駄作製造機

Open App
3/18/2024, 10:43:48 AM

【不条理】

パァン!

広い広い部屋に、軽快なほどに響く音。

綺麗に掃除してあり、照明を反射している大理石の床に、小さな男の子が蹲る。

少年が蹲る傍らに息を切らして佇むのは、彼の母親だろう女性。

先程の音は彼女が少年を平手打ちした音だ。

少年は泣きそうな顔で母親を見上げ、憎しみの目へと変える。

『、、な、何よその目は!』

パァン

また少年に平手打ちをする母親。

気が済むまで叩かれ殴られた少年はその場にとどまり、バタバタと出て行った母親をずっと見つめていた。

『、、、、』

少年はそのまま与えられた自室へと戻る。

簡素な部屋。

全てが白く、少年の心を揺さぶる様な仮面ライダー、漫画の類いは一切存在していない。

彼の母親が、彼を縛っているのだ。

夫に別れを告げられ、女手一つで少年を育てる彼女は、母親としての自覚と共に、"出来の良い息子を1人で育てた"という思想もついてしまった。

そんな彼女に英才的教育を受けている彼の人生は、実に不条理であった。

少年は齢8歳にして自分の意義を見失い、人生に何の意味も持てなくなっていた。

ーーー

バサァ、、

鳥が羽ばたく様な音がした。

でもそれは遠くじゃなくて、もっと僕の近くでだ。

泣き疲れて眠った目をこすりながら体を起こすと、其処は自分の部屋だった。

けど、、僕の部屋ではないみたいに、鮮やかな羽が存在していた。

『起きた?』

突然聞こえたソプラノの様な美声。

僕は慌てて起きて正座をした。

僕が寝ていたベッドの端には、綺麗な羽に埋もれる様に白いワンピース着た女の子がいた。

その子の目は図鑑で見た地球の様な色で、地球より美しかった。

金髪は太陽より輝いていて、頭の上には星が舞っている。

『き、、君は、、?』

恐る恐る聞けば、女の子は優しく微笑みかけて、僕に言った。

『私はバク。君の悪い夢を吸い取る魔獣さ。』

バク、獏。

聞いた事がある。

中国の霊獣で、悪夢を見たら覚めた時にバクに夢を食べてくれる様願うと。

それで同じ悪夢は2度と見なくなるし、快適な睡眠を取れるって、、

『僕、、夢なんか見てない。』

最近はあまり眠れてない。

夢なんて人生で1番見ないだろう。

『ううん。違うよ。いい?私が、あの"悪夢"を吸い取ってあげるんだ。』

目の前で屈託のない笑みを浮かべる女の子は、相変わらず天使の様に綺麗だった。

背中に背負っている羽はいろんな色が綺麗に混ざり合っ
たやはり部屋に似合わぬものだった。

『悪夢、、アイツを吸い取ってくれるの?』

自分の見栄ばかり気にして、僕に完璧を求めて来るアイツが、僕は死ぬほど嫌いだ。

『ああ。約束するよ。小さい少年。』

少年をベッドに再度寝かせ、少女はベッドに腰掛けて少年を頭を優しく撫でた。

『大丈夫。ゆっくりおやすみ。』

少年はうつらうつらと瞼を閉じ、部屋を静寂が包んだ。

『ただし、、君が目を覚ました時、お母さんは存在してないよ。だって其処は、、君だけの桃源郷なのだから。』

バクは夢を食べる。

でも、、稀に夢を見させる個体も存在する。

彼女の羽から鮮やかな色彩が抜け、少年の額に入っていく。

『ああ、、良い顔だ。』

少女はニコリと笑い、もう呼吸をしていない少年に触れるだけの口付けをした。

いたいけな小さな少年は、自らこの不条理な人生からの脱却を選択した。

3/16/2024, 10:33:17 AM

【怖がり】

『ほらー、早く来なよ!』

俺の手を引く小さな小さな手。

顔は見えない。もう何十年も前のことだからきっと、、覚えてない。

俺は子供の姿のまま、彼女に手を引っ張られている。

彼女は、、彼女の名は、、

ーー

ピピピピッピピピピッ

何とも、不思議な夢を見た、、気がする。

全部曖昧に、断片的にしか思い出せないが、懐かしい夢を見ていた。

朝。

まだ5時半。

睡眠時間、約2時間。

家を出るのは6時。

そこから始発で電車を乗り継いで、会社に行く。

『こんなことも出来ないのか!!使えねぇ無能だな!』

『すみません。』

『これ終わるまで帰るな!』

『はい。』

上司からの叱咤激励も日常になり、残業手当ても出ない。

そう。いわゆるブラック企業ってやつだ。

入社したての頃は上司も、社長もみんな優しくしてくれた。

一緒に入社した同僚は此処がブラック企業だとわかれば、スタコラさっさと辞めていった。

俺もその流れに乗って辞めようとした。

けれど、、

『お願いだ、君がいないと此処が回らないんだ!』

『君にかかってるんだ!』

優しい優しい上司達の引き止めにあい、入社3年目、未だ此処に止まっている。

なーんて、、こんなのただの言い訳。

ただ、俺が臆病だから。

昔っから、俺は危機を察知できる子供だった。

いや、ただ単に怖がりだった。

鉄棒が怖い、暗闇が怖い、お化けが怖い、キノコが怖い。

何でもかんでも怖がって遠ざけていた。

でもある時、近所に住んでいた小さな女の子に言われた。

『だっさ。』

と。

その一言が俺の言葉に刺さったし、何だか悲しくなった。

でもその女の子は、その悪口だけで済ませようとせず、殻に閉じこもっていた俺を外に連れ出してくれた。

たくさん、いろんなことに挑戦した。

動物が怖いと言えば、次の日ふれあいコーナーへ連れて行かれた。

虫が怖いと言えば、舗装も何もされてない天然物の山へ投げ込まれた。

お化けが怖いと言えば、近所の出ると有名な心霊スポットへ行ったりもした。

俺は最初、俺の嫌いな事を平然とやって俺にも強要してくるその子が心底嫌いで仕方がなかった。

けれど、登山をした時、息切れしながらも頂上へ辿り着いた。

その時に見た山頂の夕日が、今までで1番美しくて、何故か涙が出て来た。

その時俺は、達成感というものを知った。

怖がらずに、挑戦したらいい事もある。

もし、それが上手くいかなくっても、大丈夫。

『好きなだけ怖がったら、次する事は決意だよ。』

その子は、泣いている俺に向かって笑いかけた。

年相応に見えない言葉が印象的だった。

ーー

4時半。

いつもの時間に起きて、寝不足の頭のまま会社に行く。

でも不思議と眠たいのに俺の意識はハッキリしていた。

『、、決意、、しなきゃね。』

もう名前も思い出せないけれど、その子の言葉は俺の中にある。

怖がりな俺を、少しだけ変えてくれた勇気の言葉。

『『好きなだけ怖がったら、次は決意をする。』』

ギュッと懐にしまった辞表を握りしめた。

3/15/2024, 11:38:06 AM

【星が溢れる】

『紀穂〜!朝よ起きなさーい!』

騒がしい母に起こされ、私は起き上がる。

母の手を借りてベットを立ち上がり、手探りで着替える。

私の目が見えなくなったのは、理科の授業で実験をしている時だった。

炭酸水を作る至って簡単な実験だった。

だけれど、、

恐らく、重曹かクエン酸の量が少しばかり多かったんだ。

それでガラス瓶が破裂し、たまたま私の目に、、

実験中の事故として処理された。

学校からは保険金が出て、私は両目を失ったため補助用具を購入した。

両親は綺麗な私の目が見えなくなってしまったのが残念らしく、私を見る目が少し他人行儀で辛い。

いや、見えないんだけど、そう感じる。

親との距離がどんどん離れて行く感じがして、悲しい。

悲しい気持ちになった時は、毎夜星を眺めた。

でも、、見えなければ何千何万の綺麗な星々は視界に入らない。

『うぅ、、、寂しい、、』

今の私を照らしてくれる唯一の光は、、なかった。

ーーーーー

此処は盲目学校。

目が見えない、または少ししか見えない人が通う学校だから、お互いに協力し合って、自分をわかってくれる居場所を探す。

今まで付き合いがあった友人とも離れてしまって、転入という形で此処に来た私にとっては、此処はとても居づらい場所だ。

何人か話しかけてくれる人はいるけれど、それでも感じるのは、心そのものの距離だった。

次第に私は自ら壁を作り、みんなを遠ざけた。

昼休み。

学校の屋上で空を見上げる。

ただ、私の前には真っ暗闇。

あんなに大好きだった空も、星も、何も見えない。

『もう、、嫌い。』

全部が。ただひたすらに嫌いだった。

『君、、こんなとこ来ちゃ危ないよ。』

突然後ろから声がした。

振り返るけど、何も見えない。

白杖をつきながら声のした方へと進む。

彼もカツン、、と白杖をつきながら私に近づく。

2人の伸ばした手が、空中で重なる。

『っ、、、』

そのまま手を合わせ、お互いの距離を測る。

『あの、、あなたは?』

『僕は、筒塁照史。君は?』

彼の声はどんなものでも包み込む様な優しさを纏っていた。

『私は、、七海紀穂。』

彼女も自然と名前を名乗り、存在を確かめる様に手をギュッと握った。

ーー

彼との出会いは、今まで塞ぎ込んでいた自分を変えた。

彼は弱視だった。

ぼんやりと周りが見えるので、完全に盲目ではない。

彼は私の手助けを快くしてくれた。

どんな文句も言わず、どんな時でも私を1番に考えてくれた。

私は彼が出逢ってから、私は周りのみんなに『変わったね。明るくなったよ。』と言われる様になった。

彼は周りを明るくさせる星の様だった。

金星の様な綺麗で輝いた彼が、私は好きだ。

いつしか、彼に照らされた私の心には星が溢れていた。

3/11/2024, 10:28:56 AM

【平穏な日常】

多分、私はこの変わりない日常に飽きていたのだと思う。

それと同時に、この変わり映えのない日常が好きだった。

友達と遊んで、たくさん喋って。

家族と喧嘩して、仲直りして。

好きな人を見つけて、フラれて。

失って気づくのは、日常がどれだけ大切だったか、どれだけ愛していたか。

でも、好きだった日常は、本当は愛していた家族は、どれだけ願えど戻っては来ない。

空気にさらされればいつかは割れるシャボン玉の様に。

いつかは壊れる運命だったのかもしれない。

私はこの運命に抗う術を持ってない。

神殺しだとか、本当はするつもりはない。

神を殺したいとも思ってない。

だけれど、、

自分の能力を恨んだ事ならある。

これで、この能力のおかげで、どれだけの人の心を不安にさせ、良心を追い詰めたか。

私は私を否定している。

変わることはないだろう。

ーーーー

1952年、イギリスの山岳地帯付近の村。

そこで私は生まれた。

他のところより発展が少し遅いこの村は、まだ魔女狩りの概念が根強く残っていた。

そんな中、私は金髪とブロンドの両親から黒髪黒目で産まれてきてしまったのだ。

親には気持ちが悪いと罵られた。

村のみんなは私を魔女だと決めつけ、私を殺そうとした。

両親は気に病んでしまい、先に森の中で頭を撃ち合って自死した。

妹と私は訳もわからず逃げていた。

迫り来る銃声、怒声。

結果的に妹と私は捕まってしまい、妹は苦しまない様ギロチン刑、私は焼死させようということになった。

家族が死んでしまい、私は生きる気力を失っていた。

家族の最後の言葉は

"お前を産んでしまったから、、"

"お姉ちゃん、私はお姉ちゃんの妹だよ。"

だった。

嗚呼。失って気づくのは、家族の大切さでもあり、私がどれだけ守られ支えられて来たか。

もう誰も、私を知る人はいないだろう。

だって、、

私が殺してしまったから。

気がついたら、目の前は血の海だった。

さよなら。私の平穏な日常。

3/7/2024, 11:02:28 AM

【月夜】

『どうしても行かれるのですか。』

『ああ。行って参る。』

彼はそう言って出て行った。

私にとっての行って参るは、煩わしいものに他ならなかった。

誰も、戻って来なかったから。

行って参るは、いつしか嘘吐きの言葉と化した。

それでも私は送り出す。

彼の武士道に恥じぬ様に。

『、、行ってらっしゃいませ。』

歪んだ顔を見られない様、しっかりこうべを垂れて。

ーーーー

彼と出会ったのは、ただの見合いだった。

今のご時世、そういうのがつきものだ。

親のために結衣の儀をした様なもの。

だけれど、彼は私をしっかり人として見てくれていた。

私はただの後継ぎを生み出す道具でしかないというのに。

彼の武士道精神は他の人とは比にならないくらいしっかりしていた。

彼は必ず何処かに行く時には伝えてくれる。

遊郭などには言語道断。

最初から近づかなかった。

彼は私を愛している。信じている。

それが何よりの救いだった。

そして今回の戦も、彼は己の精神に基づき、弱気を助けるために赴いた。

私は信じている。

彼が私を信じて愛してくれているから。

ーーー

ガタンッ

彼が戦へと赴いてから約3ヶ月。

深夜、戸が軋む音がし目を覚ます。

月夜に照らされてこの3ヶ月間恋焦がれた人物が浮かび上がる。

『おかえり、、なさいませ。』

涙も拭かずに彼に思い切り抱きついた。

『ああ、今、帰った。』

2人抱きしめ合いながら。

彼はいつもの厳格な顔で私を見下ろしている。

嗚呼、、幸せ。

ーー

目が覚める。

『夢、、、』

着物の裾を破れるくらいに握った。

やっぱりだ。

やはりあの呪いの言葉は私を苦しめる。

彼はもう帰って来ない。

まだ闇夜に包まれている時刻。

『、、、』

私の背後には、憎たらしいほどに輝く満月が。

『月見ればちぢにものこそ悲しけれ わが身一つの秋にはあらねど』

あの人を思って唄を読む。

もう2度と帰って来ない、あの人を思って。

Next