駄作製造機

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【バカみたい】

この世界は、この世界でいう異世界というものだった。

魔法が使え、そして魔物や魔族が存在する。

当然、魔物は人間に害を成すし、それを退治する冒険者もいる。

『ファンド・クラリー。お前を今日を持ってこのパーティから追放する!』

深い深い森の中。

銀の鎧を纏った金髪の冒険者。

相対する前に立つのは、黒髪の冴えない顔の軽装備冒険者。

他の仲間も彼を追放する事に何ら疑問も持たず、むしろいなくなって清々するといった感じだ。

『そんな、待ってくれよヒューズ!』

ヒューズと呼ばれた金髪の男はそんな必死の声も無視し、仲間達を引き連れて去って行ってしまった。

『そんな、、、あんまりだ、』

彼、ファンド・クラリーの職業はシューター。
俗にいう弓矢使いだ。

後方からの支援を主とし、隠密行動や狩りなども得意とする。

だが、ファンド・クラリーはそれらが苦手であった。

何をするにも昔から鈍臭かった彼は、冒険者という叶いもしないご大層な夢を掲げ、そして今に至る。

今まで仲間達はずっと我慢をしていた。

彼が起こす失態も、彼が本当に申し訳なさそうにしていたから怒るにも怒れなかったのだ。

『、、、俺が悪いか、、』

諦めたようにその場に三角座りをして、顔を埋める。

パーティのリーダーは先ほどの金髪男、ヒューズだ。

ヒューズは心優しい持ち主だった。

だが、先日彼の思い人であるルリアンがクラリーの過失で怪我をした。

それがトリガーになったのだろう。

昨夜から明らかにクラリーに対して態度が悪くなり、今回の解雇を言い渡す時も苦しそうだったが怒りの方が勝っていた。

『、、、俺が、、たくさん失敗したから、、』

"追放"というたった2文字の言葉は、彼の心を抉るのに十分であった。

その状態のまま、約3時間が経った。

ガサ、ガサガサ、、

夕暮れ。

魔物が活発化する時間が近づいてくる。

だがクラリーはその場から動かない。

近くの茂みが揺れ動いているのを察知したが、無気力に立ち上がり短剣を構えるのみ。

『、、いっそ、死んでしまおうか。』

ガサガサ、

ついにクラリーの前に魔物が飛び出してきた。

だが、その魔物は全身傷だらけであり、手負だった。

『、、メドゥーサ!』

見た者を石に変えるという蛇の頭をした魔物。

『くっ、、お前も石にしてやる!!』

メドゥーサが目をカッと見開く。

『うわあああぁ!』

思わず目を瞑ったが、体が石になる感覚はなかった。

『え、、?』

2人の間に沈黙が走る。

『、、はぁ、、』

『こ、殺せ!』

クラリーは腰につけているポーチから薬品を取り出す。

『ダメだよ。怪我してるじゃん。』

彼が取り出したのはポーションだった。

『な、何を、、』

メドゥーサは警戒して男の手を蛇の尾ではらう。

だが、クラリーは痛みに顔を顰めるが尚もポーションをメドゥーサにかける。

『大丈夫。俺は鈍臭いから、すぐ君に倒されるよ。』

弓と矢は男から離れている。

ナイフも、武器も何もかも取り外し、男は今丸腰だ。

メドゥーサは鋭い目をしていたが、攻撃するのはやめた。

ーーー

私は元は人間だった。

正しくは、魔物と人間を融合させたキメラだ。

私が生まれた時、村の奴らは私を気味悪がった。

"悪魔の子""忌子""生まれてきた事が大罪"

そんな言葉を投げられるうちに、私は段々とその通りの性格になってしまった。

人を疑い、攻撃し、遠ざけた。

『私は、、ニンゲン、、よ。』

自信を持って言えるわけがなかった。

何故なら、私の体は下半身が蛇だったから。

自分が人間だと説明するものも何もない。

私は世界から嫌われているんだ。

そう思って生きていた。

次第に森で暮らすようになった。

魔物にも人間にもなれない。

自分の洞窟を襲撃された。

命からがら逃げ出して、森の中を隠れ回った。

夕暮れ、1人の男がいた。

落ち込んでいるのか、人生終了いった顔で私を見た。

怖がらない人間は初めてだった。

汚物を見るような、殺気だった目。

人間の目は大嫌いだ。

だから早く石化してやろうとした。

けど効かなかった。

何故だ?

わからない。わからないけれど、、何故か涙が出た。

効かないなら仕方ない。

いっその事殺して欲しい。

だけど、、

『ダメだよ。怪我してるじゃん。』

男は私の拒絶をものともせずに、私に貴重なポーションを使った。

私はバケモノだ。

人間にも、魔物にもなりきれてない出来損ないのような存在なのに。

男は優しい顔で武器を置いた。

ついに溢れ出した涙が、私の頬を伝って蛇の足へと落ちていく。

『ど、え?どうしたの?』

目の前の冴えない男は慌てて困っている。

『グスッ、、バッカみたい、、』

私に優しくしても何もならない。

何の利益にもならないはずなのに、わかる。

この男は純情な心を持った優しくて天使のような者なのだ。

『バッ?!、、、君、名前は?』

『、、、アリー。貴方は、、?』

『俺はファンド・クラリー。バカで冴えない冒険者さ。』

私は出会ってしまった。

世界一お人好しで、冴えなくて、でも何故か守りたくなるようなこの男に。

ついに私もバカになったか。

人を信じる日が来るなんて、、、

『、、一緒に来ない?俺が守るよ。』

『フフッ、、ホント、バカ。冴えないくせに。』

私は数十年動かなかった表情筋が動く感覚がした。

これからも私たちはバカみたいなことをして、笑い合う。

そんな未来が見えていた。

3/22/2024, 11:36:55 AM