駄作製造機

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【不条理】

パァン!

広い広い部屋に、軽快なほどに響く音。

綺麗に掃除してあり、照明を反射している大理石の床に、小さな男の子が蹲る。

少年が蹲る傍らに息を切らして佇むのは、彼の母親だろう女性。

先程の音は彼女が少年を平手打ちした音だ。

少年は泣きそうな顔で母親を見上げ、憎しみの目へと変える。

『、、な、何よその目は!』

パァン

また少年に平手打ちをする母親。

気が済むまで叩かれ殴られた少年はその場にとどまり、バタバタと出て行った母親をずっと見つめていた。

『、、、、』

少年はそのまま与えられた自室へと戻る。

簡素な部屋。

全てが白く、少年の心を揺さぶる様な仮面ライダー、漫画の類いは一切存在していない。

彼の母親が、彼を縛っているのだ。

夫に別れを告げられ、女手一つで少年を育てる彼女は、母親としての自覚と共に、"出来の良い息子を1人で育てた"という思想もついてしまった。

そんな彼女に英才的教育を受けている彼の人生は、実に不条理であった。

少年は齢8歳にして自分の意義を見失い、人生に何の意味も持てなくなっていた。

ーーー

バサァ、、

鳥が羽ばたく様な音がした。

でもそれは遠くじゃなくて、もっと僕の近くでだ。

泣き疲れて眠った目をこすりながら体を起こすと、其処は自分の部屋だった。

けど、、僕の部屋ではないみたいに、鮮やかな羽が存在していた。

『起きた?』

突然聞こえたソプラノの様な美声。

僕は慌てて起きて正座をした。

僕が寝ていたベッドの端には、綺麗な羽に埋もれる様に白いワンピース着た女の子がいた。

その子の目は図鑑で見た地球の様な色で、地球より美しかった。

金髪は太陽より輝いていて、頭の上には星が舞っている。

『き、、君は、、?』

恐る恐る聞けば、女の子は優しく微笑みかけて、僕に言った。

『私はバク。君の悪い夢を吸い取る魔獣さ。』

バク、獏。

聞いた事がある。

中国の霊獣で、悪夢を見たら覚めた時にバクに夢を食べてくれる様願うと。

それで同じ悪夢は2度と見なくなるし、快適な睡眠を取れるって、、

『僕、、夢なんか見てない。』

最近はあまり眠れてない。

夢なんて人生で1番見ないだろう。

『ううん。違うよ。いい?私が、あの"悪夢"を吸い取ってあげるんだ。』

目の前で屈託のない笑みを浮かべる女の子は、相変わらず天使の様に綺麗だった。

背中に背負っている羽はいろんな色が綺麗に混ざり合っ
たやはり部屋に似合わぬものだった。

『悪夢、、アイツを吸い取ってくれるの?』

自分の見栄ばかり気にして、僕に完璧を求めて来るアイツが、僕は死ぬほど嫌いだ。

『ああ。約束するよ。小さい少年。』

少年をベッドに再度寝かせ、少女はベッドに腰掛けて少年を頭を優しく撫でた。

『大丈夫。ゆっくりおやすみ。』

少年はうつらうつらと瞼を閉じ、部屋を静寂が包んだ。

『ただし、、君が目を覚ました時、お母さんは存在してないよ。だって其処は、、君だけの桃源郷なのだから。』

バクは夢を食べる。

でも、、稀に夢を見させる個体も存在する。

彼女の羽から鮮やかな色彩が抜け、少年の額に入っていく。

『ああ、、良い顔だ。』

少女はニコリと笑い、もう呼吸をしていない少年に触れるだけの口付けをした。

いたいけな小さな少年は、自らこの不条理な人生からの脱却を選択した。

3/18/2024, 10:43:48 AM