駄作製造機

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【ひなまつり】

バタバタ

『たっだいま〜!』

午後4時半。

私は学校から帰る。

『おかえり!』

家には既に小学生の弟と2歳の妹が居間で遊んでいた。

『たでーま。お母さんは?』

続けて帰って来たのは中1の弟。

『あー、、今日も遅くなるみたい。』

『ふーん。』

私達は母子家庭で育っている。

毎日母親がいないのは当たり前で、長女の私が1番しっかりしないといけない。

『今日何が食べたい?』

『肉ー!』

『はーいもやし炒めね。偉いね勇将。』

『言った意味!』

弟の意見を聞かなかったことにし、弟の頭を撫でて料理に取り掛かる。

『むー、、』

『克平、茉里の面倒見ててくれる?』

『おーす!』

料理の間はみんなで協力する。

勇将には学校の課題をしてもらい、後から茶碗洗い。

克平は茉里と一緒に遊んで茉里から目を離さないようにしてもらう。

私が母親代わりだから、弟達もわがままを言いたい歳なのに大人になっている。

私がしっかりしないと。

『さ、出来上がり。いただきますするよー。』

『はーい。』

ちゃぶ台を囲んでみんなでもやし炒めと昨日作った低コストなおからの炒め物を食べる。

『食べ終わったら、勇将茶碗洗いお願いしますね。』

『うぃーっす。』

食べ終わった後は妹からお風呂に入らせる。

『う〜!お風呂やーだ!』

『こら、ヤダじゃないでしょ!ほら、早く入らないと克平にぃと遊べなくなるよ?』

駄々をこねる妹を動かすのにもかなり苦労する。

『こら、暴れないの!』

『わーい!あわあわ!あわあわ!』

シャンプーが目に入らないようにシャンプーハットをつけようとするのにも時間がかかる。

妹よ、、落ち着け、、

あがらせた後も時間がかかる。

『濡れてるから走らないでー!』

『うぉー!!』

ビチャビチャのまま床を走り回る茉里。

私はタオルを持ってワイシャツ姿のまま追いかける。

『茉里確保ー!』

そんな時に助かるのは長男の勇将の存在。

『ああ、ありがとう勇将。』

『ん。姉ちゃん茉里は俺が見てるから、克平の宿題見てやってくれ。』

勇将に重ね重ねお礼を言いながら居間へと急ぐ。

そこには撃沈している克平がいた。

『ほら、克平、さっさと終わらせてお風呂入って寝るよ。』

克平に宿題を教えながら明日の夕食を考える。

下の子達をお風呂に入らせた後は自分も入り、妹を寝かしつける。

『ねーんねー、ねーんねー、いい子だよー。』

寝た茉里を確認したら克平と勇将も寝かせる。

みんなが寝ているのを確認し襖を閉め、時計を見たらもう11時だ。

『ふー、、疲れた。』

ちゃぶ台に突っ伏し、静かな室内で今日の出来事を振り返る。

ガチャ

しばらくしてからお母さんが帰ってきた。

『おかえり。』

『ただいま〜今日もありがとね。』

お母さんは強い。

少し寝たらまた早朝に起きて仕事に行ってしまう。

母と話せる少ない時間を、寝て過ごすわけにはいかない。

『今日ね、学校でね、、』

お母さんは疲れてるのに、頷きリアクションしながら聞いてくれる。

『春陽、今日は何の日か知ってる?』

もしかして、誰かの記念日だった?

茉里の誕生日でもないし、克平の誕生日でもない、勇将の日でもないし、、

『わかんない、、』

『今日は、3月3日ひなまつりだよ。お姉ちゃん、いつもお母さんの代わりをしてくれてありがとね。』

そう言って渡してくれたのは小さいけれども可愛いお代理様とお雛様。

『、、うん。』

堪えてくる涙を唇を噛み締めて抑えながら、何とも愛らしい2つの人形を見つめる。

『これからも健やかな成長と健康を願ってるよ。』

久しぶりのお母さんのハグは、暖かかった。

寒かった私の体と、愛に飢えていた心を母は溶かし包んでくれる。

『ひなまつりは、お姉ちゃんの日だよ。』

今までずっと、頑張らなきゃと思って来た。

何でも、しっかりしとかないとダメだって。

『この日はお姉ちゃんは何もしなくていい。大丈夫。勇将達が支えてくれるからね。よく頑張ってくれたね。』

私にとってひなまつりって、実感がなかった。

だって私の家には雛人形なんて無いし、毎日毎日バタバタ忙しいからいつのまにか終わってるなんて事もザラにある。

でもこれからは、私のひなまつり。

3月3日は、ひなまつり。

お姉ちゃんのひなまつり。

3/3/2024, 11:32:19 AM