駄作製造機

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【小さな命】

バキィ!
ドガッ

暗く小さな路地裏に、骨と血肉の擦れる生々しい音がする。

『おらぁっ!!』

バキッ
ドサリ、、

相手が倒れ、立っている1人の男は荒い息を整えながら倒れた男を見下ろす。

『ッチ、、母ちゃんに怒られるじゃねえかよ。クソが。』

血のついた服を見ながら舌打ちをし、倒れている男を蹴飛ばす。

『テメェ、、覚えてろ、アニキが来ればお前なんか、、』

顔面を腫らした男は去って行こうとするヤンキーに苦し紛れの言葉を吐く。

男はピタリと立ち止まり、鋭く刺すような眼光を向ける。

『おい、、他人頼みかよ?みっともねぇなぁ。おい?』

男の髪の毛を掴み、顔を上げさせる。

『ぐっ、、コイツなんか、』

バキィ

『みっともねぇ。アニキ頼みなんか。』

ヤンキーは今度こそ気絶した男を一瞥し去った。

ーーー

『ただいま。』

ヤンキーが家に帰る。

『おかえり〜。』

パタパタとスリッパの音を響かせて出迎えるのはお腹を大きくしたヤンキーの母親。

手にはオタマを持っている。

『ッチ。おい、何料理してんだよ。休んでろよバカが。』

ヤンキーは母親のエプロン姿を見た瞬間、彼女からオタマを奪ってドスドスと家に上がる。

『あらぁ〜、、ありがとねー。』

そんなヤンキーを慈愛の目で見ながら、お腹の子をさする。

『ったく、、もうすぐ産まれるってのに。』

膨れっ面のままシチューかき混ぜる。

彼の名は眉坂黄麻。

ヤンキーのくせに道路に捨ててある猫を拾ってきてしまうという典型的な少女漫画でよく見るタイプの人間である。

『、、、明日か?』

『そうねぇ、、』

夜ご飯を食べた2人は、父の帰りを待ちながらお腹の中の子に話しかけている。

『明日産まれてくるか?あ?』

恐ろしい声だが、お腹の中の子を見つめる顔はもうお兄ちゃんだ。

『あら、、こうちゃん、今日もケンカしてきたの?』

『げっ、、』

母親が血のついた彼の服を見て尋ねる。

『、、、だってアイツらが先に、その、、』

『ダメだって言ってるじゃない。』

母親の今まで柔和だった顔が、途端に鬼のような形相になる。

『ひっ、、ごめんなさい、、』

『この前洗濯した制服なのよ?まったく、、』

母親が心配していたのは服だった。

ガチャ、

『ただいまー。』

サラリーマンの父親がリビングへ入ってくる。

『おかえり。あなた。』

『ああ。』

あと1日。

彼の妹が生まれるまで、あの1日。

ーーーー

オギャア!オギャア!!

俺は今日、小さな命と立ち会っている。

お母さんが頑張って産んだ、小さな小さな命。

俺は昔から一重で、何故か目つきが悪かった。

だから誤解されることも多くて、舐められないように荒れていた。

でも、今この瞬間だけは、舐められないようにもっと鋭くしていた目つきが、柔らかくなっていた。

指を差し出すと反射で握ってくる強くてふくふくとした小さな手。

俺の中に命がある。

産まれた時からずっと、死ぬまで俺が妹を守ろう。

妹の手を握りながらそう思った。

ーーーー

『お兄ちゃん!今日暇ー?』

『あ?おお。暇だ。』

『ちょっとショッピング付き合って?』

『何処まで?』

俺は妹のためなら何でもできる。

だってこんなに可愛いのだから。

あの日。

俺は小さな命を見た。

2/24/2024, 2:12:52 PM