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2/22/2023, 11:56:21 PM



 君は『太陽のような』あたたかさの持ち主だ。大袈裟かな?雪が降り積もる川すらも凍る極寒の世界で育った俺にとって、君の温もり強くに惹かれてしまうのは当たり前。
 笑顔と鈴を転がす声は心に作った氷の壁をゆっくりと溶かして溶けきる頃は俺もつられて笑っているし、俺のことを案じて静かに触れる手のひらはじんわりと。それは窓から射し込む心地のよい陽の光に似ている。

「大の字に寝転がったらさぞや気持ちがいいんだろうね」
「干したての布団に寝転んでるあなたが言うの?」

 取り込んできたタオルを畳ながら君が言う。思っていたことが口からでていたみたいだ。
 とても心地よい。先ほどまで干されていた布団は外気を含んでヒヤリとしていたが陽光をめいっぱい受け、すで温い。詰め込まれた羽毛が布の中で生き返りふかふかした感触は微睡むにはうってつけだった。
 仰向けに腕を広げて「君もおいで」と誘えばすぐに来て、背中と正面でぬくもりを感じとった。

2/22/2023, 3:35:16 AM



「えっと、ここは…」
 見たことはあるけど読んだことがない文字と開いた本を交互に眺めては同じ形を探す。正解を見つけては丸を付け、意味を書き、他の使い方があれば付け足していった。見れども見れども記号が文字として結びつかず首を捻る。自国の文字はこんなにも読めるし、話せて、組み合わせて文章を作ることだってできるのに。
 手探りで学んでいるつもりが彼の故郷の吹雪にあったみたいに道が見えない。

 言葉に触れた経験が少なく、足りないのは明らか。

 彼の母国をもっと知りたくて、はじめに言語からと教本を手に取った。
 たまに彼の口からこぼれる言葉が何を意味してるのか知るにはちょうど良いと思ったけど…。それがわかるまではまだまだ先のよう。そもそも発音すらままならなかった。

 『0からの』挑戦は新しい発見と驚きを、無駄になるなんてことはないものの早く理解したくて使ってみたくて。

 いつか手紙や話した時にそれを披露して彼を驚かせることを目標に、彼の故郷の歌を噛み砕きながら翻訳してペンを走らせる。歌の旋律を知らない私は言葉の意味から捉えたイメージだけで口ずさみ、少しだけものにしたに気になっていた。

2/20/2023, 11:28:42 PM

 人の痛みに敏感な君は、はらはらと涙を流す。まるで自分の傷のようにひとつひとつ掬い上げてはのみ込んで。かわいそうや残念だと思うことはあるが君のように心全てを寄せることまでなんて俺には出来ない。

 優しい君の美点でもあり弱点でもある。ひとり生きていく中でも数えきれない、表現のしようがない思いをするのに他人の心にまで寄り添う君。繊細というとガラスのハートと例えがあがるが、いつかそのガラスが割れてしまうかもと考えるだけで気が気ではなくて、『同情』を寄せ続けている君をかき抱く。

 指先で払おうと光を受けた君の滴は、ガラスではなくダイヤモンドに見えた。やわらかに反射して、割れることはなく磨かれているんだと。だから壊れることなく尚優しくて。

「どうしたの?」
「何でもないよ」

 それをどうかすべての人へ向けるのではなく俺だけに向けて欲しいと願うのは身勝手だろうか。

2/20/2023, 3:32:16 AM

 
 青々とした色が完全に抜けきり茶色くなって風に吹かれていた。夏には太陽の光で葉脈まで見えていたのに今の葉は透けて見えるところなんてない。ほとんど枝しか残っておらず寒々しさが増しているけど、そのかわりに葉が一枚一枚落ちて別の意味で見通しが良い。

 見上げると枝の間から空がすぐ見える。根元を見るとこの木で育った葉が隙間なく敷き詰められていた。さくさくと、こ気味のよい音がする。

「乾燥してるもんね」
 私の指も潤いを失いカサついて、葉を拾い上げて曲げるとパキッと割れた。水分を含んでいただなんて信じられない。緑の時はしなやかに曲がっていたのに見た目も質感も変わりすぎてこの木で育った葉だとは思えなかった。
 水も色もなくした木はひどく寂しげに見えるけれど、近くで観察すれば幹に小指ほどの緑の葉が。

「ちっちゃい…!」
 小さな発見を四季が移ろう一欠片だなんて心踊らせて『枯葉』の絨毯を歩いていった。

2/19/2023, 8:56:04 AM

 
 くたくたになった体を引きずって浴槽に身を沈める。緊張が一気に和らいで浸かった瞬間に声が漏れた。
「はぁぁ…」
 お疲れ、俺。肩を軽く揉んでやる。今日の仕事も無事やり遂げた。食事は済ませてあるから後は髪と体を洗って、髪を乾かしながら明日の資料に軽く目を通しておかないと…。
「ふ、ぁ~」
 湯船が揺れて体が芯から温まり眠くなってくる。疲れも手伝っていて余計にまどろみから抜け出せない。
 やばいな…。このまま寝てしまっても言い気がする。うとうとしかけてそういえば明日、仕事が終わったら…終わったら…

「!」
 勢いよく立ち上がり、湯船がざぷんと大きく波打った。そうだった、明日は仕事終わりにデートの約束をしていたんだ!お互い忙しく細かい打ち合わせをなぁなぁにしていたため明日は目前。君のことだ、忙しい俺に遠慮して何も聞いてこなかったんだろう。こんな時、君が取る連絡方法は一つ。

 バスタオルを巻いてドアの郵便受けを開けると俺達に馴染み深い手紙が入っていた。嫌じゃなければ、と前置きがされて待ち合わせ場所と「お仕事お疲れ様。新しい服を買いました。明日着ていくのが楽しみです」と書いてあった。君って俺を元気にさせるのが上手だよね。
 再びお風呂に戻り、髪と体を洗って排水口へ流れる泡を見送った。日々の疲れはその日のうちにとっておかないと、君とのデートに疲れた顔は見せられない。

 今日の疲れと『今日にさよなら』。
 もし疲れがとりきれない時は君に癒して貰おうかな。


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