駄作製造機

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3/3/2024, 11:32:19 AM

【ひなまつり】

バタバタ

『たっだいま〜!』

午後4時半。

私は学校から帰る。

『おかえり!』

家には既に小学生の弟と2歳の妹が居間で遊んでいた。

『たでーま。お母さんは?』

続けて帰って来たのは中1の弟。

『あー、、今日も遅くなるみたい。』

『ふーん。』

私達は母子家庭で育っている。

毎日母親がいないのは当たり前で、長女の私が1番しっかりしないといけない。

『今日何が食べたい?』

『肉ー!』

『はーいもやし炒めね。偉いね勇将。』

『言った意味!』

弟の意見を聞かなかったことにし、弟の頭を撫でて料理に取り掛かる。

『むー、、』

『克平、茉里の面倒見ててくれる?』

『おーす!』

料理の間はみんなで協力する。

勇将には学校の課題をしてもらい、後から茶碗洗い。

克平は茉里と一緒に遊んで茉里から目を離さないようにしてもらう。

私が母親代わりだから、弟達もわがままを言いたい歳なのに大人になっている。

私がしっかりしないと。

『さ、出来上がり。いただきますするよー。』

『はーい。』

ちゃぶ台を囲んでみんなでもやし炒めと昨日作った低コストなおからの炒め物を食べる。

『食べ終わったら、勇将茶碗洗いお願いしますね。』

『うぃーっす。』

食べ終わった後は妹からお風呂に入らせる。

『う〜!お風呂やーだ!』

『こら、ヤダじゃないでしょ!ほら、早く入らないと克平にぃと遊べなくなるよ?』

駄々をこねる妹を動かすのにもかなり苦労する。

『こら、暴れないの!』

『わーい!あわあわ!あわあわ!』

シャンプーが目に入らないようにシャンプーハットをつけようとするのにも時間がかかる。

妹よ、、落ち着け、、

あがらせた後も時間がかかる。

『濡れてるから走らないでー!』

『うぉー!!』

ビチャビチャのまま床を走り回る茉里。

私はタオルを持ってワイシャツ姿のまま追いかける。

『茉里確保ー!』

そんな時に助かるのは長男の勇将の存在。

『ああ、ありがとう勇将。』

『ん。姉ちゃん茉里は俺が見てるから、克平の宿題見てやってくれ。』

勇将に重ね重ねお礼を言いながら居間へと急ぐ。

そこには撃沈している克平がいた。

『ほら、克平、さっさと終わらせてお風呂入って寝るよ。』

克平に宿題を教えながら明日の夕食を考える。

下の子達をお風呂に入らせた後は自分も入り、妹を寝かしつける。

『ねーんねー、ねーんねー、いい子だよー。』

寝た茉里を確認したら克平と勇将も寝かせる。

みんなが寝ているのを確認し襖を閉め、時計を見たらもう11時だ。

『ふー、、疲れた。』

ちゃぶ台に突っ伏し、静かな室内で今日の出来事を振り返る。

ガチャ

しばらくしてからお母さんが帰ってきた。

『おかえり。』

『ただいま〜今日もありがとね。』

お母さんは強い。

少し寝たらまた早朝に起きて仕事に行ってしまう。

母と話せる少ない時間を、寝て過ごすわけにはいかない。

『今日ね、学校でね、、』

お母さんは疲れてるのに、頷きリアクションしながら聞いてくれる。

『春陽、今日は何の日か知ってる?』

もしかして、誰かの記念日だった?

茉里の誕生日でもないし、克平の誕生日でもない、勇将の日でもないし、、

『わかんない、、』

『今日は、3月3日ひなまつりだよ。お姉ちゃん、いつもお母さんの代わりをしてくれてありがとね。』

そう言って渡してくれたのは小さいけれども可愛いお代理様とお雛様。

『、、うん。』

堪えてくる涙を唇を噛み締めて抑えながら、何とも愛らしい2つの人形を見つめる。

『これからも健やかな成長と健康を願ってるよ。』

久しぶりのお母さんのハグは、暖かかった。

寒かった私の体と、愛に飢えていた心を母は溶かし包んでくれる。

『ひなまつりは、お姉ちゃんの日だよ。』

今までずっと、頑張らなきゃと思って来た。

何でも、しっかりしとかないとダメだって。

『この日はお姉ちゃんは何もしなくていい。大丈夫。勇将達が支えてくれるからね。よく頑張ってくれたね。』

私にとってひなまつりって、実感がなかった。

だって私の家には雛人形なんて無いし、毎日毎日バタバタ忙しいからいつのまにか終わってるなんて事もザラにある。

でもこれからは、私のひなまつり。

3月3日は、ひなまつり。

お姉ちゃんのひなまつり。

3/2/2024, 12:07:27 PM

【たった1つの希望】

20X X年。

5年前に政治が崩壊してからの日本は、廃れていた。

物価高、政治家の暴走。

日本経済は地に落ちたまま回復することはなく、むしろ悪い方向へと進んでいった。

それでも国民達は知らないフリをし、顔すら見えないSNSで政治家を叩く。

そんな中、千葉県在住の1人の会社員は冴えない毎日を過ごしていた。

『はぁっ、、物価高でトイレットペーパーもろくに買えねえよ、、』

ベッドにダイブし、タプタプとスマホに何かを打ち込む。

"物価高で生活必需品もろくに買えねえ。世の中クソ。"

Twitterにつぶやきを投稿し、男は寝落ちした。

ピコンッ

深夜、彼のスマホが人知れず鳴った。
アイコンはTwitterだった。

ーーーーー

ピピピピッ

スマホのアラームを半醒半睡のまま止める。

『ぐああぁっ、、キツイ、』

何とか立ち上がり、布団を機敏に畳む。

目向け覚ましのコーヒーとニュースをつける。

今日も今日とて、政治家いじりか、、

コメンテーターの煽ったような口調に苦笑いを浮かべながら、パンとコーヒーを飲む。

そして満員電車に揉まれながらも会社へ。

俺は何気ない日常をすごすただの会社員だ。

そう、、会社員のはずだった、

朝、エレベーターに乗った瞬間からいやーな予感がしていた。

何か俺にとって良くないことが起こるのを肌で感じた。

案の定、いつもの席に座ろうとした時、上司に呼ばれた。

嫌な予感はMAXに達した。

会議室。

外の喧騒が微々聞こえ、鼓動音も増していく。

会議室はシンと静まり返っている。

1人仕事を普通にやっている会社員の俺と、1人人事部の上司。

瞬間、俺は全てを悟り絶望した。

ーー

1人、昼に会社を出る。

手にはダンボール。

最悪なタイミングとしか言いようがないだろう。

俺は会社を首になった。

経費削減のため解雇されたのだ。

『クソッ、、』

今あるのは、何で俺が!という自信ある人が言う言葉じゃなく、嗚呼やっぱこうなるか。みたいな客観的な思考だった。

俺は普通の会社員。

営業部のエースじゃないし、位が高い上司でもない。

切り捨てられるのは当然。

虚しくなり、公園のベンチでスマホを開く。

1件の通知が来てる事に気づき、Twitterを開く。

昨日投稿した何気ない言葉に、返信が来ていた。

"じゃあお前が世の中変えろよ。どうせできねえくせにネットでイキんな。"

よくあるコメント。

ネットではあるよ。こういう正義感ぶった人のコメントが。

わかってる、頭の中では。

でも、、見るタイミングを完璧に間違えた。

今じゃなかった。

心ないコメントは、俺の心にズッシリとのしかかった。

家に帰り、着替えずにスーツのままベッドにダイブする。

さすがにアパートだから暴れるのは良くない。

枕に顔を埋めながらバタバタと叫ぶ。

そして俺はそのまま寝落ちしていた。

ーーー

朝。

久しぶりに昼過ぎに起きた。

特にやることがなく、お風呂に入って昼食をとった。

突然の解雇に現実が受け入れられないのか?

いや、頭はいたって冷静。

テレビをつける。

あっているのは選挙報道だった。

もうやらなくていいだろ。

クソみてえな政治家しか集まらねえんだからよ。

そう思いつつ、頭の隅ではあのコメントがループしている。

日本政治を立て直すのは、今しかないのか?

かといって、俺にそれができるのか?

中はんかな気持ちで務まるわけがない。

でも、、やらないよりマシじゃないか?

中3の県予選大会、俺はバスケ部に所属していた。

点差は一向に縮まらず、スタミナももう限界。

そんな時、監督が俺達に言った。

『おいお前ら!もうへばるつもりか!出し切らないで負けるのと出し切って負けるのでは違うんだぞ!!』

結局、俺達は予選で敗退したけれど、高校受験の時も、
大学受験のときも、監督の言葉を胸に頑張って来た。

そうだ。

やらない後悔よりやって後悔だろ。

あのコメント主をギャフンと言わせてやる!!

俺の胸に、小さな炎が宿った。

彼は衰退してしまった政治を立て直す、たった1つの希望だ。

立候補してくる輩はおふざけ系YouTuberや真面目にやってない者ばかり。

彼が、希望だ。

そんな彼の波乱な第二の人生が、幕を開けた。

3/1/2024, 11:43:15 AM

【欲望】

ふと理性戻れどもう遅く。
それ即ち欲望なり。

何処かの詩人が書き残すほど欲というものは自制が効かないものらしい。

僕の目の前にいるこの人も、欲まみれなのかな。

なーんて、頬杖つきながら考える。

国語の先生が黒板に丁寧な漢字を書きながら、クラスメイトは何かを懸命に写している。

何気ない授業風景。

外では心地いい風が吹き、僕の重くかかった前髪を弄ぶ。

目の前で揺れるダイヤ型のピアス。

そして見るだけでもうるさそうなバッチバチの金髪。

そして寝ているのか、規則正しく上下している肩。

彼が突っ伏して寝ていても黒板が見えないほどに低身長な僕は、いつも体を横にのけ反らせながら板書をする。

僕はよく晴れた日は窓の外から空を見るのが好きだ。

空を見ていたら、何処にでも飛び立てそうでワクワクする。

どうして空は青いのか、なんで雲は綿飴みたいなのか、雲と空が織りなす地球ができた時からの当たり前の光景を、僕はひたすらに考える。

空が青いのは、神様が空を作る時に青の絵の具をこぼしちゃったからかな?

雲が綿飴みたいなのは、事実雲=綿飴で、神様達の小休憩のおやつだからかな?

理科的に習ったことでも、僕は妄想をしてボーッとすることが好きだ。

授業が終わるまで、ただひたすらに空を見ていた。

ーーーーーー

キーンコーンカーンコーン

『起立。礼。』

『ありあとあしたー。』

先生が出て行ったら、そこはもう無法地帯。

僕は人にぶつからないよう上手く避けながら廊下へと避難する。

騒がしい教室の音が遠ざかっていく。

僕は一息つきながら屋上への階段を登る。

『、、次の授業まで後10分あるな、、』

屋上の扉に立てかけてある立ち入り禁止の看板を無視し、軋む扉を開けて満開の空の元へと躍り出る。

『綺麗、、』

大きく息を吸い、吐く。

春特有の暖かい風が、僕のストレスを軽減してくれる。

春は、、何かこう、言い表せないけれど良い。

僕は季節の中で1番春が好きだ。

虫や花粉症などの心配もあるけど、何より春は心地がいい。

『、、、さぼろっかなぁ。』

屋上のコンクリートで寝転がり、視界いっぱいの青空を見つめる。

視界の端では雲が流れ、僕はそれをただひたすらにボーッと眺める。

ガチャ

『お?』

、、、僕の何気ないいつもの風景は、突如現れた眩しくうるさいほどの金髪により乱された。

『なんだ、お前もサボりか?』

『、、違う、、けど、もぅ面倒だからサボる事にする。』

彼はガハハハッと笑い、寝ている僕の隣へ寝転がる。

『なぁ。』

『何?』

『空って綺麗だよな。』

『、、、、そうだね。』

彼の空を見る目は、ギラギラとした野望と信念を持っているように見えた。

『俺、将来空が何で青いのか解明するんだ。』

『、、空が青いのは科学的に証明されているよ。』

ガッカリする彼。

意外と喋れてる自分にもビックリするし、いつもは怖い印象の彼だけどこんなにも話しやすい雰囲気なのかと思った。

『、、あのさ、』

『んぁ?』

『次も、此処来てもいい?』

彼に言えば、彼はニッカリと太陽のように笑った。

まるで、青い空に合うような眩しい太陽のように。

ーーー
俺の後ろの席にいるヤツは、とても小さかった。

俺は昔から欲しい物はなんでも手に入れて来た。

幼稚園の頃も同じオモチャを容赦なく奪い取り、先生までも配下に収めた。

俺には確かなカリスマ性と、絶対の力がある。

『俺が欲しいと言えば従え。』

誰もこの言葉に意を唱えなかった。

そして俺は今、空を見ている後ろのやつに興味を抱いている。

空を見上げているソイツの顔が、酷く哀愁的で綺麗だったからだ。

欲しい。

次の瞬間にはそう思っていた。

ソイツがいつも行くのは屋上だと知っていた。

後をつけて、ソイツが見上げている空を俺も見上げる。

空が羨ましかった。

だってソイツの綺麗な顔を独り占めできているから。

俺は手に入れる。

欲深いから。

ーーーー

しばらく彼の話すようになって、自然と趣味も合う。

僕は益々彼に惹かれていった。

『あの、、僕、君と話してたら心臓らへんが痛いんだ。僕、、どうかしちゃったのかな?』

彼は鈍感だと、、、そう、思っていた。

だって、単細胞生物は脳も単純だっていうから、、このくらいではわからないと思って、、

そのような言い訳ももう遅い。

僕は気づいたら彼に押し倒されていた。

彼は僕を熱の籠った目で見つめて、僕を抑えている手に力を込める。

『、、欲しい、、』

彼はそれしか言っていない。

嗚呼、これが、、欲望。

僕は詩人の言うことが何となく、わかった。

2/25/2024, 10:48:11 AM

【物憂げな空】

主人様。貴方が私を作ってくれたその日から、貴方に尽くすと誓いました。

『これでよし!さぁ、主人様と呼んでごらん?』

目を瞬かせると目の前には白衣を着た男がいました。

『あ、主人、、様、、』

『成功だ!やったやった〜!』

私の軽い体を持ち上げて喜ぶ貴方。
その姿はとても幼い子供のようでした。

『いい?今から君の名前はコル・カリダ!戦闘兼主人様専用メイドだよ!』

コル・カリダ、、私に名前を与えてくださいました。

カラ、カラカラ、

私の体に内蔵されている歯車が大きく聞こえた気がしました。

『、、よ、よろしくお願いします。主人様。』

私は主人様により作られたビスクドール。

カラクリ機械だらけのこの屋敷を守る家事兼戦闘用メイド。

役割を理解し、主人様を支える。
私はそのために作られた人形なのだ。

ーーーー

最初の仕事は主人様の身の回りの世話。
食事作りと皿洗い、洗濯物などの家事全般。
島と屋敷の護衛。

主人様の研究のお手伝い。

主人様は私とおしゃべりをよくされます。

何が楽しいのか聞いてみたところ、

『何って、、楽しいものは楽しいに決まってるじゃないか!僕はね、君が生まれて来てくれて嬉しいんだよ。ずっと1人で、孤独だったから。でも誰でもいいってわけじゃない。君だから、僕は話すのが楽しいんだ。』

ニコリと笑っておっしゃられました。

『そうですか。』

『だから、私なんかって言わない事!僕は、君とだから、何でも、楽しいの。』

わかった?と私の顔の前に人差し指を突き出す主人様。

『承知しました。』

主人様は満足したように笑いました。

ーーーーーー

それから、2年が経ちました。

相変わらず主人様は研究に没頭されています。
相変わらず私はそのお手伝いをさせていただいてます。

ある日、主人様は私に心というものがあるとおっしゃられました。

『心、、でございますか?』

『そ!僕は天才な研究者だからね!灯るはずのない物にも心を灯すことが出来るのさ!』

私は何が何だかまったくわかりません。

主人様はまだ私が理解してないだけ。とおっしゃられましたが、私はビスクドールです。

心もなければ、感情もないですし、体温も通っていないからくり仕掛けの人形です。

体内には歯車と人間の心臓となる魔法の核が埋め込まれていて、私の背中にはゼンマイがついています。

そう言ったのに、主人様はご意見を変更なさりませんでした。

『僕は君に心があると信じてるからね!』

とおっしゃられました。

私はいつか、己に心があると、わかる日が来るのでしょうか。

ーーーーーーーーーーーーー

主人様。

その瞬間は、今なのでしょうか。

割れたビーカー、溢れ出る薬品。
側に倒れる主人様。

『主人様!!』

急いで駆け寄り起こした主人様の顔は酷く青ざめており、私は人形ながらに主人様の死を確信しました。

その後、主人様はうんともすんとも言わなくなった。

ーーーーーーー

『主人様。今日の晩ご飯はクリームシチューにしましょうね。』

主人様はピクリとも動かない。
否、動けない。

『主人様、研究はもう、お休みですか?たまには良いかもしれませんね。』

主人様からは嫌な腐敗臭が漂っている。

わかっている。
私は天才な主人様より作られた、ビスクドールなのだから。

主人様はもう死んでいる。

そして今、目から出ているのは涙。

主人様が死んだ後に感情があると理解させられた。

何という皮肉。

カラカラと歯車の回る音はなく、トクトクと不可思議な音が体の中から聞こえる。

嗚呼、主人様。

私に心を与えてくれた貴方の心は動いていません。

私は今、主人様の笑顔が見えなくて、悲しんでおります。

目を覚ましてください。主人様。
笑顔を見せてください。主人様。
名前を呼んでください。主人様。

嗚呼、主人様。貴方はもう、私のそばにはいてくれない。

背中のゼンマイが、回るのをやめる音がした。

主人の側で倒れるビスクドールの瞳は、この世で最も美しかろう、夕焼けと夜の闇が生み出した物憂げな空が映っていた。

ーーーーーーーーーー
コル・カリダの名前の由来
コルはラテン語で心、カリダもラテン語で暖かいという意味。
いつか心が宿ると確信してやまなかった天才科学者がつけた、ビスクドールの名前。

2/24/2024, 2:12:52 PM

【小さな命】

バキィ!
ドガッ

暗く小さな路地裏に、骨と血肉の擦れる生々しい音がする。

『おらぁっ!!』

バキッ
ドサリ、、

相手が倒れ、立っている1人の男は荒い息を整えながら倒れた男を見下ろす。

『ッチ、、母ちゃんに怒られるじゃねえかよ。クソが。』

血のついた服を見ながら舌打ちをし、倒れている男を蹴飛ばす。

『テメェ、、覚えてろ、アニキが来ればお前なんか、、』

顔面を腫らした男は去って行こうとするヤンキーに苦し紛れの言葉を吐く。

男はピタリと立ち止まり、鋭く刺すような眼光を向ける。

『おい、、他人頼みかよ?みっともねぇなぁ。おい?』

男の髪の毛を掴み、顔を上げさせる。

『ぐっ、、コイツなんか、』

バキィ

『みっともねぇ。アニキ頼みなんか。』

ヤンキーは今度こそ気絶した男を一瞥し去った。

ーーー

『ただいま。』

ヤンキーが家に帰る。

『おかえり〜。』

パタパタとスリッパの音を響かせて出迎えるのはお腹を大きくしたヤンキーの母親。

手にはオタマを持っている。

『ッチ。おい、何料理してんだよ。休んでろよバカが。』

ヤンキーは母親のエプロン姿を見た瞬間、彼女からオタマを奪ってドスドスと家に上がる。

『あらぁ〜、、ありがとねー。』

そんなヤンキーを慈愛の目で見ながら、お腹の子をさする。

『ったく、、もうすぐ産まれるってのに。』

膨れっ面のままシチューかき混ぜる。

彼の名は眉坂黄麻。

ヤンキーのくせに道路に捨ててある猫を拾ってきてしまうという典型的な少女漫画でよく見るタイプの人間である。

『、、、明日か?』

『そうねぇ、、』

夜ご飯を食べた2人は、父の帰りを待ちながらお腹の中の子に話しかけている。

『明日産まれてくるか?あ?』

恐ろしい声だが、お腹の中の子を見つめる顔はもうお兄ちゃんだ。

『あら、、こうちゃん、今日もケンカしてきたの?』

『げっ、、』

母親が血のついた彼の服を見て尋ねる。

『、、、だってアイツらが先に、その、、』

『ダメだって言ってるじゃない。』

母親の今まで柔和だった顔が、途端に鬼のような形相になる。

『ひっ、、ごめんなさい、、』

『この前洗濯した制服なのよ?まったく、、』

母親が心配していたのは服だった。

ガチャ、

『ただいまー。』

サラリーマンの父親がリビングへ入ってくる。

『おかえり。あなた。』

『ああ。』

あと1日。

彼の妹が生まれるまで、あの1日。

ーーーー

オギャア!オギャア!!

俺は今日、小さな命と立ち会っている。

お母さんが頑張って産んだ、小さな小さな命。

俺は昔から一重で、何故か目つきが悪かった。

だから誤解されることも多くて、舐められないように荒れていた。

でも、今この瞬間だけは、舐められないようにもっと鋭くしていた目つきが、柔らかくなっていた。

指を差し出すと反射で握ってくる強くてふくふくとした小さな手。

俺の中に命がある。

産まれた時からずっと、死ぬまで俺が妹を守ろう。

妹の手を握りながらそう思った。

ーーーー

『お兄ちゃん!今日暇ー?』

『あ?おお。暇だ。』

『ちょっとショッピング付き合って?』

『何処まで?』

俺は妹のためなら何でもできる。

だってこんなに可愛いのだから。

あの日。

俺は小さな命を見た。

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