共通した話題があればいいんだけど、あいにく少女漫画しか読んでこなかった私にとって少年漫画は刺激が強すぎた。

先輩は漫研部に所属していて漫画が大好き。

そんな先輩と仲良くなるためには頑張って漫画を調べないと!!

『ぇーと、、今週の土曜日空いてますかーっと、、』

誤字脱字がないか確認して送信ボタンを押そうとしてやめる。

『うぅ、、勇気が、、』

断られたらどうしよう。予定あるって言ってたのに別の人と歩いてたらどうしよう。

そんなたらればの不安が私の指を止める。

でも、、送らないで後悔するよりは、送って後悔した方がいい!絶対それがいい!!

ぽしゅっ

こちらの気も知らずに軽快な音を立てて送信されるメッセージ。

なんて返ってくるのか見るのが怖くてスマホを閉じた。

『よし。帰ろっかー。』

まだ胸がドキドキする。

あー、、デートオッケーしてくれたら何着てこ。

髪の毛も可愛くしていかなきゃ。

『あーニヤニヤしちゃってー。かわいいなぁ。』

くるみにクスクス笑われながら夕日を見つめた。

___________

『くるみちゃんって呼んでもいい?』

『くるみ!次移動教室だよ。一緒行こう?』

『くるみ、どうしたの?何かあったら私に言って!』

『ね、くるみ!お誕生日おめでとう。』

嗚呼、、私に向かって笑いかけてくれる貴方。

いつも私の名前を呼び、その向日葵のような美しい笑顔を私に向けてくれる。

いつからだったろうか。

この感情が友達としての愛だと感じなくなったのは。

貴方が好きでたまらなかった。

いつでも貴方の幸せを願っていた。

なのに。

『先輩ってさ、好きな人いるのかな、、』

頭を思い切り殴られた感じがした。

簡単に例えたら、がつーんって。

もう何も考えられなくなったけれど、貴方の幸せを願ったのだから私はなんでもないフリをした。

『応援するよ!友達だし!』

友達、、胸が苦しくなった。

喉から振り絞って出したその言葉も、私の腹の中に渦巻くどす黒く赤い感情も、全部、全部。

なんでもないフリをした。

12/11/2024, 10:32:57 AM