【物憂げな空】
主人様。貴方が私を作ってくれたその日から、貴方に尽くすと誓いました。
『これでよし!さぁ、主人様と呼んでごらん?』
目を瞬かせると目の前には白衣を着た男がいました。
『あ、主人、、様、、』
『成功だ!やったやった〜!』
私の軽い体を持ち上げて喜ぶ貴方。
その姿はとても幼い子供のようでした。
『いい?今から君の名前はコル・カリダ!戦闘兼主人様専用メイドだよ!』
コル・カリダ、、私に名前を与えてくださいました。
カラ、カラカラ、
私の体に内蔵されている歯車が大きく聞こえた気がしました。
『、、よ、よろしくお願いします。主人様。』
私は主人様により作られたビスクドール。
カラクリ機械だらけのこの屋敷を守る家事兼戦闘用メイド。
役割を理解し、主人様を支える。
私はそのために作られた人形なのだ。
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最初の仕事は主人様の身の回りの世話。
食事作りと皿洗い、洗濯物などの家事全般。
島と屋敷の護衛。
主人様の研究のお手伝い。
主人様は私とおしゃべりをよくされます。
何が楽しいのか聞いてみたところ、
『何って、、楽しいものは楽しいに決まってるじゃないか!僕はね、君が生まれて来てくれて嬉しいんだよ。ずっと1人で、孤独だったから。でも誰でもいいってわけじゃない。君だから、僕は話すのが楽しいんだ。』
ニコリと笑っておっしゃられました。
『そうですか。』
『だから、私なんかって言わない事!僕は、君とだから、何でも、楽しいの。』
わかった?と私の顔の前に人差し指を突き出す主人様。
『承知しました。』
主人様は満足したように笑いました。
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それから、2年が経ちました。
相変わらず主人様は研究に没頭されています。
相変わらず私はそのお手伝いをさせていただいてます。
ある日、主人様は私に心というものがあるとおっしゃられました。
『心、、でございますか?』
『そ!僕は天才な研究者だからね!灯るはずのない物にも心を灯すことが出来るのさ!』
私は何が何だかまったくわかりません。
主人様はまだ私が理解してないだけ。とおっしゃられましたが、私はビスクドールです。
心もなければ、感情もないですし、体温も通っていないからくり仕掛けの人形です。
体内には歯車と人間の心臓となる魔法の核が埋め込まれていて、私の背中にはゼンマイがついています。
そう言ったのに、主人様はご意見を変更なさりませんでした。
『僕は君に心があると信じてるからね!』
とおっしゃられました。
私はいつか、己に心があると、わかる日が来るのでしょうか。
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主人様。
その瞬間は、今なのでしょうか。
割れたビーカー、溢れ出る薬品。
側に倒れる主人様。
『主人様!!』
急いで駆け寄り起こした主人様の顔は酷く青ざめており、私は人形ながらに主人様の死を確信しました。
その後、主人様はうんともすんとも言わなくなった。
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『主人様。今日の晩ご飯はクリームシチューにしましょうね。』
主人様はピクリとも動かない。
否、動けない。
『主人様、研究はもう、お休みですか?たまには良いかもしれませんね。』
主人様からは嫌な腐敗臭が漂っている。
わかっている。
私は天才な主人様より作られた、ビスクドールなのだから。
主人様はもう死んでいる。
そして今、目から出ているのは涙。
主人様が死んだ後に感情があると理解させられた。
何という皮肉。
カラカラと歯車の回る音はなく、トクトクと不可思議な音が体の中から聞こえる。
嗚呼、主人様。
私に心を与えてくれた貴方の心は動いていません。
私は今、主人様の笑顔が見えなくて、悲しんでおります。
目を覚ましてください。主人様。
笑顔を見せてください。主人様。
名前を呼んでください。主人様。
嗚呼、主人様。貴方はもう、私のそばにはいてくれない。
背中のゼンマイが、回るのをやめる音がした。
主人の側で倒れるビスクドールの瞳は、この世で最も美しかろう、夕焼けと夜の闇が生み出した物憂げな空が映っていた。
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コル・カリダの名前の由来
コルはラテン語で心、カリダもラテン語で暖かいという意味。
いつか心が宿ると確信してやまなかった天才科学者がつけた、ビスクドールの名前。
2/25/2024, 10:48:11 AM