駄作製造機

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3/23/2024, 10:55:16 AM

【特別な存在】

姉が死んだ。

心の病気を抱えた姉につきっきりだった両親は姉の死を誰よりも悲しんだ。

私はさほど悲しくはなかった。

何故なら私は姉の事が心底嫌いだったから。

姉は年代を経るにつれそのおかしさが目立っていった。

自分は悪くないという被害者意識が強く、自分の非を何よりも認めない。

言葉遣いも荒く、父や母にも平気で暴言を吐いた。

何があっても私や下の妹に責任転嫁。

両親は姉を刺激しない様に私達に言い聞かせた。

『しっかりしてね。あの人はそういう人だから。』

私はそれが許せなかった。

姉は父と母に甘やかされてはいないが、姉が悪い事をしても私達のせいになる。

私は姉が許せなかった。

昔のことばかり根に持って、解決した問題をまた掘り出して来てグチグチ言ってくる姉が。

私は大嫌いだった。姉として認めてはなかったし、同じ空間にいるだけで胃がキリキリして吐きそうだった。

この家族の中で大事にされていたのは、姉だった。

怒らせると暴力的になるし、すぐに過呼吸を起こす。

そして被害者ぶる。

姉が嫌い。嫌いで嫌いでたまらない。

何故なのかもわからない。

家族にとって姉は特別な存在だった。

怒らせるな、波風立たせるな、罵るな。

その全てが自分たちの明日に繋がっていた。

姉がヒステリックになれば私は逃げる様に図書館へと行った。

時には泣きながら向かった事もあった。

何故。何故私はこの様な姉を持って生まれて来てしまっ
たんだろうか。

もういっそのこと私が姉でもいいのに。

だから殺した。

姉なんて、私1人で務まると思ったから。

妹も、仲良くできない姉と時に喧嘩するけど仲良くできる姉どちらがいい?と聞いたら私の方に賛同してくれた。

姉は死んだ。

特別な存在はもういない。

姉は私1人で十分なの。

アンタなんていらない。

ただ1年早く生まれて来ただけの肉の塊が。

妹を怒らせるからこんな目に遭うんだよ。

バイバイ。

家族の特別な存在。

3/22/2024, 11:36:55 AM

【バカみたい】

この世界は、この世界でいう異世界というものだった。

魔法が使え、そして魔物や魔族が存在する。

当然、魔物は人間に害を成すし、それを退治する冒険者もいる。

『ファンド・クラリー。お前を今日を持ってこのパーティから追放する!』

深い深い森の中。

銀の鎧を纏った金髪の冒険者。

相対する前に立つのは、黒髪の冴えない顔の軽装備冒険者。

他の仲間も彼を追放する事に何ら疑問も持たず、むしろいなくなって清々するといった感じだ。

『そんな、待ってくれよヒューズ!』

ヒューズと呼ばれた金髪の男はそんな必死の声も無視し、仲間達を引き連れて去って行ってしまった。

『そんな、、、あんまりだ、』

彼、ファンド・クラリーの職業はシューター。
俗にいう弓矢使いだ。

後方からの支援を主とし、隠密行動や狩りなども得意とする。

だが、ファンド・クラリーはそれらが苦手であった。

何をするにも昔から鈍臭かった彼は、冒険者という叶いもしないご大層な夢を掲げ、そして今に至る。

今まで仲間達はずっと我慢をしていた。

彼が起こす失態も、彼が本当に申し訳なさそうにしていたから怒るにも怒れなかったのだ。

『、、、俺が悪いか、、』

諦めたようにその場に三角座りをして、顔を埋める。

パーティのリーダーは先ほどの金髪男、ヒューズだ。

ヒューズは心優しい持ち主だった。

だが、先日彼の思い人であるルリアンがクラリーの過失で怪我をした。

それがトリガーになったのだろう。

昨夜から明らかにクラリーに対して態度が悪くなり、今回の解雇を言い渡す時も苦しそうだったが怒りの方が勝っていた。

『、、、俺が、、たくさん失敗したから、、』

"追放"というたった2文字の言葉は、彼の心を抉るのに十分であった。

その状態のまま、約3時間が経った。

ガサ、ガサガサ、、

夕暮れ。

魔物が活発化する時間が近づいてくる。

だがクラリーはその場から動かない。

近くの茂みが揺れ動いているのを察知したが、無気力に立ち上がり短剣を構えるのみ。

『、、いっそ、死んでしまおうか。』

ガサガサ、

ついにクラリーの前に魔物が飛び出してきた。

だが、その魔物は全身傷だらけであり、手負だった。

『、、メドゥーサ!』

見た者を石に変えるという蛇の頭をした魔物。

『くっ、、お前も石にしてやる!!』

メドゥーサが目をカッと見開く。

『うわあああぁ!』

思わず目を瞑ったが、体が石になる感覚はなかった。

『え、、?』

2人の間に沈黙が走る。

『、、はぁ、、』

『こ、殺せ!』

クラリーは腰につけているポーチから薬品を取り出す。

『ダメだよ。怪我してるじゃん。』

彼が取り出したのはポーションだった。

『な、何を、、』

メドゥーサは警戒して男の手を蛇の尾ではらう。

だが、クラリーは痛みに顔を顰めるが尚もポーションをメドゥーサにかける。

『大丈夫。俺は鈍臭いから、すぐ君に倒されるよ。』

弓と矢は男から離れている。

ナイフも、武器も何もかも取り外し、男は今丸腰だ。

メドゥーサは鋭い目をしていたが、攻撃するのはやめた。

ーーー

私は元は人間だった。

正しくは、魔物と人間を融合させたキメラだ。

私が生まれた時、村の奴らは私を気味悪がった。

"悪魔の子""忌子""生まれてきた事が大罪"

そんな言葉を投げられるうちに、私は段々とその通りの性格になってしまった。

人を疑い、攻撃し、遠ざけた。

『私は、、ニンゲン、、よ。』

自信を持って言えるわけがなかった。

何故なら、私の体は下半身が蛇だったから。

自分が人間だと説明するものも何もない。

私は世界から嫌われているんだ。

そう思って生きていた。

次第に森で暮らすようになった。

魔物にも人間にもなれない。

自分の洞窟を襲撃された。

命からがら逃げ出して、森の中を隠れ回った。

夕暮れ、1人の男がいた。

落ち込んでいるのか、人生終了いった顔で私を見た。

怖がらない人間は初めてだった。

汚物を見るような、殺気だった目。

人間の目は大嫌いだ。

だから早く石化してやろうとした。

けど効かなかった。

何故だ?

わからない。わからないけれど、、何故か涙が出た。

効かないなら仕方ない。

いっその事殺して欲しい。

だけど、、

『ダメだよ。怪我してるじゃん。』

男は私の拒絶をものともせずに、私に貴重なポーションを使った。

私はバケモノだ。

人間にも、魔物にもなりきれてない出来損ないのような存在なのに。

男は優しい顔で武器を置いた。

ついに溢れ出した涙が、私の頬を伝って蛇の足へと落ちていく。

『ど、え?どうしたの?』

目の前の冴えない男は慌てて困っている。

『グスッ、、バッカみたい、、』

私に優しくしても何もならない。

何の利益にもならないはずなのに、わかる。

この男は純情な心を持った優しくて天使のような者なのだ。

『バッ?!、、、君、名前は?』

『、、、アリー。貴方は、、?』

『俺はファンド・クラリー。バカで冴えない冒険者さ。』

私は出会ってしまった。

世界一お人好しで、冴えなくて、でも何故か守りたくなるようなこの男に。

ついに私もバカになったか。

人を信じる日が来るなんて、、、

『、、一緒に来ない?俺が守るよ。』

『フフッ、、ホント、バカ。冴えないくせに。』

私は数十年動かなかった表情筋が動く感覚がした。

これからも私たちはバカみたいなことをして、笑い合う。

そんな未来が見えていた。

3/21/2024, 11:29:44 AM

【2人ぼっち】

『おはよ。』

『おはよ〜。』

春の心地よい風が吹く4月中旬。

桜が舞う通学路。

少しだけ打ち解けた仲間達と一緒に校門をくぐる。

『この問いは、、志水。答えられるか?』

『はい。X=3√2です。』

いつも通りの授業。

『おいしいね。』

『うん。あのさ、それ1つちょーだい?』

いつも通りのお昼休み。

あったかい木漏れ日が春の心地よさと新しく始まったばっかりの高校生活を祝福している。

、、、はずだった。

それは突然の出来事だった。

午後の授業が終わり、放課後の時。

『よしっ、図書委員の仕事完了。』

トントンと本の高さを整え、本棚に直す。

夕日が窓に差し込み、淡く机を照らす。

ピカッ

『ん?夕日、、?』

夕日にしては強すぎる光が、辺りを包んだ。

夕日と重なり物体は見えない。

私は咄嗟に目を瞑った。

次の瞬間には、私の、私達の国は更地になっていた。

私はたまたま重厚な耐震工事有りの本棚に守られていたからギリギリ軽い怪我で済んだ。

『な、、何が起きたの?』

桜は見るまでもなく風圧で跡形もなくなっていた。

校舎だって、跡だけが残っていた。

『あ、、あああああああああああああ!!!』

膝に力が入らなくて、更地の中に膝から崩れ落ちる。

膝が擦りむけて崩れるのも厭わず、顔を手で覆い現実から目を背けるべく頭を掻きむしる。

何の音もしない。

自分の耳が聞こえなくなったのかと錯覚する様に辺りは静まり返っていて、世界に自分だけの様だ。

崩れ飛んで行った校舎の残った瓦礫には生々しい誰かの血飛沫がこびりついている。

『いや、、何で、、そんなこと、、、』

夢だ。これは夢、タチの悪い夢よ。

最近はテストとかいろいろあって疲れてたから、、

でも、憎たらしいほどの春の心地よい風が、更地になっ
た砂埃が、酷く晴れた空と太陽が、これは夢じゃないと感じさせる。

『、、、、』

キャン!キャンキャン!!

遠くから聞こえてくる小さな小さな命の息吹。

今はただ、1人にはなりたくなくて。

どんなものでもいいから、何かに縋っていたかった。

瓦礫と瓦礫の間から聞こえたか細い声は、小さな小さな柴犬だった。

震えている子犬を私もまた震えている手で優しく抱き上げる。

トクントクンと感じる小さな音。

『グスッ、、かわいい。』

涙が子犬の顔にポタポタと落ちていく。

子犬は私が泣いている事に気づいたのか、優しく私の頬をペロペロと舐める。

『、、グスッ、ありがとう。私とお前、2人ぼっちになっちゃったね。』

私は立ち上がってゆっくりと歩き出した。

不思議と、あの時の孤独感は少しだけ軽減された。

きっと、この子犬の様に、私の様に、生き残っている人はいるはず。

『、、、探しに行こうか。仲間を。』

可愛い子犬は可愛く鳴いた。

3/20/2024, 11:09:41 AM

【夢が醒める前に】

ハァッハァッ、

ずっと暗闇を走っている。

後ろからは速度を落とさずに追いかけて来る大きな大きな足音。

途方もない距離を走って走って、でも相手はずっと追いかけて来る。

ハァッハァッ、、ハッハッ、、

追いつかれたら取り返しがつかなくなりそうで、私は走るスピードを上げる。

嫌だ、捕まりたくない、ヤバい、追いつかれーーー

ピピピピッピピピピッ

『はっ、、はぁ、、、』

今日も逃げ切って、夜が明けた。

私はこの夢を見始めるようになったのは、1ヶ月前からだ。

最初は暗闇を歩いているだけだった。

けれど、2日目にまた同じ夢を見た時、私の歩く後ろをつけて来るような気配がした。

次の日には足音が聞こえて、次の日には息遣いが聞こえた。

次第に私は走るようになった。

夜が明けるまで、息が苦しくても捕まりなくて。

だんだん相手も歩きから走りになって、私を追いかけて来るようになった。

最近は寝るのも苦痛になってきて、一生懸命抗おうと思ってるけどいつのまにか寝落ちしている。

日に日に私も追いかけて来る主も足が鍛えられて速くなっている。

足を鍛えても夢の中だから意味ないんだよ。

悪態を吐きながらコーヒーを飲む。

積極的にカフェインを摂ったら眠れなくなるって聞いたことがある。

だから最近はコーヒーと翼を授けるアレを飲んでいる。
でも、、三代欲求には抗えず、結局寝落ちルートへ走る。

今日もこの夢だ。

私は何に追われてるんだ?

宿題?勉強?進路?

何も思い当たる節がないのに、何故追われなきゃいけないんだよ。

ああ段々腹立ってきたな。

タッタッタッタッ

今日も足音が後ろから聞こえる。

でも私は足を進めない。

腹が立って仕方がない。

毎日寝不足なのに眠ったら追いかけられるし、おかげで足は速くなったけどさ!

おかしいじゃん?夢の中でも運動させんなよ!

1発殴ってやる。

『どりゃあああああああ!!!』

ちょうど自分の真後ろに来た時に思い切り振りかぶって渾身の拳を相手にぶつけた。

ブァサッ!

相手は真っ黒い霧のようなものでできていて、私が殴ったらそれがたちまち離散した。

パラパラ、、

暗闇がどんどん固まったボンドを剥がすように崩れていく。

闇が開いて、光に包まれる。

見えたのは、自分の家だった。

自分の部屋、ベッドに寝ている自分。

その姿を見ていると、不意にベッドの端に黒いモヤが現れた。

『うそっ!!』

そのモヤは先ほど私が殴ったものと同じだった。

そのモヤは私が呼吸をする鼻付近に近づいていき、鼻から一気に私の中へと入っていった。

『え?え、、?』

呆然とその様を見ていると、私の姿がドンドン黒くなっていくことに気づいた。

『うそ、、そんな、、何これ、、、、』

遂には完全に私は霧と化し、何も考えられなくナッタ。

アルカナキャ。ツギニクルヒトニムカッテ。

ハシッタラオイカケナキャ。

ソウシタラモドレルカラ。

彼女は夢が醒める前にはもう戻れない。

また待ち続ける。

次なる相手を見つけるまで、いつまでもいつまでも。

ハヤクキテ。

3/19/2024, 11:39:57 AM

【胸が高鳴る】

時は明治時代。

時代が江戸から移り変わるこの時、妖は人の後ろめたい心に反応しどんどん増幅していき、遂には霊力のない人間にまではっきりと視認できるまでになっていた。

此処はとある花街の一角。

遊郭や飲み屋が蔓延るこの街は、宵闇を隠すように灯りが眩しい。

『よぉ兄ちゃん!吉原寄ってくかい?』

端正な顔立ち、紺色がよく似合う体。

両腕を着物の袖にしまいながらゆったりと歩く男性に、振り向く女多数。

『ぁん、、?悪いが俺はもう心に決めた奴がいるんでな。』

客引きを軽くあしらい、またゆったりと歩き出す。

だが彼が行く方向には、眩しいほどの灯りが途絶えた裏道。

その先にあるのは廃れた神社。

彼はまるで闇に吸い込まれるように呑まれていった。

ーー

やがて見えてきたのは、少しボロボロになっている神社。

錆びてはいるが煌びやかな装飾を見る限り、ついこの間まで栄えていたらしい。

俺は神社の鳥居を潜り、目の前にいる狐の石像に向かって頭を撫でた。

『コンコン、遊びましょ。』

そう言えば、狐の像はウネウネと動き出し、やがて人の姿となり目の前に現れた。

『晴巳様!お待ちしておりました!』

少年の姿の化け狐は思い切り俺に抱きつく。

キツネと出会ったのはつい先週だ。

森で罠にかかっていたところをたまたま俺が見つけて解放したら懐かれたのだ。

俺としては妖とかは信じてないタチだったから何だか新鮮だ。

目の前の狐は尻尾をブンブン振って顔を俺になすりつけて来る。

ーー

2人は寂れた社で与太話に花を咲かせる。

『なぁなぁ、もっと教えてくれよ!人間の文化!』

化け狐は楽しそうに男から話を乞う。

男はそんなキツネを剥がしながらやれやれと話を聞かせる。

『はいはい。』

いつもこうして夜が明けるまで話をするのが、2人の恒例行事であった。

ーーーー

俺はまだ300年しか生きてない見習い化け狐。

ある日、空腹だった俺は罠だと気付かずに餌を求めて罠にかかってしまった。

痛みと悔しさで鳴き続けていたら、声を聞きつけた優しい晴巳様が助けてくれたんだ。

俺たち妖は人と関わるタイプじゃないけれど、俺は昔っから人間が作り出す文化が大好きだった。

誰にも言えないこの秘密を、晴巳様にだけは言えた。

動物には感じないはずの、胸の高鳴りを俺は感じていた。

1度目は人間の目覚ましく発展していく文化を見た時。

2度目は優しい晴巳様の笑顔を見た時。

俺はいつか、人間の生活に溶け込んで、上手く関わっていきたい、、なんて、想像もできない夢を持っている。

いつか、、晴巳様とも一緒に、、なんて。

ーー

雨の日。

俺は今日もあの神社に足を運ぶ。

其処には雨に濡れたキツネが境内にいた。

『おい、どうした?こんなに濡れて、、』

人間に化けているソイツの髪を触る。

『晴巳様、、俺、雨好きだ!』

てっきり何かあって落ち込んでいると思っていたら、何だ雨が好きではしゃいでいたのか。

『何だよ、、心配したじゃねえか。』

雨の日は憂鬱になりがちだが、コイツは晴れの日の様にキラキラの笑顔を見せて俺を見つめる。

ドキ、、

心臓が少し痛くなった。

いつのまにか、俺はコイツの笑顔を見るたびに胸が高鳴るのを覚えてしまったらしい。

『?晴巳様?何処か痛い?』

『ん?ううん。何でもないさ。可愛いキツネ。』

純粋な笑みを浮かべる化け狐の頭を優しく撫で上げた。

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