駄作製造機

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【怖がり】

『ほらー、早く来なよ!』

俺の手を引く小さな小さな手。

顔は見えない。もう何十年も前のことだからきっと、、覚えてない。

俺は子供の姿のまま、彼女に手を引っ張られている。

彼女は、、彼女の名は、、

ーー

ピピピピッピピピピッ

何とも、不思議な夢を見た、、気がする。

全部曖昧に、断片的にしか思い出せないが、懐かしい夢を見ていた。

朝。

まだ5時半。

睡眠時間、約2時間。

家を出るのは6時。

そこから始発で電車を乗り継いで、会社に行く。

『こんなことも出来ないのか!!使えねぇ無能だな!』

『すみません。』

『これ終わるまで帰るな!』

『はい。』

上司からの叱咤激励も日常になり、残業手当ても出ない。

そう。いわゆるブラック企業ってやつだ。

入社したての頃は上司も、社長もみんな優しくしてくれた。

一緒に入社した同僚は此処がブラック企業だとわかれば、スタコラさっさと辞めていった。

俺もその流れに乗って辞めようとした。

けれど、、

『お願いだ、君がいないと此処が回らないんだ!』

『君にかかってるんだ!』

優しい優しい上司達の引き止めにあい、入社3年目、未だ此処に止まっている。

なーんて、、こんなのただの言い訳。

ただ、俺が臆病だから。

昔っから、俺は危機を察知できる子供だった。

いや、ただ単に怖がりだった。

鉄棒が怖い、暗闇が怖い、お化けが怖い、キノコが怖い。

何でもかんでも怖がって遠ざけていた。

でもある時、近所に住んでいた小さな女の子に言われた。

『だっさ。』

と。

その一言が俺の言葉に刺さったし、何だか悲しくなった。

でもその女の子は、その悪口だけで済ませようとせず、殻に閉じこもっていた俺を外に連れ出してくれた。

たくさん、いろんなことに挑戦した。

動物が怖いと言えば、次の日ふれあいコーナーへ連れて行かれた。

虫が怖いと言えば、舗装も何もされてない天然物の山へ投げ込まれた。

お化けが怖いと言えば、近所の出ると有名な心霊スポットへ行ったりもした。

俺は最初、俺の嫌いな事を平然とやって俺にも強要してくるその子が心底嫌いで仕方がなかった。

けれど、登山をした時、息切れしながらも頂上へ辿り着いた。

その時に見た山頂の夕日が、今までで1番美しくて、何故か涙が出て来た。

その時俺は、達成感というものを知った。

怖がらずに、挑戦したらいい事もある。

もし、それが上手くいかなくっても、大丈夫。

『好きなだけ怖がったら、次する事は決意だよ。』

その子は、泣いている俺に向かって笑いかけた。

年相応に見えない言葉が印象的だった。

ーー

4時半。

いつもの時間に起きて、寝不足の頭のまま会社に行く。

でも不思議と眠たいのに俺の意識はハッキリしていた。

『、、決意、、しなきゃね。』

もう名前も思い出せないけれど、その子の言葉は俺の中にある。

怖がりな俺を、少しだけ変えてくれた勇気の言葉。

『『好きなだけ怖がったら、次は決意をする。』』

ギュッと懐にしまった辞表を握りしめた。

3/16/2024, 10:33:17 AM