駄作製造機

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【見つめられると】

『視線病、、ですか?』

『ええ。ごく稀な10代の学生さんの間で発症する病です。』

珍しそうに診断票みたいなのを見るお医者さん。

中1の頃から、人からの視線が急に怖く感じた。

どうしてだろう。わからない。怖い。

とうとう僕は、見られることへのストレスと、どうして?という途方もない不安で倒れてしまった。

そんな時に診断されたこの病。

良かった。自分がおかしいんじゃないんだ。

『そうやって、何でも病名つけたがりますよね。自分はこれだからって安心したいだけじゃないの?』

お母さんの声が隣から聞こえてきた。

『お母さん、確かに目には見えない心の病気です。でも甘えっていうわけじゃ、、』

必死にフォローしてくれるお医者さんの声も遠くて、キーン、、と酷く耳鳴りがした。

信じてくれない母に対しての怒りと、底なしの絶望が僕を襲った。

どうして信じてくれないの?何故?

痛い、イタイ、、

ナースステーションを通った時も、信号で止まって渡っている高齢者と目が合った時も、家族で囲んで食事をしている時も、背中に壁がない限り視線を感じて痛かった。

ーー

キーコーンカーンコーン

遠くで学校のチャイムが鳴るのが聞こえる。

もう、かれこれ3週間。

僕は学校を休み続けてる。

ダメだ。そうはわかってる。

けど、、、どうしても背中に壁がないと不安で吐きそうになる。

教室の何処にいても休まらない。

いっその事壁になりたかった。

今日もお母さんは怒って会社に向かった。

病気なのはわかるけど学校には行けだって。

わかってねえじゃん。

お母さんなんて嫌だ。いなくなればいい。

こんなことを考えている僕も死ねばいいのに。

生まれてこなきゃよかった。

誰にも僕のこと見えなければいいのに。

布団の中は落ち着く。

誰にも見えない。

見つめられると息が詰まる。

僕はこの先、生きていけるんだろう?

誰かに見つめられるのが嫌だなんて、もう社会不適合者じゃないか。

僕は一生ニートだ、、、

『ああああああぁ、、、』

ーーーー

更に1週間後。

お母さんがリハビリにって、ゴザエモンの散歩に行ってって言われた。

早朝5時。

そのくらいの時間帯なら人も歩いてないだろう。

『じゃあ、ゴザエモン、行こうか。』

柴犬のゴザエモンは元気に吠えた。

リードを千切れそうなくらいに引っ張るゴザエモンを落ち着かせながら小走りでお散歩をする。

『わぁ、、』

走りながら海沿いから顔を出す朝日に目を眩ませながら口から白い息を出す。

『綺麗だね、ゴザエモン。』

ゴザエモンは走るのに夢中で気づいていないみたいだ。

そんなゴザエモンに久しぶりに笑い声が漏れた。

多分僕のこの病は、治りにくいだろう。

でも、いい加減に休憩は終わりにしよう。

保健室登校でも、相談室に行ってもいい。

『少し、、、頑張ろうかな。』

ゴザエモンの屈託のない顔を見てたらまた笑みが溢れた。

『偉いぞー。ゴザエモン。お前は1人救ったんだ。』

ゴザエモンは元気に吠えた。

3/28/2024, 10:41:20 AM